![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/79693264/rectangle_large_type_2_d8ebe95ab4723a1fa93f8ad4c63955ae.jpg?width=1200)
まだ「自分たちがやっちゃいけないお笑い」がある――コットンが仕立てたい新しい色彩
ラフレクランからコットンへ、改名して約1年が経った。変わったのはコンビ名だけではない。きょんは坊主に、そして西村は“鬼いじられひな壇”に。ポップなイメージから脱却しつつあることで、芸人からも観客からも評価は変わってきている。それでもまだ残るもどかしさと、ネクストステージに上がるために必要な調整とは――。
残念なのは、思ったより生地関係の仕事が来なかったこと
――コンビ名改名から約1年経ちました。この1年、どうでしたか?
きょん:結論からいうと、マジで「変えてよかった」と思いますね。ラフレクランって名前から、ある番組をきっかけにコットンになりまして。……質問なんでしたっけ?
西村:(笑)
――改名してこの1年、どうだったかなと。
西村:「ある番組」って、これテレビの取材じゃないからね。
きょん:そっか。『しくじり先生』(テレビ朝日)でコットンって名前をいただいたんです。ラフレクランって名前は本当に覚えてもらいづらかったんですよ。コットンはもともとある言葉なんで、一発で覚えてもらえるようになりました。ただ、エゴサーチはしづらくなりましたね〜。「このコットンの服気持ちいい」とかそういうのばっかり出てきちゃって。だからもう、エゴサしなくなりました。ラフレクランのときはめちゃくちゃしてたのに。
西村:え、全然しない? ほんとに?
きょん:リアルにしてないよ。……ごめんなさい、ウソです。ちょっとはする。
西村:ちょっと今、Twitterの検索履歴見せてよ。
きょん:いいけど(iPhone渡す)。
西村:(Twitter開いて)おい、え? 「西村」で検索してるじゃん。何?
きょん:(笑)
西村:怖すぎるんだけど! するなら自分のエゴサしろよ!
きょん:あなた今「衣装予報士」ってやってるでしょ。だから「今日はにっくんどんな感じで洋服つぶやいてるのかな」と思って検索したの!
西村:でも「コットン」はたしかにないね。
きょん:ほんとにないです。細かいこと気にするのダルいし、いいや、って。
――エゴサしなくなって反応を気にしなくなると、心持ちが変わる部分はありそうですね。
きょん:そうですねぇ。今だから言えますけど、ラフレクラン時代は僕はもしかしたら「モテたい」っていうのがあったかもしれないです。
西村:「もしかしたら」?
きょん:ごめん、「絶対的に」。人生のテーマとしてはいいと思うんですけど、芸人としてはいらないのかもなって思ったんです。『有吉の壁』の「若手予選会」に出させてもらったとき(日本テレビ/3月29日放送)、「ここだ!」って思って気合で坊主にしたんですよ。コンビ名が変わって、太って坊主になって見た目も変わって、これで一個スイッチが入ったといいますか。自分の中でグッと集中できるようになって、この1年で僕はだいぶ変化したかなと思います。
――西村さんはどうでした?
西村:大体のことは相方が言ってくれたんですけど、一番悔しいのは、せっかくこの名前になったんだからもっと服とか生地関係の仕事は欲しかったっすね。マジで来年は僕らベストドレッサー賞狙ってます。服でのし上がっていこうって決めてるんで。
――だから6月の単独タイトルが「dress」なんですか?
西村:(笑)。でもそうそう、まさしく。『しくじり先生』でみなさんがつけてくださった名前なので、これにこだわっていきたい思いは僕もきょんもあるし、常々それは話してます。
ゴールデンMCを目指したはずが鬼いじられひな壇になった
――改名前後から今に至るまで、特に西村さんの扱われ方が変わってきてると思うんです。
きょん:そうですね、それはデカいと思います。
――芸歴10年で見られ方が変わるのは結構珍しい気がして。
西村:そうっすねぇ。マジで、思ってた芸人人生と違いましたよね。ゴールデンでバンバンさばいていくMC目指してたんですけど、気づいたら鬼いじられひな壇になってました。でもこれならバラエティの世界で戦っていけるんじゃないかと初めて思えたり、みんなが結果的に笑っていたらいいかなって踏ん切りがつくようになったところはあります。僕はどうしても見た目や経歴から誤解されやすいんですよ。話しかけづらいとか冷たいとか人に興味ないとか、そんなこと全然ないんですけど。だからそういういじられをきっかけに、人からの見られ方が柔らかくなったところがあって、おかげで全仕事やりやすくなってるなと思います。
きょん:僕は相方なんで、にっくんのヤバさとか面白いところはもちろんわかってるんですけど、僕自身はそこをいじってさばけるタイプじゃないんですよね。先輩方がいろいろしてくれたことで、やっとにっくんのめちゃくちゃいいところが出てきたなって感覚でいます。すごくやりやすくなってる。今まではほかの芸人が「西村ヤバ……」ってトーンだったんですけど、この1年で「西村ヤバ!マジで!それでそれで?」って掘り下げてくれるようになりました。……今、めっちゃよくなかったですか?俺。
――すごくわかりやすい説明でした。
きょん:俺にしてはうまく言えた。
――別のインタビューでは「大喜利やモノボケがウケやすくなってきた」と話されていました(2021年12月9日「QJWeb」掲載記事)。同じことをしていてもいじられる側になるとウケやすくなるのは、どういう理屈によるものだととらえていますか?
