閲微草堂筆記(406)妖尼の術
巻十五 妖尼の術
待詔(翰林院に所属する官吏)の虞倚帆が言うことには、選人(官吏に欠員があった際の補充人員)に張某という者がいた。
彼は妻一人と下女一人を連れて都までやってきて、海豊寺街に住んでいた。
一年余り経って、妻が病死し、さらにまた一年経って下女が突然死んだ。
ところが、ちょうど下女の遺体を棺に納めようという時になって、その遺体がたちまち呼吸をしているかのようになった。眼球もぐるぐると動いて、すでに甦っていた。
下女は選人を呼び、彼の手を取って泣きながら言った。
「一度お別れしてから一年あまり、再びお目にかかれるとは思っておりませんでした。」
選人が困惑していると、下女は次のよう語った。
どうか私が譫言を言っていると思わないでくださいませ。私はあなたの妻なのです。下女の屍を借りて甦ったのでございます。
この下女めはあなたの妾でありながら、常に鬱不満を感じていて、私よりも下の立場にありたくないと思っていたのです。そして妖尼と図って、私に術をかけて悪夢を見せ、眠れなくさせたのです。
ついに私は病になって死に、その魂は術者によって瓶の中へと閉じ込められ、呪符で封をされて尼の庵の塀の下に埋められたのです。瓶の中はひどく狭く真っ暗で、その苦しみは言いようがありませんでした。
ところが偶然にも、尼の庵の塀が壊れ、地面を掘って再び立て直すことになりました。その工事をしていた者が土を掘り返す際に瓶を割り、それで私はようやく外に出ることができたのです。
ぼんやりとして自分がどこへ行くべきかも分かりませんでしたが、伽藍神(寺院を守護する神)が私に城隍神に訴えるといいと指し示してくれました。しかし、魘法(悪夢を見させる法術)を行う者はすべて邪神を祀っていて、それらの邪神が次から次へと後ろ盾となって庇うため、裁判になりませんでした。
そこでさらに東岳へと申し出て術者を捕縛し、審問して事情をはっきりとさせ、ようやく下女を地獄送りにすることができたのです。私の寿命はまだ尽きておりませんでしたが、屍は朽ちて久しく、それゆえ下女の屍を借りて甦るように判決が下されたのです。
事情を聞いた家の者たちは皆悲喜こもごもであったが、甦った下女を女主人として仕えることにした。
魘法を行ったとされる妖尼は、これは選人が下女を妻にしたいがために一時死んだと偽って、このような作り話で騙したのだと言い張った。さらに人を陥れようとするのは罪に罪を重ねているとして騒ぎ立て、告発しようとした。
しかしそれらの証拠はどこにもなく、逆に妖妄(虚偽)の罪で訴えられることを恐れ、あえて口には出さなくなった。
虞倚帆は、かつてひそかにその家の召使いに尋ねたことがあり、その者は妻が甦った後のことを具(つぶさ)に語った。
妻は昔の出来事を語っても少しの間違いもなく、またその話し方や仕草も生前の妻とまるで変わったところがなかった。さらに、下女は刺繍を苦手としていたが、妻はすぐれた腕前だった。妻が生前作りかけのままだった刺繍入りの履物の残りの半分を、甦ってから完成させたが、その出来は同じ人の手によるものだった。どうやら偽装ではないようだった。
これは、雍正の末年の出来事である。