寝付きが悪いときに書くコラム そいつどいつ・松本竹馬『1番悩ませる、昔の恥ずかしい話』
1番悩ませる、昔の恥ずかしい話
こんばんは。
そいつどいつ松本竹馬です。
僕は昔から寝付きが悪く、布団に入るとなんか色々考えてしまいそのまま朝を迎えることが多いです。
次の日の朝が早かったり、大事な仕事があったりするときは、愛用している睡眠導入剤をかっ喰らい無理矢理寝てるのですが、それでも寝れないときが多いです。
先日行われたキングオブコント2021の前日なんかは、睡眠導入剤を飲んでも全く寝れませんでした。
(キングオブコントの入り時間がその日の夕方だったため、なんとか朝方に寝れましたが…)
僕の体は、なんというか天邪鬼っていうか逆を行く体質でして、少しでも「寝よう。今日は寝なきゃヤバい。」と思ってしまうと、逆に全く寝れなくなるのです。
睡眠以外でもそうです。
ちょっと下ネタになって申し訳ないかもしれませんが、例えば、サウナ。
サウナの中で「ああ、今もし勃起したら、男しかいない中で勃ってる、変なヤツに思われるなー。」と少しでも思ってしまうと、なぜか知らないけど徐々に勃ちはじめるのです。
そのとき、僕は「やめろ!勃つな!勃つな!」と強く体に言い聞かすのですが、そう思えば思うほどなぜかより勃っていくので、僕は足を組んでジッと耐えます。
逆に学生時代の授業中や、仕事でひな壇に座ってるとき。
このとき、「ああ、今寝たらヤバいな。起きてなきゃ。」と思うと、なぜか強烈な睡魔に襲われるのです。
「二度寝したらヤバい、起きなきゃ。」って思うと、そのまま二度寝してしまい、遅刻することもありました。
とにかくこんな不憫な体の僕ですが、今のところはなんとかギリギリ大きなミスもなく、綱渡りでやってきています。
この体質もいつかは改善するもんだろうと、長い目で向き合い、最近は整体なんかに通い、心と体のバランスを整えてもらってます。
そんな僕が、どうせならと寝れないときはもう開き直ってコラムを書くことにしました。
それがこの【寝付きが悪いときに書くコラム】です。
僕は布団に入って寝れないとき、色々なことを考えます。
考えるというよりは、勝手に色々なことが脳を巡ってきます。
どうでもいいこと、その日あったちょっとした嫌なこと、昔の恥ずかしい経験…
結構ネガティブなことが多く、中でも1番脳を襲ってくるのは、昔の恥ずかしい経験です。
色々恥ずかしい経験はしているのですが、とりわけ高校のときのテニス部の最後の大会。これは別格です。
この記憶が蘇ってきたとき、僕は枕に自分の顔を埋めて「ああっ!」と叫び、体をバタつかせます。
そして、そのまま4時間は眠れなくなります。
それほどにこの恥ずかしい経験は、いまだに鮮明に僕の心と睡眠時間を削ってきます。
忘れようとすればするほど、より色濃く思い出してくるのです。
今日は初回なので、寝れない僕を1番悩ませる、この恥ずかしい経験を書きたいと思います。
高校のとき、僕は硬式テニス部でした。
その当時、「テニスの王子様」を読んでた僕は越前リョーマみたいになりたくて、テニス部を選びました。
運動神経があまりよくない僕は、そんなに上手くはなかったですが、それでもなんとか3年の最後の夏にはレギュラーの座を掴みとりました。
引退を賭けた最後の大会。団体戦。
相手は東筑高校という全国レベルの選手がいる強豪校でした。
団体戦は4試合行います。
最初にダブルスという二人組のペアで戦う試合が行われ、そのあとにシングルスという一対一で戦う試合が2試合行われて、先に2勝したチームの勝利。
僕はシングルスの2試合目に選ばれました。
いわば一勝一敗で回ってきたときに、僕でチームの勝利が決まる重要な位置です。
実力的にはギリギリレギュラー入れるか入れないかくらいの力だった僕がその位置に選ばれたのは監督の采配でした。
相手は強豪、東筑高校。
全国レベルの力を持つ三宅というエースがいます。
監督は、まずダブルスにうちの学校の1番手と2番手にペアを組ませて、東筑高校相手に確実に一勝をもぎ取る作戦にでました。
