やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』 相席スタート山添編「普段ならこんなこと言わないですけど…」
やさしいズ・タイが、コント師と共に語り合う対談企画『ここだけのコントの話をしましょう』。第4回は、相席スタート・山添寛が登場する。
吉本の養成所・東京NSC14期出身でタイの2年先輩でもある山添。山﨑ケイとのコンビ“相席スタート”では、ネタ作りを担当している。今回は、4月14日に開催されるやさしいズ主催のコントライブ『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』に相席が出演するのを記念して対談が実現。
コンビのことやコントについて、ときには真剣に、ときには笑いを交えて本音で語ってくれた。
漫才だけではないコントにも出せる“人間性”
ーーお互いについてどんな印象をお持ちですか?
タイ:僕ら東京NSC16期以下の後輩は、コントのときの山添さんのことを“バケモノ”って呼んでいます。演技もツッコミ方もめちゃくちゃ上手いし、相手を立たせながらも、自分も(笑いを)取りにいっているというか……。
ツッコミで笑いを取りにいくと、そちらばかりが引き立つ場合もあるんですけど、ガツガツ感があまりなく、全部持っていく感じがエゲツないって。
山添:そんな噂聞いたことなかったですね。めっちゃ嬉しい。
ーータイさんたちがおっしゃっているようなことは意識しているんですか?
山添:男女コンビを組む上で(相手を立たせるのは)心がけていました。
ただ、前のコンビから自分で(笑いを)取ろうとは思ってないです。ネタを作っていたら、“賞レースで戦う時にボケ数が少ない”とか“パワーが弱い”とか、自分たちの弱点が見えてくるじゃないですか。そこをどう補おうかとは思っています。
タイ:山添さんの人柄が出るのがいいんですよね。コントでクズ役をやるときに、紳士っぽいけども、ダメさ加減が垂れ流れていて、隙があってちゃんとしすぎていない感じとかトーンがいいなって思います。あと、じつは山添さんって顔芸ですからね。
山添:違うよ。フレーズで笑いを取りたくてこの世界に入ったのに(笑)。
ーー山添さんはタイさんについてどんな印象を持っていますか?
山添:住んでいるくらい∞ホールにいるところが好きです。
タイ:それ違うんですよ。たまたま僕がいるときに、山添さんがいらっしゃるだけなんですよ(笑)。
山添:(タイは)むちゃくちゃお笑い好きで、むちゃくちゃコント好きで、人のネタもめっちゃ見るんですよ。僕も∞ホールに出るようになってから、先輩のネタをずっと見ていた方なんで、一緒のマインドでいるのは嬉しいですね。
ーーお互いのコンビで好きなネタはありますか?
山添:僕はやっぱり『牛丼最強理論』ですね。∞ホールのYouTubeチャンネルで今すごいことになってるじゃないですか(4月5日現在で150万回再生を突破)。そうなる前に観ていて、タイに会ったときに「あのネタいいよな~」って直接言ったくらい好きです。僕のクズ役のコントも理論でぶつかる時があるんで、それに似ているというか。
ーー共通点があるんですね。
山添:僕の中で、(漫才だけではなく)コントにも人間味は出せると思っていて。やさしいズのパワーバランスとして、タイの方がしっかりしているように見えていたので、どうしても(タイがコントで)バカ役をやっても、僕の中で100%見えていない部分があったんですけど、牛丼のネタでは、バカな役をやっても1個姿勢として勝ち気な部分があるから腑に落ちる。だからこそ好きですね。
タイ:普通に嬉しいです。
山添:1個知的な部分もあってしっくりくるし、でもタイにしかできないキャラクターも思う存分出ていて、いいネタですよね。
タイ:確かにあのコントは結構自分に近い部分があるから、山添さんがおっしゃるような“コントでも仁(にん)が出せる”ところがあるかもしれないです。理論のところは自分自身に近いけど、作業着を着ているキャラクターっていうのは、コントとしてのキャラを借りているので、それの融合みたいな感じです。
ーータイさんが好きな相席さんのネタを教えてください。
タイ:浮気を疑った彼女に、彼氏が自分の携帯を見せる『付き合って半年』ですね。あれもやっぱり山添さんのクズ感と根拠のない度胸があって好きです。山添さん自身にも肝が据わっているイメージがあるので、そこが出ていていいですよね。あのコント、長い時10分以上やりますよね?
