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閲微草堂筆記(404)道士の黒豆
巻十二 道士の黒豆
宝坻(現在の天津市宝坻区)出身の挙人である王錦堂が言うことには、宝坻の旧城は壊れて崩れかかっていた。浸水や雨水によって多くの洞穴ができ、妖がその中に棲みついてしまっていた。
後に城の修繕が行われたが、古い城壁は取り壊され、拠り所を失った妖は散り散りになって空き家や古寺に入り込んだ。そして手当たり次第に人を祟るようになり、多くの男女がこれに惑わされた。
するとそこに一人の道士が現れ、人々に黒豆を四十九粒取ってくるように命じた。呪い(まじない)をかけながらその豆を七日七晩炒って、その豆で妖を撃つと死に至った。
王錦堂の家には、空き部屋が多かった。そのため妖の棲み処になってしまい、下僕の妻が妖に惑わされた。そこで道士の炒った豆でこの妖を撃つと、忽ち凄まじい風の音がして、大勢の人が騒ぎ立てているような声が聞こえてきた。
「太夫人が傷を負って死んだぞ!」
人々が駆けつけて様子を見れば、一匹の大きな蛇が倒れていた。豆の傷痕は銃で撃った鉛の弾が当たったかのようだった。
家の者は道士に尋ねた。
「おおよそ、女を惑わすのは男の妖だと言われておりますが、この蛇はなぜ太夫人と呼ばれていたのでしょう?」
道士は言った。
「これは雌の蛇です。蛇が人を惑わす時には、その頭と尾の両方から精気を吸うことができるため、必ずしも交接する必要はないのです。」
それからほどなくして、ただ風の音が聞こえるだけで悪夢に魘されたようになった者がいた。その人は精気を吸う者の気配を感じたかと思うとすぐに精気が溢れ出ていく感覚を覚えたという。
道士の言っていたことは間違いなかったのだ。
さらにまた一人が妖と出くわした。豆は紙の包みの中にあったのだが、慌てていてすぐに包みを解くことができなかった。そこで包みごと投げつけると、妖は傷を負って逃げて行ったという。
さらにまた一人が女妖に惑わされた。ある者がその人に道士の豆を授けていたのだが、女妖の色気に溺れてしまって、これを撃つことができなかった。ついにその者は身を滅ぼすことになった。
そもそも妖が祟りを為すのは常のことではある。しかしながら、このように一度に群れて毒をふりまくのは、常のものとは言えない度が過ぎた悪であり、天が許すはずもないのだ。
道士は、この騒ぎが起こる前でもなく後でもなく、まさにその時、この地を訪れた。これもまた、天の導きなのではないだろうか。