閲微草堂筆記(471)机の下の幽鬼
巻十七 机の下の幽鬼
王青士が言うことには、あるところに兄の財産を奪おうとしている弟がいた。
弟は訟師(庶民の訴訟を支援し、訴状の代筆などを請け負う者)を招いて密室に入り、明かりを灯して計画を練った。
訟師の仕掛けた罠は一つ一つが用意周到であり、相手側に間者を潜り込ませたり内通者を使ったりと、細かいところまですべて行き届いていた。
計画が定まり、訟師はにんまりと笑って言った。
「兄上が虎豹のごとく猛々しくとも、この鉄の網から出るのは難しいでしょうな。しかして、私の報酬はいかがなものですかな。」
弟は感謝して述べた。
「あなた様とは大変親しくさせていただいております。もはや兄弟も同然でございます。どうしてこの大徳を忘れることがありましょうか。」
時に、両人は一つの四角い机に向かい合って座っていたのだが、突如、その机の下から一人の男が飛び出してきた。
男は、片足でぴょんぴょんと飛び跳ねながら部屋をぐるぐると回り始めた。その眼光は松明の光のようで、だらりと伸びた長い毛はまるで蓑(みの)のようだった。
そして、訟師を指さし言った。
「先生よう、よっく考えた方がよござんすよぉ。こいつぁ先生のことを兄弟同然だとか宣った。つまりは先生だって危ないもんですぜ。」
男は笑いながら舞い、屋根の庇(ひさし)の上へと躍り上がるとそのまま去って行った。
弟と訟師、側に仕えていた童子は皆腰を抜かして地面に倒れた。
家の者たちはこの物音を聞いて何か異変があったと思い、呼びかけて部屋の中に入ると、彼らはすでに気を失って人事不省の状態になっていた。
水を飲ませて看病し、夜半になってまず童子が先に息を吹き返し、見聞きしたことを具(つぶさ)に述べた。
他の二人は明け方になってようやく動くことができるようになったが、計画はすでに露見してしまっていた。
人々は口々に囃し立て、弟はついに謀(はかりごと)を諦め、部屋の扉を閉ざして数カ月出て来ることはなかったという。
また、言い伝えによると、とある男が一人の妓女と懇ろになり、たいそう愛し合っていた。しかし男が身請けしてやろうとすると、女はそれを拒み従わなかった。男はさらに、別宅での一人暮らしを許し、正妻と同じように扱おうと言ったが、女は益々もって強く拒んだ。
男が不可解に思ってその理由を問い詰めると、女は嘆息しながら言った。
「あなたは結髪(本妻)を棄てて私を囲うと言いました。このような人に、どうして生涯この身を捧げることができましょうか。」
この妓女の言葉と上述の幽鬼の言葉は、その見解が同じであると言えよう。