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閲微草堂筆記(391)蘭亭序
巻九 蘭亭序
中書舎人の程也園は、曹竹虛の旧宅に住んでいた。
ある晩のこと、火の不始末から火事になり、邸宅に所蔵されていた書画や古器など多くが焼けて損なわれてしまった。
中でも、褚遂良(唐代の著名な書家)が臨書した『蘭亭集序』の一巻は金五百両の質種として預かっていたもので、相手が受け出しに来た時にもめごとになるおそれがあった。
ところがなんと、この蘭亭序は灰の中から拾い上げることができた。
匣(はこ)や袱(包み布)はいずれも焼き焦げていたが、書巻は一文字も損なわれていなかった。
私の表弟の張桂巌は、程也園の家で家庭教師をしており、この顛末を目の当たりにしたという。
これは、白居易の言うところの「いついかなる場所でも神物にはご加護がある。」ということであろうか。
物が出来上がったり壊れたりするのには、各々その運命(さだめ)がある。この蘭亭序は今回の火難の中で焼かれる運命になかったということなのだろうか。
それにしてもこの出来事は珍しく、鑑賞家たちにとって佳い話のひとつとなるだろう。