閲微草堂筆記(407)遺骨
巻十六 遺骨
私が十一、ニ歳の時、従叔(父親のいとこ)の燦若公から聞いた話である。
郷里に齊某という者がいたが、罪を犯して黒竜江へと配流になり、数年後に亡くなった。その息子はやや長じて後、父親の遺骨を故郷へ持って帰りたいと思うようになった。しかし家は貧しく黒竜江まで赴くことはできず、いつも鬱々として深い憂いを抱えているようだった。
ある日、息子は偶然にも数升の豆を手に入れた。それを砕いて粉末にすると、水を加えて練って丸め、赤土をまぶし、自らを薬売りと偽って黒竜江へと向かった。ひとまずは偽の丸薬を売って数文の銭を取り、糊口をしのいでいた。
ところが、道中でその薬を買った者は、重病でも立ちどころに治り、評判は人から人へと伝わっていった。たいそう良い値で売れるようになり、それをたのみにして、息子はなんとか黒竜江へと辿り着いた。そこで父の遺骨を手に入れ、篋(はこ)に入れて背負って帰途に就いた。
ところがその道中の鬱蒼とした森の中で、三人の盗賊に遭遇してしまった。息子は急いで金目のものを棄て、篋を背負って逃げた。
盗賊が追いつき篋を開けて見れば、骨がある。不思議に思ってそのわけを息子に尋ねた。
そこで息子が涙を流しながら経緯(いきさつ)を述べると、盗賊たちもまた共感して深く憐れみ、解放するだけではなく、逆に息子に金を贈った。
息子が跪き礼を述べていると、盗賊のうちの一人が、胸を叩き地団駄を踏みながら慟哭して言った。
「この人はこんなにも弱っちいのに、そんでも数千里離れた親父の遺骨を求めてここまで来たんだ。俺は堂々とした一人前の男で、自分で豪傑だなんだと言ってたけども、何もできちゃいねぇじゃねぇか!おめぇらはもう好きにしやがれ!俺は今から肅州に行くぞ!」
言い終えるやいなや、手を振って西の方角へと去って行った。
子分たちが叫んで、せめて妻子と別れの挨拶をさせようとしたが、ついに振り返ることなく行ってしまった。そもそも思うところがあり、深く感じ入ったのだろう。
惜しむらくは、人は去り消息は微かになり、世にこの話が伝わらなかったということだ。
私は、『灤陽消夏録』など書を記したが、すっかりこの話のことを忘れていた。癸丑の年の三月三日、海淀(地名)の宿直室に泊まっていた時に偶然にも思い出したのである。そこでこれを書き留め、書き洩らしを補うことにした。
或いは、これは隠れた善い行いが埋没していたために、その霊魂が消滅せず、ひそかに私に思い出させたのかもしれない。