【9月号】自称ロクデナシの見取り図、野望は劇場を代表する看板芸人
2年連続で『M-1グランプリ』決勝へ進出し、全国でその名が知られる見取り図。現在の主戦場はよしもと漫才劇場だが「将来はなんばグランド花月の看板になりたい」と憧れの芸人像を語る。しかも盛山はある師匠の影響も受けていて……!? 柳に風のごとく飄々とした二人だが、話題が『M-1』となるときりっと引き締まる。2020年も本気だ。
しゃべればしゃべるほど盛山からにじみ出る大師匠の影
――「月刊芸人SHIBUYA」に初登場ですね。今日はなんばの純喫茶の老舗「純喫茶アメリカン」でお話をお聞きしますが、こちらへは来たことはありますか?
リリー:ありました。けど、2階に上がったことはなかったですね。
盛山:僕も大昔に。僕、純喫茶がめっちゃ好きです。大阪市内にいきつけも何軒かありますよ。座ればアイスコーヒーが出てくるくらい。ミックスジュースを飲みたい日もアイスコーヒーが出てくる。何が何でもアイスコーヒーです。
リリー:普段は甘いものを全然食べないので、今日、ソフトクリームを食べるのも久しぶりです。
盛山:僕はもう甘いものが大好きなんですけど、ダイエットのために止めてて。でも、アメリカンのパフェ食べたら解禁したくなりました(笑)。
――今年は上半期のほとんどが、劇場が一時閉館していましたが、劇場が再開して改めて思うことはありますか。
盛山:やっぱり劇場は最高ですね。改めて。お客さんの笑い声があってやっと完成するもんやなぁ……って誰かが言ってました(笑)。漫才師やったら、掛け合いがあって、三八マイクがあって、それと最後にお客様の笑い声があって漫才が完成する……と、誰かが言ってました。
リリー:改めてお客さんに感謝しましたね。お客さんがいるといないとでは、やりやすさも全然違いますし。
盛山:生が大事です、ライブ感が。今はお客さんの数は半分ですけど、無観客に比べたらありがたいです。一番やりにくかったのが、アクリル板挟んでの無観客でしたね。
リリー:やりにくかったですね。
盛山:自分の顔が映るんですよ、アクリル板に。いや~な顔で。俺、こんな顔で漫才してたんやと思って。1回、舞台そでから(中田)カウス師匠が僕らの漫才を見てくれてはって。ぱっとアクリル板を見たらカウス師匠が反射して映ってたんです。
俺、すごい漫才のオーラをまとったんかなと思ってたら、カウス師匠で。あと1歩で舞台に出そうなくらい前のめりで見てくれてはりました。僕が下手、師匠が下手にいて。だからリリーは直でした。
リリー:でもカウス師匠は他の若手のネタも見てて、その時は真剣に見てたんですけど、僕らのネタが始まった瞬間、ゴルフのパターの練習をしてました。絶対見てないなと(笑)。
盛山:今日もさっきまでカウス師匠と一緒やったんですけど、カウス師匠のしゃべり方になってますから、僕。
リリー:最近、ラジオでも。
盛山:ほんま、意図してないんですけど、「あ~、では~、続いてのお便りっ!」って僕、カウス師匠みたいな口調でメッセージのこと「お便り」言うてまうんですよ。
――テレビではGAORAの冠番組『ろくでなしミトリズ』(大阪チャンネルでも配信)が今年で1年が過ぎました。
リリー:放映されている枠が、千鳥さんやったり、銀シャリさんがやったりとかしていて、いい枠なので嬉しいですね。
盛山:はい。あと、2000年初期くらいの関西のお笑いの感じがします。僕らというよりは、勝手にそういうチューニングで芸人さんが出てくれます。この番組は、とにかくキモイですね(笑)。
最近も体を張ることがあって、収録中に「ちょっと待って! これオンエアできへん!」って言いましたもん。でもお笑いが好きな人は本当に楽しめると思います。あまりテレビでやらないようなことをやってます。
――YouTubeの『見取り図ディスカバリーチャンネル』では、2020年の公約が「3月から100本、動画をあげます」と。8月に入って50本を超えましたが、自粛期間中も上げていたんですか?
リリー:自粛期間中はリモートでちょっと上げたくらいですね。
盛山:だからえらいことになっています。このままのペースでいけば12月末に100本になるんですけど、1回でも僕が倒れたら終わりです。
――チャンネル登録者数も77000人で。
盛山:これが全然伸びないんですよ。みんな10万とか20万とかで。ちょっと何したらええかわからへんな……。何をやっても伸びないんです。でも、楽しいですよ、遊んでるだけで。
YouTubeはあんまりかっちりと企画しない方がいいみたいですね。何にも考えんと見られる、アホなことをしている方がいいみたいです。まあ、全然伸びないですけど……。わかっているつもりで。
もはや賞金ではない…何が二人を『M-1』に駆り立てるのか
――2020年下半期の目標を聞きたいのですが、やはり『M-1グランプリ』でしょうか。
盛山:『M-1』優勝したいですね。あと3回、挑戦できると思うんですが、あと3回……。あと3回出るというより、今年は優勝したいですね。
リリー:なかなか、だらだら系で優勝した人はいないですもんね。ということは、相当難しい。
盛山:ただ、『M-1』決勝はやみつきになりますね。
リリー:いわゆる脳内麻薬が出ている感じですね。
盛山:1年で決勝の日しか、生きてる心地がしないです。この2年はそうですね。あとの364日は余韻で生きてます。幸せですよ、だから。あんな心地になれるなんて。
――そういうことは、これまでの人生でありましたか?
