編集者になる その3

2000年代あたま、僕が中学生になった頃、
親がパソコンを買って、自宅でインターネットができるようになった。
電話回線から繋ぐやつだ。
もちろんgoogleはなくて、yahooやgooを検索エンジンとして使っていた。

僕は最初、yahooゲームでオセロをやったり、
flashアニメをみたり、
興味本位でアダルトサイトを巡ったりしていたのだけれど、
そのうち、個人が開設したテキストサイトが面白いことに気付いた。
当時あったものはもうほとんどなくなってしまったけど、
patoさんのnumeriなんか、ほんとに面白くてよく読んでいた。

そのなかでも、僕の中で面白さの殿堂入りをしているのが、
「ディズニー知ったかぶり講座」だ。
ディズニーを取り扱っているのに、1枚の写真もイラストもなく、
単色の背景に黒文字で書かれたテキストがひたすら連なっていた。

サイトの主なコンセプトは
「ディズニーランドを知らない男が、デートで行った時に知ったかぶるための知識、小ネタを伝える」というようなことだったと思う。
虚実入り混じって(というより、9割は虚)、
ディズニーランドを面白おかしく、ちょっとバカにしつつ取り扱いながら、
ディズニーを新しい切り口でぶった切って考察していくという、
その気持ち良さと面白さに、僕は笑い転げ、なんどもなんども読み返した。

それまで、ディズニーランドは、
ただ体験して、ただ楽しく享受するだけで、そこに意思はあまりなかった。
だけど「ディズニー知ったかぶり講座」の筆者は、
その文章によって、新たな切り口や視点、楽しみ方を与えてくれ、
また、文章そのものがエンターテイメントとして成立している。
これは、ちょっとすごいことじゃないかと思った。

好きなこと、面白いことを、面白い文章にして誰かに伝える。
「ディズニー知ったかぶり講座」の筆者みたいに、
僕も、そんな風になりたいと、
笑い転がされながらも、無意識に考え始めていたような気がする。

ところで、
「ディズニー知ったかぶり講座」はディズニーランドだけでなく、
筆者のディズニー映画のレビューも書かれていた。
小さい頃から『美女と野獣』や『アラジン』のビデオを繰り返し観て、
ディズニーアニメ大好き少年だった僕は、
サイトのテキストを読んで、やっぱり笑い転げながら、
でも、「これなら自分も書けるかもしれない」と考えた。

僕が中学3年生ぐらいの頃だったと思う。
その日、パソコンがひとり一台置かれた教室で自由時間が与えられた。
同級生は、インターネットをしたり、ペイントで絵を描いたりしていた。
僕はwordを開いて、『白雪姫』から順番に、
映画のレビュー(のマネの出来損ないのようなもの)を書き始めた。

何作品かのレビューを書き終えた頃、
先生がパソコンの画面を覗き込んできて、僕にこう言った。
「お前、ほんとこういうの好きだよな」

それまで、何かを自ら進んで書いたことなんて一度もなかったけど、
「そうか、僕はこういうのが好きだったのか」
と思った。思い込んでしまった、に近いかもしれない。

そのwordに書かれたディズニー映画レビューは、
そのまま誰にも見せることなくどこかに消えてしまったけれど、
でも、「文章にして伝える」ことへの意志みたいなものは、
確実に、中学生の僕のなかに存在しはじめていたんだと思う。



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