スイス・ドイツ漫遊記 5日目 氷河特急~フュッセン
今日は世界一遅い観光特急の氷河特急に乗って、世界遺産のランドヴァッサー橋に行きます。その後、バスに乗ってドイツのフュッセンまでひたすら移動。フュッセン、聞いたことないよという人がほとんどかと思われますが、フュッセンは翌日のノイシュバンシュタイン城観光の拠点として有名な街なのです。本日は山は無し、ひたすら移動の日です。
出発は日ごと早くなり、本日はとうとう朝食会場がオープンする前の出立となりました。そのため前日の晩に朝食が配られております。内容は、サンドイッチX2, 丸のままの果物X2, 飲料X2とボリューム満点。早朝からそんなに食べれらないので、パッサパサのパンで挟まれたサンドイッチを1つだけ食べます。水でサンドイッチを食道に流し込むと、その足でツェルマット駅に向かいます。ホテル内にはお洒落なラウンジもあったのですが、見るだけ素通り。
まだ夜も明けきらないツェルマットの街を、見るからに草臥れた日本人8人がスーツケースをガラガラと引きずり歩いていきます。薄暗い6時半の駅は貸切でした。テーシュまでは1駅。テーシュにつくとまずトイレ。街中のトイレは有料なので、駅やレストランなどタダで行けるところは全て立ち寄ります。とはいえそんなに無尽蔵にモノが出るわけもないので、自販機で飲料を物色。ん? コーラが3.30スイスフラン…… 日本円で560円! 賊による不法行為の保険料を入れても高すぎ。スイスの高い物価には呆れます。
テーシュ駅前の駐車場にはすでに見覚えのあるバスが待っていました。なんでも、昨日は休日扱いにして運転手さんはテーシュで2泊していたとのこと。いったいこのツアーの人件費はどうなっているのだろうと思いながらもバスに乗り込みます。その際、添乗員のK藤さんが、はいあなたの分の朝食よと言いながら昨日もらったサンドイッチを恩着せがましく運転手さんに渡していました。さて、ここから106㎞走って氷河特急の主要駅の1つであるアンデルマットまで行きます。わざわざ途中峠を越えていきますとのことでしたが、この峠が美しいことこの上なしでした。
峠の名前はフルカ峠(2429m)。6月から10月の期間限定で通過できます。我々が行ったときは数日前までの降雪や土砂崩れで通れるかどうか微妙なラインだったそうです。つづら折りの峠道をひた走り、頂上に到着。頂上付近には19世紀末に開業した赴きある佇まいのホテル・ベルヴェデーレがあります。見るからに歴史のありそうな石造りの建物です。山頂駐車場には土産物屋さんがあるのですが、9時半時点ではまだ閉まっております。仕方がないのでアンデルマットまでの道のりを急ぎます。
ここからの下りの景色が予想外に絶品でした。テーシュ側からの上りは正直なところ少しきれいな表六甲ドライブウエイかなくらいでしたが、アンデルマットに向かう下りはまさにザ・スイスという風景です。雪をまとったアルプスの山々をバックに牛や羊や山羊やらが奔放にたむろする草原。山の上には澄んだ青い空。どこかで見たなと思ったら、セガンティーニの風景画でした。皆さんもどこかで一度くらいは目にしているはずです。馬鹿馬鹿しいくらいの早朝出発でしたが、この透明感のある風景を見るためなら仕方がない、パッサパサのサンドイッチも許容できるというものです。
もっとゆっくり走ってくれ運転手さんと思いながら峠を降りていきます。名のある山の観光もいいけれども、午前中の晴天をバックにして見る、名もなき雪山と草原と山羊の風景もいいものです。
心が浄化されて菩薩の境地に近づいたところでアンデルマットに到着。また、ビルと鉄道とコンビニという近代文明の巣窟に来てしまいました。それにしてもここまでずっと晴天続きとは、どういうことだろう。後で悪いことでも起きるのかしらんと思う向きもありますが、これは私が初日に財布をすられて厄落とししたからに違いないと勝手に解釈します。
さて、10時半にアンデルマットについたはいいけれども、電車が出るのはお昼。駅舎の近くでしばらく山の風景を眺めていましたが、近代文明が恋しくなり駅のコンビニに立ち寄ります。氷河特急内で昼食とのことですが、持ち込み可とのことだったので小さいワインを購入。さらにここぞとばかりにお土産になりそうなものを物色します。スイスと言えばチョコだろうと短絡思考で板チョコを大人買い。
そうこうしている間に搭乗時間が近づいてきたので駅ホームに行きましたが、乗車案内を見てみると1つ前の列車が50分の遅延。1日に4-5本しか来ないのに豪快な遅延です。当然ながら我々が乗る列車も遅延でした。スイスの駅は改札がないので基本的に出入り自由なのですが、時間潰しにつかれたのでウロウロせずに駅の椅子でまた時間潰し。