盛山:ハイパーヨーヨーの検定受ける時はなりましたね……。
リリー:え? そんな気持ちで『M-1』受けてたん!?
盛山:小5の時。8級か何かの技。近くのおもちゃ屋に行って、認定してもらえるかどうか……。あれと同じぐらい、生きてる心地がしますね(笑)。
リリー:え……!
――リリーさんはありますか?
リリー:『M-1』は受験みたいな感じで、明日しくったら人生変わるなって思うし、ウケても変わると思うし。だから怖いですよ、ネタなんて飛ばそうものなら全国にその恥が流れるわけですから。緊張もしますしね。
――緊張をほぐすにはどうされていますか?
盛山:僕、下唇がむちゃくちゃ震えるんですよ。1回、自分の下唇が視界に入った時、ありますもん。震え過ぎて。こんな震えるんや!? って。手のひらにめっちゃ「人」って書きますしね。もう書きすぎて、「人」って字の溝ができてます。
リリー:僕は、みんな知らんおっさんと思い込みます。じゃないと委縮してまうんで。この人はおっさんやと。そう思ったら緊張せずできて。そのくらいマヒさせないと精神が持たないですね、『M-1』とか特に。
――それでも出たくなる。
盛山:はい。マジで「たまらん!」ってなります。
――『M-1』の賞金が1000万円というのも関係ありますか?
盛山:全然関係ないです。別にきれいな石とかでもいいです、賞金は。
リリー:というか優勝できるなら1000万払います(笑)。
盛山:はい(笑)。全員そうちゃいますかね。賞金の額ではないです。
リーダーそして看板芸人へ……見取り図が描く未来予想図
――話は変わりますが、盛山さんは以前、「もしアインシュタインさんがよしもと漫才劇場を卒業されたら『二代目河井ゆずる』を襲名する」とおっしゃっていましたが、こちらはどうなったのでしょうか?
盛山:はい。「大阪河井ゆずる」になりました。今、のれん分けしてるんです。アインシュタインの「東京河井ゆずる」さんと、見取り図の「大阪河井ゆずる」です。そうなりました。
リリー:なってないやろ。
盛山:吉本のプロフィールにもそうなってます。「東京河井ゆずる」と、「大阪河井ゆずる」で。ほぼ一緒ですしね~。
リリー:プロフィールもそうなってないし、全然ちゃうやろ。
盛山:ただ、河井ゆずるさんがいなくなって、劇場をまとめる人が皆無になりました。僕、立候補してたんですけど、満票で反対票が集まったので無理で。だから皆無です。もう荒れ果てた世界ですよ……!
ただ、引っ張っていく立場ではないですけど、僕らがいる間は劇場を盛り上げていきたいですね。baseよしもととか、すごかったんでね、盛り上がりが。そういうふうになれたらいいなと思います。
――リリーさんは『Lmaga.JP』でアートの連載もされていますが、アート活動の方はいかがでしょうか。
リリー:今年、個展がしたかったんですよ。ひそかにやろうと思っていたんですけど、今年は絶対無理なので、来年あたりはやりたいですね。好きなことをしていくのもありかなと思うんです。
今までは漫才で1回、有名になってからと思ってたんですけど……。もう、今のこの状況を見ると、この先はどうなるかわからないじゃないですか。
――そうですね……。全く読めないですね。では、今後、コンビとしての展望を聞かせてください。
リリー:長い目で見たら中川家さんとか、海原やすよ ともこさんみたいに看板になりたいですね。NGKの看板ってマジでかっこいいです。めちゃくちゃ先のことですけど。
盛山:そのために、漫才が良くなるためにテレビに出たいですね。そんでまた、劇場に戻りたいです。そういう考えに変わりました。
――お二人の主戦場は舞台ですか?
盛山:100%、そうですね。漫才して、合間に中央軒食べて、また漫才したいです。高級車にも乗って。
リリー:師匠はみんなそうですよね。
盛山:かっこよくないですか? 大きい外車で劇場に来て。パーっと漫才して、パーっと帰って。ほんで大金稼いで。こんなかっこいいことあります? 劇場は廃れないですしね、絶対。
■見取り図
ツッコミ担当の盛山晋太郎(左)と、ボケ担当のリリー(右)。
2007年に結成。NSC大阪校29期生。よしもと漫才劇場を中心に活動中。
■インタビュー動画 「BEHIND THE STAGE」
祇園一会 ~見取り図×ニューヨーク~
@よしもと祇園花月
2020年9月10日(木) 18:15開場 19:00開演
マンゲキ×∞×神保町 presents わちゃフェス2020~よしもと東西若手3劇場の10時間ぶっとおしオンラインフェス!~
9月27日(日)12:00~ 開催
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ライター/岩本和子 撮影/越川麻希
スペシャルインタビューMOVIE:CAMSIDE
取材協力/純喫茶 アメリカン