西村:これは僕の中ではもう結構答えが出てます。ツッコミやってるヤツに対してはお客さんのハードルが高いんですよ。普段の漫才がツッコミで笑いとってるタイプだったらツッコミの人もいいんですけど、純粋にボケがボケてツッコミがツッコむスタイルの漫才をやってるところは確実にツッコミのほうがモノボケとか大喜利が弱い。それは当たり前で、お客さんからしたら「何突然急にボケたの?」ってなるから。僕は普段仕切ったりMCやる機会が多いんで、特にそうなりやすいんだと思います。それがいじられることによって「この人で笑っていいんだ」って、ある種のリミットが外れたところがあるんでしょうね。
“ポップ全振り”から玄人受け方向へグラデーションしていく
――「この人で笑っていいんだ」ということに関して、いち観客として思うんですが、観てる側は芸人さんの間での評価に結構敏感ですよね。
西村:そうなんですよね、それはすごいあります。
――ラフレクラン時代は正直、芸人さんからすごくリスペクトを集めるタイプのコンビではなかったように思うんです。とても失礼なことを言ってますが……。
きょん:キャーキャー系みたいに見られている部分はありました。僕はそういうのも嫌いじゃないですけど、芸人からの評価は一個すごい大事な部分ですよね。近い先輩だとダイタクさんとかネルソンズさんとか、仲はいいですけどそのあたりのプレッシャーを感じるところはあった。でも「NHK新人お笑い大賞」を獲ったりしてネタが評価されるようになってから、周りの目が変わってきました。「こいつらこんな感じだけど、ネタ頑張ってるな」って。そこからさらに、僕が坊主にしたことで「お前、こんな気合入れたことできるのかよ」みたいに響いてるのも感じます。本当はどう思ってるかわかんないですけど、ストレートに受け止めたら嬉しいし、だったらもっと変えていこうって気持ちになります。
西村:そうっすねぇ。でも、見られ方が変わったのは確かなんですけど、まだ僕らがやっちゃいけないお笑いのジャンルみたいなものも正直あるのは感じます。舞台上の芸人さんは笑ってくれるけどお客さんだけ笑ってないみたいな状況ってあるじゃないですか。お客さんの頭の中には、ポップでワーキャーなラフレクランの残像がまだ残ってるのかもしれません。だからたとえば、ちょっと風刺や皮肉が効いたような笑いだったり心の機微だったりも表現したいけど、僕らにはそういうのは求められてないのかなってもどかしさは少しあります。もう一個上のステージにいくためにそういう表現もやっていきたいんですけど、そこはまだ肩透かしというか返りがない。もちろん、僕らの見せ方の問題もあると思うんですけど。
――以前フースーヤさんに取材をしたとき、先輩芸人の方々が「面白い」と言ってくれるようになったことがお客さんの反応が変わっていった理由かも、とやっぱりおっしゃっていて。最初にポップなイメージで認知された方にはつきまとう悩みなんですかね。
西村:そういうタイプ全員が通る道かもしれないですね。ポップで大衆受けするようなネタって、どこかで頭打ちになるところがあるんで。結局賞レースって、客ウケと審査員ウケのちょうど中間をとれた人が上がっていくイメージがあるんですよ。僕らはどっちかというと客ウケがよかったタイプだから、そこから玄人にも刺さるような方向にグラデーションで移っていく作業をする必要がある。当然、全部総取っ替えにはならないんですよ。骨組みは絶対変わらないから、内装のマイナーチェンジをちょっとずつやっていく感覚です。題材はポップに、ある種のベタからちょっとズラしながらボケの精度を上げていって、でもきょんが動き回って見せ方としてはやっぱりポップで笑いやすく、っていう。良いように言えばハイブリッドにはなったと思います。以前はポップ全振りだったんで。
きょん:ネタに関しては、髪生えてるときよりはウケやすくなったかなって感覚はありますね。見た目から伝わりやすくなったのかもしれません。
――見せ方を考えながら、玄人受けとポップのバランスをとっていくのはすごく難しそうです。