山添:もともと5分で作ったネタなんですけど、それこそやさしいズのライブ『やさしい集い~ただコントを愉しむ夜~』で呼んでもらったときに10分くらいやりました(笑)。当時、1組7分くらいまでなら大丈夫なように組んでくれていて、“好きなの言っても大丈夫やな”って思ったら言いすぎて。
タイ:あれは、20、30分でもできますよ。
山添:あのネタ実体験から作ったんですけど、自然と台詞が出てきますね。僕はどちらかと言うと、コントは、自分もしくは自分たちに近いキャラから作りたいので、もともとのやりやすさはあると思います。
コンビのブレーンが語るコントの“演出”
ーー自分とはかけ離れたキャラが出てくるコントに挑戦しようとは思わなかったんですか?
山添:“自分たちがこのネタをやるのが一番面白い”って思うネタを作りたいから、それやったら自分たちに一番近いものから探すのがいいし、プラスアルファーで、それに背景や余談があったら面白いなって思って作っています。もし、医者と患者のコントがあっても、考え方は自分に似ている、とかになると思います。
ーータイさんは、これまで作ってきたコントのスタイルからはみ出して作ってみようと思ったことはありますか?
タイ:いろいろパターンはやっていますけど、自分を客観視できていないので、『キングオブコント』の決勝行ったときのキャラクターも、たまたまできて“こんなにハマるんかい”って驚きでした。それまでは、感情高めのキャラで準決勝に行っていたんですけど、そのとき山添さんに「めっちゃええネタやけど、本当のタイじゃないもんな」って言われたことめっちゃ覚えています。自分の中でもなんとなく分かっていたことなんですけど、“そうなんだよなー”って改めて思って。いま思うと、決勝行ったネタは自分にちょっと近いキャラだったので、自分自身の延長線上にあるキャラの方がいいのかなって。
山添:俺のイメージやと、やさしいズのコントはよくできていて、こんなに幅広い人にコントを見てもらえるネタを作れて達者やなーって思うし、僕はマネできひんと思うし。だからこそ決勝の賞レースに行ける人たちなんやろなって思いますね。
ーーでは、相席さんの魅力はどんなところにあると思いますか?
タイ:コントに無理がないし、2人の延長線上だし、人間同士の会話が面白いですよね。山添さんと同じマインドの人が見たら“何が面白いんだ”って思うネタなんですけど(笑)、それこそがめっちゃいいコントだと思います。当人同士は普通のことを言っているんだけど、その会話がズレているから笑いになっているみたいな。そういうところがすごいなって思います。
山添:『牛丼』のコントも正義と正義がぶつかっているからオモロいんかもしれないですね。一般的に見たらおかしく見えるだけで、どっちも別に間違っていないからね。僕も(コントの中で)自分の中の正義をぶつけているので、ケイさんにも「ツッコミしようとしなくて大丈夫なんで、ほんまに腹たったら怒ってください」とは言っています。
ーーフリー演技で怒ってもらうというか。
山添:台詞を決めて逆にウソくさくなるのが嫌なんですよ。でも、そこの爪の甘さがあるから賞レースで勝ちきれへんのかなって。(決勝は)もっと細かく詰めて、一言一句無駄にしないように作らなければいけないステージなのかなって思います。
ーータイさんは、相方の佐伯(元輝)さんにどんな演出をされるんですか?
タイ:けっこう細かく言いますね。大人っぽい役のときは「文の一文字目を強く言ってくれ」とか、子どもの役のときは、語尾を強くすると子どもっぽく見えるので、そうやって伝えたり。
山添:へ~。
タイ:佐伯のクセで言葉尻のテンションが下がるときがあるので「そこを上げて返してくれ」とか「半拍開けてくれ」とかめっちゃ細かく言います。
賞レースで見た山添の“どん底の顔”
ーーいい機会なので、タイさんが山添さんに聞きたいことがあれば教えてください。
タイ:『山添展』(山添の主催ライブ。山添がケイや複数の芸人とコントをする企画)は、どういうゴールがあるんですか?