そしてシングルスの1試合目で出てくる三宅との戦いは正直、捨て試合。
ここは負けを覚悟して、一勝一敗で僕に試合を回す。
そして、僕の勝利でチームの勝利を飾る。こういう作戦でした。
監督は僕に言いました。
「松本、正直お前を団体戦のレギュラーに選ぶのは迷ってた。なぜなら、うちの学校にはお前より強いヤツはまだいる。だが、お前をレギュラーに選んだのはお前がたまに奇跡を起こすからだ。お前が練習試合なんかでたまにとんでもないプレーを見せて、試合に勝ってたのをオレは見ていた。お前はなにか持ってる。だから、お前なら最後、東筑高校相手にとんでもない奇跡を起こしてくれると信じてる。」
普段とても怖くて滅多に人を褒めない監督にそう言われて肩を叩かれたとき、僕は完全に主人公の気分でした。
「任せてください!」
うちの高校のキャプテン、むっちゃんが目に涙をためて、拍手を送ってくれました。
むっちゃんは、毎日朝練をして、1番遅くまで居残り練習して、誰よりも努力していたのにレギュラーになれませんでした。
誰よりも悔しいはずなのに、僕を信じて拍手をくれるむっちゃん。
僕は絶対に勝つと決めました。
最後の大会、前日の夜。
案の定、僕は寝れませんでした。
このときから、すでに僕の不眠症ライフは始まっていました。
寝れずに悶えてる僕を見かねて、母親が薬を一錠持ってきてくれました。
それが僕の初めての睡眠導入剤デビューでした。
遺伝なのでしょう、母親も寝付きが悪く、日頃睡眠導入剤を愛用していました。
初めての睡眠導入剤はとても効き、僕は眠ることができました。
そして、迎えた最後の大会。
相手が東筑高校ということもあり、会場には100人を超えるギャラリーがいました。
みんな、東筑高校の視察に来ています。
うちの学校の女子テニス部のメンバーも応援に来ていました。
その中には僕が密かに恋心を抱いていた坂上さんもいます。
親も弟も、みんな応援に来ていました。
監督が僕らレギュラーを集めて言いました。
「この集まってるギャラリー、多分みんな腰抜かすことになるぞ。だって視察に来てた東筑高校がお前らに負けるんだからな……全力で行ってこい!」
「はい!」
そして始まった、団体戦。
最初のダブルス戦。
監督の作戦通り、うちの1番手と2番手のペアは、東筑高校相手になんとか一勝をもぎ取りました。
ざわつく会場。喜ぶ僕らの高校。
「よし!」
監督がベンチから立ち上がり、拳を天に突き上げました。
続く、シングルス1。
相手は全国レベルのエース、三宅。
ここはやはりというか、スポーツの世界はそんなに甘いものでもなく、シングルス1は6-0というスコアで1ゲームも取れずにストレートで負けました。
それでも最後まで必死にボールに食らいついた、うちの高校の3番手、のちに僕の相方として一緒に吉本の養成所に行く村崎には、会場から最大限の拍手が送られました。
そしていよいよやってきた、僕の出番。
監督の読み通り、本当に一勝一敗で僕にバトンが回ってきたのです。
僕はそのとき全身真っ黒の格好でコートに立ちました。
黒のシャツに黒のズボン、黒のサンバイザーに黒のラケット。
全身黒に包まれた闇のキャラみたいな出立ち。
コンセプトはもちろん、ダークホース。この大会に突如現れた闇のダークホースです。
心なしか会場がざわついてる気がしました。
「何者だ、あいつは…」
みんなそういう目線を僕に向けています。
「頼むぞ!」
監督が僕の肩を叩くと、僕の高校の応援団が盛り上がります。
「いっけーいけ、いけ、いけ、いけ、松本!おっせー、おせ、おせ、おせ、おせ、松本!」
その声には親も弟も、女子テニス部の坂上さんの声も混じっています。
試合が始まる前に肩慣らしで軽く対戦相手と球の打ち合いをします。
いきなり試合が始まる前にケガとかがないように軽くラリーをしてウォーミングアップをする感じです。
僕の対戦相手がボールを軽くポンッと打ってきました。
僕は「シュッ!」と言って、そのボールを思いっきり打ち返して特大ホームランをかましました。
一瞬で静まりかえる会場。
「あ、す、すいません。」と僕が言うと、相手は「いえ。」と言って、またボールをポンッと軽く打ってきました。