ようやく乗車して席に着きます。食事が出て来るので流石に予約席です。我々が乗ったのは2等車ですが、全然問題なしです。4人掛けのテーブル席は、天井の方までガラス化されていて解放感は抜群。山や空の景色を見るようにできているのでしょう。アンデルマットを発車するとすぐに昼食が出てきました。しかし、出てきた料理は昨日の昼食とほぼ同じ。チキンのキノコ煮込みで付け合わせがライスかニョッキかの違いです。後で調べると、牛肉とマッシュルームのクリーム煮がスイスの名物料理。チキンなのは原価率圧縮のためでしょうか、美味しいからいいんですけど。
食事を下げられて暫くしてから、「カフェラテが飲みたい」と、妻。食事を下げるときに飲み物は?と聞かれたじゃあないの。どうやらその時は気分じゃなかったようです。でも頼まないと、氷河特急でカフェラテ飲んでみたかったわぁ……と後で言われても困るので、意を決してボーイさんのところへ注文しに行きました。
何が懸念事項かと言うと、前情報によるとこの列車の支払いはキャッシュレスオンリーなのです。いつもニコニコ現金払いは通用しません。しかも手持ちのカードは採用率低めのAMEXと全滅のJCB。こいつらが使えるか聞いてから注文を行うという、外人相手の英会話上級編の実践を要求されるのです。しかも私が使うのは受験英語。「American express card is available?」と聞いたのですが、解ってもらえません。availableの発音が悪かったのかなと思い、気持ち巻き舌で再度聞いたら、外人お得意の首を竦めて手のひらを上に向けたポーズで、pardon? と怪訝な返事が帰ってきました。ピーンチ! このまま席に帰っては、「普段偉そうにしていて、カフェラテも頼めないの?」と妻にいわれること必定。厭な汗をかきながら、追い詰められた窮余の一策で、「AMEX OK?」と聞いたら、親指を立てながら、イエース、OK という返事。外人と心が通じ合った瞬間です。ボーイさんは英語のnativeではないので、単純にavailableという単語を知らなかっただけだったようです。あまりにうれしかったので、間違ってカプチーノを頼んでしまいました。
そうこうしているうちに、本日の目玉商品、ランドヴァッサー橋が近づいてきました。世界の車窓からのテーマソングが頭の中で流れます。しかし待てよ、列車に乗っているということは、橋を渡る列車がきれいに見えないのではないか。少し考えると当たり前の話で、橋を渡る先頭車両は肉眼で確認できましたが、写真に収めることはかないません。いろいろ映り込んだ橋の写真が精一杯でした。
橋を渡ると、以上用件のみにて失礼しますとばかりに少し先のフィズリールという駅で下車。もう午後4時半です。途中、行き違いの列車待ちを含めてほぼ4時間半列車に乗っていたことになります。さて、フィズリールからドイツのフュッセンまではバスで239kmの移動です。フィズリールはスイスの右下、ほぼサンモリッツ。そこからスイスを北に向かって縦断。少しオーストリアに侵入してドイツに向かいます。予定より1時間以上遅れているので運転手さんも急ぎ気味。というのも、バスは我々を下した後またスイスに戻るのです。
単調な田舎道をそれなりの速度で飛ばして、単調な高速道路に入ります。1時間半走ったところでスイスとオーストリアの国境に差し掛かりましたが、ここもやはり何事もなくスルー。国境ってなんだろうと思いました。
オーストリアのガソリンスタンドで有料のトイレ休憩を済ませて、ドイツへと向かいます。さあ、アウトバーンですよと言われて道路を見ましたが、普通の2車線の高速道路でした。アウトバーンは日本語に訳すと自動車専用道なので間違ってはいないのですが、片側6車線の広い道路を想像していただけに少しがっかりです。それでも流石アウトバーン。左側をフェラーリやランボルギーニが良い音を出してブイブイ抜かしていきます。なぜかポルシェは少数派。そして、夜も暮れた8時すぎフュッセンに到着しました。流石にくたくたです。電車に乗ってバスに乗っていただけなので空腹感は全くありませんが、夕食が付いていました。
ドイツに入ったからソーセージやハンバーグかなと思っていたら、なんと鮭と知らない魚のソテー。またこれかと思い、やはり数口でごめんなさいとなりました。デザートはリンゴの天ぷら……。
明日も早いので、早々に部屋に戻り、日本から持参のバスクリンを湯舟に入れて野沢温泉の湯にしました。
明日は、ノイシュバンシュタイン城のあとローテンブルグ。また長距離移動が待ってます。
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