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閲微草堂筆記(476)肉屋の許方
巻四 肉屋の許方
肉屋の許方は以前私が記した、酔った幽鬼に遭遇した者である。
許方は驢馬を屠す際、まず先に鑿子(穴を掘る道具)で地面を掘って溝をこしらえる。その上に板を置き、板の四隅に四つの穴を開ける。そして驢馬の足をその穴に嵌めるのだ。
肉を買う者がいると、買う肉の量の多少によって、壺を使って煮えたぎった湯を驢馬の身体に浴びせる。驢馬の身体の毛が抜けて肉が熟れるとその部分をそぎ取って売るのである。
彼が言うには、こうすることで肉が初めからとろけるように柔らかくなって美味いのだそうだ。
一両日経つと、身体の肉が全て無くなって驢馬は死ぬ。
死ぬまでの間、驢馬は轡(くつわ)を嚙まされていて声を出すことはできないものの、眼光は怒りに燃え、松明のように炯々としており、あまりに惨たらしくて見ていられなかった。
しかしながら許方はいたって平然としていて、まるで意に介していなかった。
後に、彼は病を患い全身の皮膚が爛れて、まるで彼が屠した驢馬のような有様になった。布団の上で転げ回り、死なせてくれと求めたがそれも叶わず、苦しみ叫び続けること四、五十日でようやく息絶えた。
病の床で許方は自身の行いをひどく悔いて責め、その子供の志学に急いで職業を変えろと言い含めた。
許方が死んですぐに志学は驢馬の屠殺から豚の屠殺に変えたという。
私が幼かった頃は、まだこの肉屋を目にしていたが、今ではもうその子孫のことは聞かない。すでに血筋が絶えて久しいのだろう。