西村:めちゃくちゃ難しいです。これは独りよがりかもしれないですけど、ポップから玄人受けを混ぜていくのと玄人受けからポップ混ぜるのだったら、前者のほうが難しいと思う。ポップって、誰でも使えてどこにでも混ざる万能調味料なんですよ。でも玄人受けはスーパースパイスじゃないですか。“みんなが大好きな味”に下手に混ぜるとめちゃくちゃ変な味になる。この4〜5年はずっとその調整をやっていました。
タイトルからコンセプトを前提に考えた、初めての単独
――今回の単独はその調整の結果を発揮する機会になるわけですね。
きょん:(格好つけて)不安でした、今回の単独は。
西村:何? 何始まった? 松重豊さん?(笑)
きょん:不安でした。コットンになってからルミネでの単独は初なんです。ラフレクランのときは4〜5回くらいやらせてもらって、チケット発売したらすぐ満席になってたんですけど、コロナ禍になって正直、お客さんが離れました。トークライブをやっても即完にならなかったりして。
西村:コロナと俺らの老い、な。離れた理由の割合、老いが6でコロナが4よ。
きょん:だから今回のルミネは埋まるか不安だったんですけど、蓋を開けてみたら「ルミネでやるんだったら久々にネタ見に行くぜ」って人がたくさんいてくれました。僕ら自身ではなくて、ネタを観に来てくれる人たちが集まってくれることがわかって、すごく嬉しかったです。ここで良いものを見せて、またいろんなライブに来てもらえるようにがんばりたいですね。
――お客さんを取り戻す、と。
きょん:そうです。ぜってぇ取り戻す。待ってろ、全国民。笑う準備は出来てるか? アーユーレディ???
西村:はい。なるほど。
きょん:おいおい!
――(笑)。西村さんもぜひ意気込みをお願いします。
西村:10年間で一番気合が入ってると言ったらすごい月並みなんですけど、僕らはコットンという名前が好きでもうすごく馴染んでるんで、それにちなんで今回は「dress」というタイトルにしました。正味、これまでの単独タイトルは「KYON-NICHI-WA」「KYONCERT」「KYONTEST」とか、どこかポップさがあったんです。毎回「いいじゃん、キョンテスト。『コンテストに向けて頑張る』ってことで!」みたいなノリだったんですけど、今回は僕がいくつか候補を出してああでもないこうでもないって相談して決めました。そこの段階からがっつり取り組んだのはマジで初めてだと思うんですね。お互い、コンセプトを念頭に置きながら密に進められてるので、今までとはまったく違う単独になると思います。全編「キングオブコント」に向けたコントで挑戦しますし、演出もネタ、幕間V、ネタ、幕間V……というパターンとは違った形でお届けする仕掛けもあります。世界観とか、そんなかっこいい言葉にはしたくないんですけどね。あくまでポップなんで。でも僕らの本気は伝わると思います。「こいつらほんまに変わろうとしてるやん」って思ってもらえるんじゃないか。な?
きょん:顔を覚えてほしいなら、今から……
西村:(さえぎって)おつかれさまでした。
きょん:ちょっとちょっと! しゃべってたよ俺今! 顔を覚えてもらいたきゃ、今から推しとけ、ってことですね。
西村:何? どういうこと? 俺らに覚えてもらいたければってこと?
きょん:……すみません(笑)。
■撮影協力
Jumpin jap flash
〒153-0051 東京都目黒区上目黒1-3-13 ラインハウス中目黒1階
■コットンINFO
第2回コットン単独ライブ『dress』
開催日時 :2022年6月11日(土) 開場19:30/開演20:00/終演21:00
会場 :ルミネtheよしもと(〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目38−2 ルミネ2 7F)
出演者 :コットン
料金:前売 3,000円 /当日 3,500円 /配信 1,800円
※会場チケットは完売しております。
※見逃し視聴は、6月13日(月)20:00まで視聴可能
====
ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希(CUBISM)
企画・編集/かわべり