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閲微草堂筆記(451)無頼の呂四
巻一 無頼の呂四
滄州(現在の河北省滄州市)の城壁の南側、その上流の岸に無頼の呂四という者がいた。その性は凶暴で、どんな悪事でもやった。人は彼のことを狼虎のごとく恐れた。
ある日の夕暮れのこと、呂四は数人の不良少年たちと共に村の外で涼を取っていた。すると突如、かすかに雷の音が聞こえ、風雨が近づいて来た。
ふと遥か遠くを見れば、一人の若い女が河岸に行くのを避けて古い廟の中に入っていくのが見えた。
呂四は不良たちに言った。
「あの女、やってやろうぜ。」
時はすでに夜となり、陰雲が暗くたちこめていた。
呂四は廟へと突入して女の口を覆った。不良たちは衣を剥ぎ取り、皆で女を嬲りものにした。
俄かに、雷光が部屋の窓を貫いた。女の容貌を見ると、それは呂四の妻に瓜二つだった。慌ててその手を離して問い詰めると、やはり呂四の妻に間違いなかった。
呂四は激怒し、妻を引っ張って河へと投げ込もうとした。
すると妻は大声で怒鳴った。
「あんたが人に乱暴しようとしたから、あたしが乱暴されることになったんだ!お天道さんはお見通しだよ!そんでも、あんたはあたしを殺すってのかい!」
呂四は言葉に詰まり、急いで妻の衣と下穿きを探したが、すでにそれらは風に吹かれて河に流されてしまっていた。呂四はおろおろとして為す術なく、自ら裸の妻を背負って帰って行った。
雲が晴れ、月明かりは辺りを照らしていた。呂四の姿を見た村中が笑いに包まれ、村人は競うように前に出て事情を尋ねた。呂四は答えることができず、ついに河に身を投げた。
そもそも彼の妻は実家に帰っていて、一カ月ほどで戻る予定だった。しかし、思いもよらないことに実家が火事になって住む場所がなくなり、時期を早めて帰ってきたところだった。
呂四はそのことを知らずにこの禍に行き合うことになったのだ。
その後、妻の夢に呂四が現れて言った。
「俺の業は深く、永久に地獄に堕ちることになっちまった。だが、前世でおふくろ孝行してたから、冥府のお役人は籍を検めて、蛇に生まれ変わることになったんだ。今、生まれ変わりに行くところだ。お前の次の夫はまもなく来るだろう。新しい姑と舅の面倒をよくみることだ。冥府の法律では不孝の罪は極めて重い。自分で地獄の釜に足を突っ込むことはないぞ。」
妻が再び嫁ぐ日、屋根の隅に一匹の赤練蛇(ヤマカガシ)がいた。蛇は頭を垂れて下の様子を見ており、なにやら未練がましい様子だった。
妻は以前見た夢を思い出し、頭を挙げて問いかけてみた。
すると、にわかに門の外から鼓の音が聞こえてきた。
蛇は、屋根の上で数回飛び跳ねると、奮然として去って行った。