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閲微草堂筆記(348)僧の幻術

巻一 僧の幻術
 とある僧が、交河の蘇次公吏部の家をよく訪れていた。僧は幻術を得意とし、その術の多彩さは尽きせぬほどで、呂道士(幻術で名を知られていた道士)と同じ師のもとで学んだという話だった。

 以前、僧が泥をこねて豚の形に造り、それに呪い(まじない)をかけると、もぞもぞと動き出した。さらに呪いをかけると、豚は忽ち鳴きだし、またさらに呪いをかけると、豚はぴょんと跳ね起きたのだった。
 そこでその豚を厨房の者が調理し、客に振舞ったが、あまり美味くはなかった。食べ終えるや否や、客たちは料理をみな吐き出してしまった。吐いたものは全て泥だったという。

 ある時、一人の士人が雨宿りのためその僧と同宿になった。士人は僧に頭を下げてこっそりと言った。

「『太平広記』には、術士が呪いをかけた瓦を人に授け、その瓦で壁を引っかいて筋を描くと忽ち壁が割け、よその家の婦人の寝室にまで忍び込むことができたという話が載っております。お師匠さまの術も、そこまでできるものなのでしょうか?」

 僧は答えた。

「何も難しいことではない。」

 そして瓦を拾ってしばらくの間呪い(まじない)をかけ、言った。

「これをお持ちになってゆくがよい。ただし、声を出してはなりませぬ。声を出せばすぐに術は解けてしまいましょう。」

 士人がこれを試してみると、果たして、壁は割けた。そして、とある場所へと辿り着くと、士人が恋慕していた婦人がちょうど装いを解いて眠りに就くところが見えた。
 士人は、僧の言いつけを守って声を出そうとはしなかった。しかし、彼は素早く扉に鍵をかけると寝台の上へと上がり、婦人と睦み合った。婦人もまた歓んで戯れ、二人は疲れてぐっすりと寝入った。

 士人がはっと目を醒ますと、自分の妻の寝台に寝ていた。互いに一体どうしたことかと言い合っていると、僧が訪れ、士人を叱りつけた。

「呂道士は、心にほんのわずかな邪念を抱き、雷の天罰を受けることになったのだ。お主は私にまで累を及ぼそうというのか!些細な幻術でお主を揶揄っただけであるから、幸いにもお主の積み上げた功徳を損なうことはなかった。今後はこのような邪念を起こすことの無きようにせよ!」

 そしてすぐに嘆息して続けた。

「しかしながら、此度のお主の一念は、すでに司命(人間の寿命を司る神)が記録している。大きなお咎めは無くとも、恐らくはその出世に妨げがありましょうぞ。」

 果たして、士人はその勢いを失い、晩年になって訓導(教師のうちでも最も位の低いもの)の職を得たが、最後まで貧乏生活であったという。

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