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閲微草堂筆記(389)塀の向こう
巻十六 塀の向こう
年老いた下僕の盧泰が言うことには、彼の舅の某は、ある月夜の晩に庭の棗の樹の下に座っていた。
ふと見れば、隣の家の娘が塀越しに上半身を現し、こちらに向かって棗の実を催促してきた。
そこで実を十個ほど打ち落として渡してやると、娘は言った。
「今日帰省してきたばかりなのです。兄と嫂(あによめ)はいずれも瓜畑の番に行っていて、父母はすでに眠っておりますの。」
そして、塀の下にある梯子を指さし、某に流し目を送って去って行った。
某はその意を解し、梯子に足を掛けて登って行った。娘は塀の下に降りたばかりであるから、きっと塀の向こう側には机か凳(腰掛け)があるのだと思った。そこで足を伸ばして踏もうとしたところ、踏んだのは虚空ばかりで、そのまま肥溜めの中に堕ちてしまった。
娘の父と兄がその声を聞いて駆けつけてこれを見つけ、彼はひどく鞭打たれることになった。
周囲の人々が懇願して、ようやく許された。
しかし、隣の家の娘はその日、実際には家に帰っていなかった。そこで初めて、妖魅に揶揄われたと知ったのだった。
前に牛に乗った婦人の話(※)を記したが、そちらはまだ農家の息子の方が先に誘ったためであった。この度の話は、某に何の原因もなく、このような結果に至っている。これは想定外の災いと言えるだろう。
しかし、招かれてもそちらに行かなければ、妖魅とてその技を施しようがなかったのではないか。
つまりは、これも自業自得であると言わざるを得ない。
※巻十六「牛に乗った女」
https://note.com/gekogeko63/n/n984ca3bdf70a