2022年は寅年
2022(令和4)年は寅年です。
虎の生息地は、中国やロシア、インドネシアなどのアジア大陸です。大陸と離れた日本列島には、野生の虎はいません。虎を見られるようになったのは、動物園が普及するようになってからです。出会う機会が少なかったはずの虎と人間ですが、虎は昔から、いろいろなかたちで人々に親しまれてきました。
貴族から民衆にいたるまで
日本の文献に虎が初めて登場したのは『日本書紀』で、545年に、百済で虎退治をして、その皮を日本に持ち帰った人がいることが記されています。虎の皮は、その後も大陸からもたらされていますが、背景には、虎には邪気を払うなど強い霊力があると信じられていたからでした。交易品の一つとして虎の皮が輸入され、装飾品として貴族などに愛されました。その後の武家社会では、虎の皮を身にまとったり、武具を包んだりして、威厳を見せるために使われたようです。
生きた虎が大陸から送られてきたのは平安時代後期といわれていますが、そう簡単には出会えません。一方で、盛んに描かれるようになったのが「虎の絵」。室町から江戸時代にかけて著名な絵師が虎を描いています。見たこともない虎をどう描いたのかというと、それこそ虎の皮を見て空想しながら描かれた絵もあったとか。その結果、個性豊かな虎がたくさん描かれましたが、鋭いまなざしで前を見据える大きな目は、多くの絵で見られます。
近代になり、民衆に広まったのは虎の玩具です。「張り子の虎」などの伝統的工芸品が各地で作られ、縁起物や贈答品として親しまれました。張り子の虎は一つ一つ手作りのため、同じものは一つとしてないそうです。
身近にいなくても、それぞれのかたちで愛されてきた虎。現代では、プロスポーツチームのマスコットとして、また、アニメのヒーローなどとして私たちを楽しませています。愛された「とら」といえば、“フーテンの寅さん”を忘れてはなりません。映画で各地を旅した寅さんも、人と人、地域と地域をつなぐ不思議な力がありました。
美しさや強さ 行動力にあやかって
虎にまつわる話は、ことわざとしても語り継がれています。
「虎は死して皮を留(とど)め、人は死して名を残す」は、「虎が死んだ後に美しい皮を残すように、人は死んだ後に名声を残せるように心掛けなければならない」という教え。誰もがそうありたいと思うのではないでしょうか。
「虎の威を借る狐(きつね)」は、虎にとらわれた狐が虎をだまし、危機を免れたばかりか、百獣の王に就くというお話。弱い者が権力者の威勢を借りて威張ることのたとえです。
「虎は千里行って千里帰る」は、虎が一日のうちに千里もの距離を行き、さらにその千里を戻ってくることができるということから、「勢いがある」「行動力がある」ことのたとえとして使われますが、「出ていったものがすぐに戻ってくる」という意味もあります。戦時中に女性によって縫われた千人針には、出征兵士の無事の帰還を願って、虎の絵が刺繍(ししゅう)で描かれました。
しっかりとしたまなざしで
干支に関する文献を読むと、古代中国でつくられた十二支にはそれぞれ“時間の性質”があり、「寅(いん)」という字は「草木が発生する」時間を示すとされました。土から芽が出て伸びていく様子を表しており、そうした勢いのある様が、後に動物の虎と結びつけられました。
今年も「勢いよく伸びやかに」といきたいところですが、「寅」の字には「つつしむ」という意味もあります。まだまだ油断はできないということでしょう。
先が見通しにくい状況が続きますが、虎のようにまなざしだけは鋭く、しっかりと前を見据えて過ごしたいものです。
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