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閲微草堂筆記(398)餓鬼
巻九 餓鬼
交河のとある書生が日暮れに一人で田野を歩いていた。すると遠くで、娘らしき人影が黍(きび)畑へと逃げ込んでいくのが見えた。
彼は、淫婦が誰かと逢引きをしているのではないかと疑い、そこへ近寄って行って様子を伺ったが、あたりは静まり返っていて、誰一人見えなかった。
彼はさらに、茂みの奥深くに隠れているのではないかと疑って探ったが、何の痕跡も見つからなかった。
ところが、帰宅した彼は高熱を出して寝込み、譫言でこのように言った。
「私は餓鬼であります。あなた様には禄相(将来高い位に就くという相)が見えましたので、私はあえて触れようとせずに草むらに身を隠したのです。ところが思いもよらないことに、あなた様はこちらの様子をご覧になって、私のことを尋ね求めてくださいました。あなた様に温情があるのでしたら、私はあなた様に施しを乞わねばならないでしょう。どうか、わずかな供物とささやかな祭祀をお恵みくださいませ。さすれば私もすぐにこちらをお暇いたします。」
家の者たちが紙銭と肴酒を供えると、彼の熱は瞬く間に癒えたという。
進士の蘇語年は言った。
「この方にはもともと邪心などなかった。たまたま余計なことに首を突っ込んでしまったがためにこの餓鬼につけ入られたのだ。取るに足らない小人物というものは、君子に対して常につけ入る隙を伺っているのだ。どうして言動を慎まないでいられようか。」