「尖った覚えは一個もないんです」男性ブランコは素顔を知られたい
「史上最高の大会」との呼び声も高い『キングオブコント2021』で、準優勝という結果を残した男性ブランコ。コントの実力は折り紙つきながら、長らく賞レースでは苦汁をなめ続けてきたが、なぜ今年は決勝進出を叶えられたのか。コント「ボトルメール」完成までの秘話、そして今あらためて「人となりをもっと知ってほしい」と思う理由とは――。
鬼越トマホークに言われた、ぐうの音も出ない一言
――『キングオブコント2021』準優勝おめでとうございます。男性ブランコさんは準決勝常連のイメージがあったんですが、あらためて戦績を振り返ると実は意外と苦戦されてきたんですよね。
平井:そうなんですよ。準決勝いったのは今回までに2回しかなかったです。
浦井:準々決勝どころか、2回戦で落ちたりもしてました。
平井:だからほんまに、「劇場では一応ウケるけど賞レース全然あかんなぁ」みたいなことも言われてましたね。
浦井:一回、鬼越さんのケンカのノリを「ちょっとちょっと、やめてくださいよ~」って止めに入ったら、「うるせぇなぁ、お前らそんなにコントの雰囲気出してんのに全然結果出てねぇじゃねぇか!」って言われました。
平井:「賞レースで勝ててねぇじゃねぇか!」って。ぐうの音も出ませんでしたね(笑)。
浦井:あれはめちゃくちゃおもしろかったです。やられた! ってなりました。
――賞レースの結果がついてこないことは、2人の中でコンプレックスのように感じていた部分もあったんですか?
浦井:そうですねぇ。一緒にユニットやってる先輩や同期も決勝いってる人たちばっかりだったんで、その中だともしかしたら置いていかれてるのかなって、ちょっと思った時期はありましたね。
「ウケてるネタを変えるのは怖い」それでも2回変更した理由
――今年は例年と何が違ったんでしょう。
平井:これは明確なことが一個あって、準決勝でやると決めたネタをむちゃくちゃ、いわゆる“叩いた”といいますか。“叩いた”以外の言い方が浮かばなくてごめんなさい。ブラッシュアップというか、ギリギリのギリギリまで中のボケを変えたりツッコミの言葉を変えたりしました。ここまでやったのは珍しいです。
浦井:今年くらいじゃないですかね、ここまでしたのは。
――なぜ今年はそのように?
浦井:いやぁ、わかんないっす。決勝行きたかったからかも。毎年行きたいと思ってるんですけど。1本目にやった「ボトルメール」は、もともと単独でやったネタなんですけど、そのときは全然形が違ってて、1回目の「好きだなぁ」がオチだったんですよ。そこでウケてた。
平井:うん、ラストでウケるからまぁいいか、ってなってた。
浦井:多分、毎年の感じだったら、賞レースに向けてちょっと間を詰めるくらいでオチはそのままでやってたと思うんですけど、今年はそこから平井がいろいろ追加して。その中で、「実は全部想像だった」ってくだりは僕は最初ちょっと抵抗あったんですよ。今までのことが全部ウソやったっていう、めっちゃ怖いことしてるなって。
――禁じ手っぽさはあるかもしれませんね。
平井:夢オチ的なね。
浦井:「そこまででウケてたのに、結構リスクとるなぁ」と思ってましたね。でもやってみたらめちゃくちゃウケたので「わー、よかった、いけるんだ」って。ただそのときもまだ、決勝でやった形にはなってなかったです。想像の後に女の子が出てきて一言喋ったらガラガラ声で、そこの「よっしゃ!」で終わってたんですよ。これで完成なのかと思ったら、そこから「言うてる場合か」のくだりももう一回追加されました。そうやって、これまでの自分たちが勝手にOKとしていたラインから2個は進めたんだと思います。平井の中でそこを引き上げたのがいつもと違うんかなと。
平井:たしかにね、普段だったらほんまにそこでやめてたね。
浦井:やめてますよ。「ウケてるんだから、ウケたとこで終わろう!」って。
平井:ウケたやつを変えるのってマジで怖いんですよ。下手したら、ちょっとボケを前にずらすだけでスベる可能性もあるんで。
浦井:どうなんやろ、俺からも質問する形になるけど、それは確信があったってこと?
