編集者になる その8

人生の長い時間、
僕は書くことに関しては、ずっと孤高で、独壇場みたいなものだった。

大学生でお金をもらってライターをやっている人は周りにいなかったし、
好んで作文や長いレポートを書いているような物好きも
僕が知ってる限りでは僕だけだった。
比較対象は常に過去の自分しかいなくて、
「あの頃に比べると上手くなったよな」みたいな自己満足に浸たる、
ただの蛙だった。

だけど、2017年9月、「ほぼ日の塾」に通ったことで
自己満足の世界から、もうどうしようもなく引っ張り出されることになる。

ほぼ日の塾は、1000人近い応募があって、
その中から選考された40人が通うことができる。
たくさんの応募者の中から、
「熱意があって」「切実に書くことを求めていて」「若い人」
というような基準で選ばれるらしい。

僕はきっと、熱意があって切実に書くことを求めている若者だったけど、
でもそれは、もちろん、他の39名も同じなのだ。
自分と同じ志向の同世代の人と関わるのは、
生まれてはじめてのことだった。

ほぼ日の塾で、僕と同い年の、ふたりの女性に出会った。
ひとりは中前結花さん、もうひとりはべっくやちひろさん。
僕が「転職しよう」と思った直接的なきっかけは、
このふたりにあると思っている。

中前さんは、もともと専業でライターをやっていて、
いまは「minneとものづくりと」というメディアの編集長をしている。
べっくやさんは、現在は「DRESS」というメディアの編集者だ。

中前さんとべっくやさんは熱意と技術と豊かな感性と、
書いて生きていくことへの覚悟があった。
そして、当然のように、書いたものが圧倒的に上手くて、面白かった。
僕は彼女たちの書いた課題を読むたびに、
焦りと嫉妬と、諦めたくなる気持ちがごちゃっと押し寄せて、
そのたびにそわそわぞわぞわとした感覚に陥ってしまった。
こんな同い年、いままでどこにいたんだ!
どう生きてきたらこうなれるんだ!!って感じだった。

ほぼ日の塾が終わってから少し経った頃、
中前さん、べっくやさん、僕の3人で飲みにいったことがある。
文章だけじゃなくて喋りもとても魅力的なふたりと飲めるのは、
とても楽しかったし、嬉しかったんだけど、
後でこう気付いた。
「2人の仲間に入れてもらえたことを喜んでいる」

そう、自分よりもすごい人たちと一緒にいることで、
なんか自分も引き上げられるようないい気分になっていたんだけど、
もちろん、一緒にお酒を飲んで楽しくおしゃべりするだけで、
実力や感性が彼女たちに近づけるはずはなかった。
このことに気付いたとき、僕はひとつの決心をした。

その頃、僕は、編集ライター業に転職をするのか、
それとも、二足の草鞋をはいて、広告プロデューサーを本職としながら
副業的にライターをしていくのかで悩んでいた。
でも、こんなに魅力的で技術と熱意のある人が本職としてゴリゴリ頑張っているのに、
自分なんかが二足の草鞋でやっていこうとしても、一生追いつけない。
ふたりに追いつくために本業にしたいわけじゃないけど、
でも、やるからには時間と熱意をガッツリと捧げて、
どこまで出来るか、自分を試してみたい。
彼女たちが乗っているのはバイクで、僕は三輪車だったとしても、
せっせと三輪車を漕いでみたい。
転職しよう。

決めてからは、まったく迷わなかった。
1日も早く、ふたりが身を置いて日々戦っている、あの世界にいきたい。
そう思った。
そして、2018年秋、転職活動を始めた。

ちなみに、「minneとものづくりと」も、「DRESS」も
とても良いメディアで、
中前さん、べっくやさんは編集者として確かな存在感を発揮している。
職種的には同じ土俵にたったいまも、嫉妬や憧れの連続だ。
でも今はもう、黙って憧れているだけじゃない。
その気になれば、365日、24時間、
いまの僕は三輪車を漕ぐことができるのだ。


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