閲微草堂筆記(340)古墓の祟り
巻五 古墓の祟り
李おばさんは青県(現在の河北省滄州市に属する)の出身である。乾隆年間の丁巳から戊午の年まで私の家で飯炊きをしていた。
彼女が言うことには、郷里のとある農家は古い墳墓の隣に住んでいた。
その農家では二頭の牛を飼っており、それらは常々墳墓の上に登って墓を踏み荒らしていた。
ある夜、何者かが夢に現れてこのことを厳しく責め立てた。
ところがこの里の者は粗野で愚かであったために、それを省みることなく、そのまま放っておいた。
すると俄かに家の中で激しい怪異が起こるようになった。
夜、牛ほどの大きさの二匹の物の怪が現れ、辺りを踏みつけ、飛んだり跳ねたりして、庭の中の鉢や甕は全て割られ、壊されてしまった。このようなことが数晩続いた。
さらに、磟碡(大きな石の重りをつけた地面を固めるための農具)を小屋の上に移動させ、ゴロゴロと転がして落とし、火焔を高く噴き出し、洗濯板に当てバラバラに砕いて数片にしてしまった。
農家はこれをひどく恨み、たくさんの鳥銃を借りてきて、物の怪が現れるのを待ち、一斉に銃を撃ち込んだ。二匹の物の怪は、どちらもその銃声とともに斃(たお)れた。
農家は大喜びで急ぎ火を灯してこれを見た。すなわち、飼っていた牛二頭であった。
それからというもの、怪異は起こらなくなったが、牛を失くした家はだんだんと傾いていった。
牛に憑いて妖にすることで、飼い主自らの手でこれを殺すように仕向けたのだ。人を弄ぶという点で非常に巧みであると言えよう。
さらに言うなれば、これは農家の粗暴な気性に乗じ、他の者の手を借りることで報復を成し遂げたのである。