平井:いや〜、やってみるまでわかんなかった。最初に単独でおろしたときは展開がなかったんです。キャラのゴリ押しで、やりとりがあって「好きだなぁ」ってだけで。これとは別のネタで、浦井が「あぁ、好きだなぁ」って要所要所で3回くらい言うコントがあるんですよ。そのネタのなかでそこがいちばんウケる箇所だったことを覚えてて、転用じゃないですけど、浦井の「好きだなぁ」は結構パンチ力があるので入れたかったんですね。でもあんまり話が転がっていってる気はしなかったんで、わりかし無理やり想像オチを入れたんだと思います。そこから女の子が来たときに、想像通りなのかちょっと違うのかで考えると、想像通りのほうが面白いかなと僕は思ったのでそうしました。
――実際、決勝でもそこがめちゃくちゃウケてましたね。ずっと目指していた場に出てみて、変化や反応はありましたか?
浦井:周りの人たちが自分のことのように喜んでくれて、ほんとにいい人たちに囲まれたなって思います。
平井:いい人たちがワーっと柵のように僕らの周りを囲んでいる。
浦井:どこ向いても一定の間隔でいい人たちがいる。
平井:恵まれてますよね。
「ほんとにマジで全然尖ってないんです」
――『キングオブコント』後、メディア出演が増えていると思います。
平井:はい、ありがたいことに呼んでいただいて。
――テレビにたくさん出たいという考えはあるんでしょうか? 失礼ながらそういうタイプにはあまり見えないのですが……。
浦井:呼んでいただけるなら。
平井:はい、呼んでいただけるなら出たいです。多分、僕らの知ってもらい方として、たとえばずっと単独ライブを続けて「こいつらの単独、すごくいいな」ってだけでお客さんを集めるのは正直無理だなと思ってるんです。今回は賞レースで知ってもらう大きなチャンスがありましたけど、コントなのでやっぱり僕らの人となりはわからないんですよね。作品が好きでいてくれるお客さんと、もうひとつ、人となりを知って好きになってくれるお客さんが増えたら、単独に来てくれるお客さんも単純に増えるかなと。その意味でテレビっていうのはひとつあると思ってます。もちろんそこで嫌いになる人もいるでしょうけど、劇場でネタばっかしてても、人となりはなかなか広く伝わっていかないと思うので。ぱっと見で「めっちゃ尖ってる」とか言われたりするんですよ。
――すみません、私もそういうイメージを持っていた時期がありました。
平井:ね。でもほんとにマジで全然尖ってないんですよ(笑)。
浦井:一個も尖った覚えはない。
平井:元気な漫才もしてますし。
浦井:『キングオブコント』の数日後に、幕張で寄席出番が5ステくらいあったんです。そこで全部漫才をしたら、ジェラードンのかみちぃさんとかに「何やってんだよ!?」って言われました。「『キングオブコント』後の寄席なんて、お客さんは決勝のネタを見たくて来てるんだよ。なんで漫才やるんだ」って……。
平井:(笑)
浦井:「『キングオブコント』は終わりました、じゃあ次は『M-1』に向けてどんなネタしてくれるんだい?」ってことで来てくれてるんだと勝手にイメージしてたんで、全然違う漫才を5本やったんです。それで「お前ら尖ってんなぁ」って言われて、いや、尖ってないんですよ。無知なだけで。誰か先に言っておいてよ、って。
平井:「そうなんだ、そっちのほうがお客さんが喜んでくれるんだ」って、教えてくれたらもちろんやりますから。
浦井:そのあとのルミネではまっすぐ素直に「ボトルメール」を2回やりました(笑)。
平井:だから「僕らは普通の人なんです」ってことをちゃんと紹介して、パーソナルな部分も好きになってほしいといいますか。
「今日は仮面つけて撮ってもらおう」「なんで?」