山添:作家さんが「山添で単独やらへん?」って声をかけてくれはったんがきっかけなんですけど、僕らのタイプ的に、ケイさんは「北斗晶さんみたいに、夫とテレビに出たい」とおっしゃっていて、ずっとお笑いをやっていきたい僕とは違う方向なんですよ(笑)。そういうのもあって、自分で何かせなアカンなということで単独をやらせてもらっていて。今後一生、最低でも年1ペースでやれたらなとは思っています。
タイ:僕、ユニットコントのライブをやりたいって思っていたんですけど、(山添の話を聞いて)“ルートとして全然いいんだな”って思いました。コンビはコンビの道がちゃんとあって、それとは別に個人目標の道もあって。
ーーユニットコントや『山添展』は、芸人として違う空気が入る感じなんですか?
山添:そうですね。あと、ネタを書くときに、同性でやった方が面白そうやなと思ってやめているコントもあるので、僕が出すものを消化している感じです。
タイ:『キングオブコント』についてはどう思っていらっしゃるんですか?
山添:めっちゃ決勝に行きたいよ。俺たちが立ちたい舞台から、どん底の俺の顔見たんやろ?
タイ:はい(笑)。どん底の顔すぎて、1年半くらい寝かして本人に伝えたことなんですけど、僕らが決勝に行った年(2018年)、準決勝の楽屋で、お互いウケたし、感覚的には決勝にいったなと思っていて。でも、それは口に出さない感じで他愛もない話をしていたんですけど、いざ発表になって、僕ら9番目に呼ばれて、10番目の方々が呼ばれたときに、“あれ? 相席さん呼ばれてねぇ”って……。壇上からパッと山添さんを見たら、口あんぐり開けてどん底の顔をしていました(笑)。準決勝まで死ぬ気でネタを叩いたし(改良して)、決勝に行きたい気持ちも分かるんで。
山添:(笑)。
タイ:で、1年半後に“じつはあのとき、とんでもない顔をしていましたよ”って言えました(笑)。
山添:気を遣わせたな~(笑)。ただ、先ほども言いましたけど、僕らは、やさしいズみたいに緻密にやっていなかったですからね。勝ち方も分かっていないから、そういうところを盗みつつ、大事にしてきたものを譲らずに、決勝に行けたら理想的やなとは思います。あと僕は、ネタの余白部分が好きなので、そういうフリーの部分を残すところなんかは、“そんなんで勝てるほど甘いものちゃうぞ”って毎年言われているような気がします。
ーーネタを叩きすぎると不具合が出たり、迷走したりすることもあるんですか?
タイ:僕も、コントの「え?」「あ?」って聞き返す間とかが面白いと思うし、好きなんですけど、(賞レースでは)ここがいらない部分になってくるじゃないですか。でも、「え?」とか「あ?」を消してしまったときに、後のボケがウケなくなってしまうときもあるし。
山添:ひと笑いある尺を抜いて、同じくらい、もしくはそれ以上ウケる違うくだりを見出しているすごさですよね。それはGAGさん、うるとらブギーズさん、やさしいズとかに感じることです。
タイも驚く相席スタートの分岐点
ーーこれまでさまざまな経験をされたと思いますが、コンビとして、ひとつ上のステージに上がったと思えるターニングポイントを教えてください。
タイ:同期のサンシャインが、3年目で『キングオブコント』の準決勝に行ったことですね。NSCのクラスから一緒だったこともあったので悔しかったし、準決勝も先輩がたくさんいたイメージがあったので、“俺たちの芸歴でもいけるんだ。絶対来年行ってやる!”って思いました。そのあと、まだかけてもいない新ネタができたときに“いける”と思った『追試』のネタがあるんですけど、それで実際に準決勝に行けましたし、そのおかげで、準決勝のエゲツさを知れたというか。(サンシャインの準決勝進出のおかげで)現実味が増した感じですね。
山添:コンビを結成して最初の方は、自分がタイに言ったように、本人(本来の自分)と違うことをやっていたんですよ。もちろんケイさんが(ボケとして)やりやすいネタを作っていたんですけど、僕的にはただの台詞・文章というか。
本来のケイさんはどちらかと言うと、ボケじゃなくてツッコミの人なんで。そこの違和感を持ったまま“このままでは息が続かない”と思っていたら、ラッキーなことに『M-1グランプリ』の決勝に行けて。それでも“地に足がついていない状態でやっているぞ。大丈夫かな?”っていう感じが続いていたんですよ。
それまで“何もできへんヤツ”みたいな扱いやったこともあって、ケイさんに、面白いと思ってもらっていないやろうから“ヤバいな”って思っていたんですけど、(潮目が変わったのは)『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系)じゃないですかね。そこでフワッと僕に振ってくれはる回数が多くなって、そこからネタの意見も通りやすくなって。
タイ:意見通らなかったんですか?
