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閲微草堂筆記(401)董曲江の友人
巻四 董曲江の友人
董曲江が都を遊覧していた時のこと、一人の友人と同じ部屋に寓居していた。彼はその友人と特に親しいというわけではなく、ただ宿代と食事代を節約するためにすぎなかった。また、その友人は富貴な人々に随伴して外泊することが多かった。
董曲江は一人、書斎の中で寝ていたが、夜、時折書物をぱらぱらとめくる音や、ごそごそと調度品をいじる音が聞こえた。彼は都には狐が多いと知っていたため、不思議には思わなかった。
ある晩、彼はまだ完成していない詩の草稿を机の上に置いていたのだが、何やらそれを詠吟する声が聞こえる。そこで問いかけてみたが答えは返ってこなかった。夜が明けて、よくよく草稿を見てみると、いくつかの句の上に点や丸が書きこまれていた。そこでまた何度か呼びかけてみたが、やはり返事はなかった。
友人が寓居に帰って来ると、その晩は物音ひとつせず、静まり返っていた。すると友人はすこぶる自慢げに、これは自分に禄相(将来高い官位に就くという相)が備わっているために、邪なものが寄り付かないのだと語った。
時に、日照(山東省南部)の李慶子が、彼らと同じ宿を借りた。
その晩の酒宴がお開きになった後、董曲江とその友人はいずれも床に就いた。李慶子は一人、月に乗じて誰もいない庭を散歩していた。
ふと見れば、ひとりの翁が童子を従えて樹の下に立っていた。
李慶子は心の中でこれは狐だと思い、身を潜めてこっそりとその動きを窺った。
童子は言った。
「ひどく冷えますから、ひとまず部屋に戻りましょう。」
すると翁は首を振って言った。
「董氏が同室なのはもとより何の差し障りもないのだが、もう一人の御方はなぁ、どうにも俗気がひどくて、とてもじゃないが同じ場所には居られない。寒風と冷え冷えとした月のもとでしばし座している方がまだよい。」
李慶子はこの話を別の友人に漏らしたが、結局、本人に知れることとなった。彼は李のことをひどく恨んだが、結局出世争いに敗れて挫折し、勉学のために遠くへと旅立って行ったそうだ。