――尖りとは違うかもしれませんが、ヴィジュアル面の作り込み方が特異だなとずっと気になっていました。今でこそ『仁丹天丼丸三角』のようにデザイン的にこだわったライブが吉本でも増えてきましたが、かつてはそうでもなかったと思うんです。その中にあって男性ブランコさんのライブは装丁家の川名潤さんがフライヤーなどを手がけられていたりして、どういう意図があるんだろう、と。
浦井:でも結構、ボケに近いのかなってところもあります。「お笑いライブでそんなバチバチにやってるやつ、おらんで」っていじられたらいいな、と。
平井:それはあったかもしれないですね。東京来てすぐの頃に、小学校をリノベーションしたギャラリーみたいなところで単独をやったことがあって(2018年開催『Denki Ifuku Yē-Yē』)。
――アーツ千代田3331ですね。「そこでやるんだ!」と驚きました。
平井:そう、芸人からめちゃくちゃいじられました(笑)。「美術館でやってんの!?」って。でもそれは悪い面白がり方じゃなくて「お前ら、やるなぁ」って面白がってくれてるんで、うれしかったですね。ずっと単独についてくれている作家のワクサカソウヘイさんが川名さんはじめいろんな方に引き合わせてくれて、そこからいろいろ広がっていった感じはします。
――そして今年のクリスマスには草月ホールで単独ライブ『てんどん記』を開催されます。過去最大規模なのでは?
平井:多分そうですね。3公演あるので、合計キャパは最大です。埋まるかどうか不安ですね。
浦井:不安です。客席350の3公演だから、約1,000ですよ。
平井:これはなかなか……いまだかつてそんなことはなかった。
――それまでにもう少しパーソナルな部分を知ってもらわないとですね。
浦井:間に合うかな。
――何か秘策は?
浦井:かつてないペースでYouTubeにネタを上げてます。
平井:10月に漫才のライブ「漫才ブランコ」があって、11月には浦井の一人芝居もあって(『浦井が一人と「話」が三つ』)、それで12月に単独なので、一応毎月大きいものがぽんぽんぽんとあるのはいい流れだなと僕は思ってます。
浦井:じゃあ、今日の「月刊芸人」の写真は仮面つけて撮ってもらおう。
平井:仮面を? なんで?
浦井:……ごめんなさい、めっちゃ尖ったことをしようと。
平井:我々は顔見せたいんやからあかんやろ(笑)。
浦井:そうでした。
■男性ブランコ
(左:浦井のりひろ 右:平井まさあき)
2011年に結成、大阪NSC33期生。キングオブコント2021準優勝の独創派ダブルメガネコント師。大学の演劇サークルで知り合い結成、2016年東京進出。渋谷・ヨシモト∞ホールの看板芸人“ムゲンダイレギュラー”。コンビ名の由来は「ネタ合わせの時にたまたまブランコに乗っていたから」。
毎月の単独ライブではタイトルからビジュアル・演出など細部までこだわりが見られ、その文学的センスに魅了されるファンも多い。
■撮影協力
珈琲西武
西新宿店東京都新宿区西新宿7-9-16 西新宿メトロビル 2F
■男性ブランコINFO
・男性ブランコ単独ライブ『てんどん記』
日時 :
2021年12月24日(金)
①開場14:30/開演15:00/終演16:30
②開場17:30/開演18:00/終演19:30
2021年12月25日(土)
開場12:00/開演12:30/終演14:00 ※オンライン配信あり
会場 :草月ホール(東京都港区赤坂7-2-21)
出演者 :男性ブランコ
料金 :会場観劇チケット 前売3,000円 /当日3,500円 /配信2,000円
一般発売 :2021年10月30日(水)10:00~
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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希(CUBISM)
企画・編集/かわべり
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