閲微草堂筆記(394)狐の天敵
巻一 狐の天敵
滄州の挙人である劉士玉は、ある時その書斎を狐に占拠されてしまった。
狐は白昼堂々と人と対話し、瓦を擲ち、石で人を撃った。ただその姿形を目にすることはなかった。
平原の知州(州の長官)であった董思任は評判の官吏で、その話を聞くや、自ら狐退治に出向いた。
ちょうど彼が狐に対して、人と妖とでは住む世界が異なるという理を話していた時だった。たちまち庇(ひさし)の端から、はきはきとした声が響いた。
「そなたは官となり、すこぶる民を愛し、また金受け取るようなこともなかった。それゆえ、私はそなたを撃つようなことはしない。しかし、そなたが民を愛するのは名声を得るためで、金を受け取らないのも、後々面倒ごとに巻き込まれることを恐れているからにすぎない。それゆえ、私はそなたから逃げるようなことはしない。これ以上はおやめなさい。多く喋りすぎれば困ることになりますぞ。」
董思任は慌てふためいて帰り、苛々としながら数日過ごした。
時に、劉士玉の家の下僕の妻は、ひどく愚かな女であったが、ただ狐を畏れることはなかった。
狐もまた、下僕の妻を攻撃するようなことはなかった。
ある者が狐と話していて、このことについて尋ねると、狐は言った。
「かの者は、身分は低いが、真の孝婦である。鬼神であってもかの者を見れば避けるのだ。どうして私が避けないことがあろうか。」
そこで劉は、この下僕の妻を書斎に住まわせた。狐は、その日のうちに去って行ったという。