僕はそれをまた「シュッ!」と言って、思いっきり打つと、今度は豪快にネットにぶち当たりました。
軽いラリーのはずなのに、まだ相手のコートにはボールは一球も返ってません。
唖然とする会場。
そこまでして僕はようやく気づきました。
僕はハイパー鬼クソ地獄緊張していました。
相手がボールをまたポンッと打ってきました。
「動け!ちゃんと動け、オレの体!」
そう強く念じれば念じるほど、逆を行く僕の体は動きません。
今度は初心者みたいな大空振りをしました。
いつの間にか応援の声は止んでいました。
僕の目の端には頭を抱える監督の姿がありました。
「しっかりしろ!」
そのとき、観客席から檄が飛びました。
「お前はそんなもんじゃねえだろ!」
目をやるとそこには、むっちゃんがいました。
誰よりも練習していたのにレギュラーになれず、なんならベンチにも入れなかったむっちゃんが、観客席からフェンスを掴んで、叫んでました。
「大丈夫!お前は奇跡を起こせるヤツだろ!思い出せよ、あの練習試合で見せたスーパークロス抜きを!」
「むっちゃん…」
僕は大地を強く踏み締めると、自分の頬を叩きまました。
そして、「あーっ!」と一回大きな声を出しました。
そうだった…これはオレだけの試合じゃないんだ。オレを信じてレギュラーにしてくれたみんなの戦いなんだ…
「それでは、試合を始めます。」
審判が宣言しました。
一度深く深呼吸して、構えると、僕の後ろにはたくさんの人がいることを感じました。
監督、村崎、むっちゃん、坂上さん、家族、部活のみんな…
みんなを思えば、何故か体が軽く動くような気がしました。
「さあ、来い!」
そして試合が始まり、僕は普通に6-0で負けました。
1ゲームも取れず、ストレートで負けました。
なんなら最後はサーブミスで負けました。
1発目思いっきり力を込めて打ったサーブが入らず、2発目はなんとか入れるだけ入れようとポンッと打ったサーブも入らずに負けました。
体も全く動かず、仮に動いてたとしても、そもそも圧倒的な実力差があって無理でした。
相手は三宅じゃないにしろ強豪校の2番手。
マジで手も足も出なかったです。
『てかまず、むっちゃんの言ってたスーパークロス抜きってなに?
ないんだけど、そんな技。』
監督もむっちゃんも坂上さんも、みんな全て喜怒哀楽のどれでもない表情をしてました。
ただただまっすぐ虚空を見つめていました。
あまりのことに、「いや、無理でしょーこれは。」とヘラヘラしてると、監督に「笑うな!」とビンタされました。
そのとき唯一、僕と一緒にヘラヘラしてた村崎と吉本の養成所に行きました。
僕は今でもこれが人生で1番恥ずかしかった出来事で、これを思い出すと絶対に夜眠れなくなるのです。
でも芸人になって本当によかったことは、これをライブなどで話して、笑ってもらえることです。
誰かに笑ってもらうだけで、この死ぬほど恥ずかしかった経験も無駄じゃなかった気がしてきます。
ほかにも大学デビュー失敗したりとかなり恥ずかしい経験もしてますが、ニューヨークさんのYouTubeや水道橋博士さんのトークライブで話して、笑ってもらってその経験も成仏させられてる気がします。
いつか全部の嫌な経験が笑ってもらって、こんな経験しといてよかったと思える日がくればいいです。
そうしたら今よりも寝れるのかなと思います。
みなさんも恥ずかしいことは積極的に笑い話しにしていくのがいいと思います。
お笑いって最高。
あのときいたみんなに届け、このコラム。オレは乗り越えてくぞ。
※登場人物はみんな仮名です。
■そいつどいつ
市川刺身、松本竹馬からなるコンビ。キングオブコント2021決勝進出、ABCお笑いグランプリ2年連続決勝進出。
ドラマにも出演する刺身の演技力、竹馬の半端ない笑いへの情熱で業界人の注目も集める、ブレイク必至の第8世代筆頭コンビ!
そいつどいつINFO
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著者/ そいつどいつ・松本竹馬