山添:めちゃくちゃ狭かったね。『M-1グランプリ』の決勝に出られて、もう一段階ネタが通りやすくなって……っていう連続だったんですけど、ターニングポイントとしては、『ガヤ』で、ケイさんに“山添ってできるヤツなんかな?”って思ってもらえたことやと思います。それからは、僕のアドリブにも笑ってくれるようになったし、ちゃんと話を聞いてくれるようになったし、ネタ中も平場(フリーの場)もキャッチボールができるようになった気がします。
タイ:マジで意外です。
山添:普段ならこんなこと言わないですけどね(笑)。
ーーそれが、コントにも還元していったんですね。
山添:僕的には、“ボケがないコンビ”ってこんなに弱いことはないって思っていて。ケイさんは考え方とか刺すようなワードが得意ですけど、それってツッコミの方が向いているじゃないですか。(当初はケイがボケを主にやっていたため)無理した役割を背負わせて戦っていけるわけがないと思っていたし、でも、ボケがなかったら、ツッコミの僕の役割がなくなる。そこで僕に1個重心を乗せなアカンって考えたんですよ。ボケの仁をつけた方がええと。
でも、最初それを漫才で入れるとしっくりこんから、コントで自分のボケのネタを書くようになりました。で、(お客さんに)“コイツも笑いを取れるタイプなんや”って思ってもらえたら、コンビとしてよくなるんちゃうかなって。そういうことから(山添がボケを担うコントが)始まりましたね。
タイ:(変わったのが)めっちゃ最近ですね。そんなイメージがまったくなかったんで……。相席さんが結成されたとき、後輩は「ケイさんがストライカーだけど、シャドーストライカー(山添)もエグいぞ」ってずっと言っていたんで。そんな感じだったのは意外でした。
山添:じつはそうやったんですよね。
ーー最後に、4月14日に、相席さん、わらふぢなるおさんをゲストに迎えた『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』が開催されます。意気込みを聞かせてください。
タイ:このライブって基本的に好きな先輩しか呼んでいないんですけど、好きな方々の前で新ネタやるってなると、作るときにグッと妥協せずに作ろうと思えるんですよ。このライブ始まって数回ですけど、“ちゃんとしたゲストを呼んだ方がいい”って最近分かってきました。単独ライブより妥協しないかもしれないです。
山添:僕が17期以下の後輩のコント師やとしたら、タイは要注意人物として尊敬していると思うんで。
タイ:要注意人物ってなんですか(笑)。
山添:“この人を通り抜けていかないと、コントの頂点は獲れない”と思うというか。そんなやさしいズに呼んでもらったライブで恥はかけないですよね。結果によっては17期以下の後輩にバカにされるかもしれないプレッシャーの中で戦いたいと思います。
やさしいズ
NSC東京校16期。佐伯元輝とタイの同期生コンビ。2011年結成。
相席スタート
2013年結成の、自称「ちょうどいいブス」山崎ケイと、自称「クズ紳士」山添寛で構成する男女コンビ。
■ ライブINFO
『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』
日程:2021年4月14日(水)16:40開場 17:00開演
会場:ヨシモト∞ホール
出演者:やさしいズ/わらふぢなるお/相席スタート
■月刊芸人 やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』
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ライター/浜瀬将樹 撮影/越川麻希