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「努力見せるってダサいでしょ」ダイタクの美学をかたちづくる“先輩・後輩”という存在

もはやダイタクの代名詞的企画となった「60分漫才」。今夏開催される2年ぶりの単独ライブでも60分漫才を披露する。なぜダイタクはこのチャレンジをライフワークとするようになったのか? その根っこには、駆け出しの頃に見た先輩たちへの憧れが詰まっている。「努力見せるとか、ダサいでしょ」と言い切る二人の美学とは――。

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「10分漫才ってどうすりゃいいんだよ」から始まった

――7月2日に単独ライブ「ダイタクの60分漫才~2021 夏~」が開催されます。ダイタクさんといえば60分漫才というイメージがありますが、もともとなぜこれを始めたんですか?

吉本拓(以下、拓):初めての単独ライブでやったのが最初ですね。

吉本大(以下、大):たしか5年目だったと思います。囲碁将棋さんとかタモンズさん、井下好井さんとか、先輩たちでその形式をやってる人が多かったんですよ。初めて見たのはタモンズさんだったかなぁ。「60分間ぶっ通しで漫才って、どうやんの? かっこいいな」って思ってました。だから初単独で絶対やりたいなって。

作家の山田ナビスコさんに「10分漫才やってみろ」って1年目の頃に言われたんです。「10分もどうやりゃいいんだよ」ってところから始まって、だんだん「じゃあ次20分」「30分で」って言われて伸ばしていってました。それで初単独では60分チャレンジしてみようか、って。NSCの頃に2丁拳銃さんの『百式』(100分ノンストップで漫才をするライブ)を見て「おもろ!!!」って思ってたのも大きいです。

まだ芸人やる前だったし、「こんなことできる人がいるんだ」って衝撃でしたね。

ほんとにそう思ったな。

天才というか、本当にすごい人しかできないんだと思ってた。

憧れはありました。


――60分となると、当然ネタの作り方は変わってきますよね?

10分ネタだったらネタの内容は一本でもいいですからね。60分漫才って、普通の90分間の単独ライブよりネタ数がいるんですよ。ブリッジの映像もコントの転換もないんで。で、僕らの場合、「似てない」ってネタやった後に「似てる」ってネタはできなくなるんです。60分通して辻褄を合わせないといけない。

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――たしかに! そこはほかの60分漫才やる方ともまた違う点ですね。

一番違うところっすねぇ。それが本当に大変です。今回も「辻褄合わなくなるから」って省いたネタが何本かあります。


絶対に逃げられない60分漫才はいつもあっという間

――後輩をゲストに、30分ずつ漫才するライブも定期的にやってらっしゃいます。

山田さんの系譜の漫才師たちはみんなやってますね。山田さんはさすがだなと思います。「M-1グランプリ」獲って手っ取り早く売れる方向に持って行かせないというか、「とりあえずまずは力つけてみろよ」ってことなんでしょうね。

漫才の時間が長くなればなるほど、コンビの特性とか差が出ますから。向いてない人は向いてない。僕らはどっちかというと長いのが向いてるほうだと思います。

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――長尺漫才の経験を積むことで鍛えられていく部分があるんですね。

そうですね。長いと逃げられないんで。


――逃げられない、とは?

5分ネタだったらスベっても「ありがとうございましたー」って逃げれるじゃないですか。単独だったとしても、間にVTRが流れたら一回切り替えができますよね。でも60分漫才はスベってもそのまま舞台上に立っていないといけない。「スベったな、いまお客さん置いてっちゃってるな」って思ったら、次のネタにちょっとアドリブを入れて「さっきのスベったくだり繰り返すなよ」って回収しようか……とか、ずっとぐるぐる頭回転させながらセリフしゃべってるんですよ。

そういうのめちゃくちゃあるな、マジで。ネタのつなぎ目が露骨だと笑いがぐっと減るし。60分漫才では「話は変わるけどさぁ」って言葉がいちばんの禁句ですね。

わざとそういう切り替えの仕方することもありますけどね。

まぁそうね。強引に話切り替えて「下手くそだな!」ってツッコんでそれもボケにするとか。

もう本当、あっという間っすよ、60分。

あっという間っす。みなさんも一回やってみたらいいですよ。あっという間ですから。


先輩の背中から学んだ「努力を見せないかっこよさ」

――「先輩たちの60分漫才を見てかっこいいと思っていた」というお話もありましたが、東京吉本の中でもダイタクさんは特に先輩たちへの憧れや愛情が強い気がするんです。

そうっすね。先輩方がほとんど売れてないんすよ。

そうなんすよ。

(笑)。でも売れてる売れてない関係なくマジで面白い人は山ほどいるじゃないですか。そこに対するリスペクトですよね。もちろん「残念だな」って思うことも山ほどあるんですよ。「この先輩たち、面白くなくなっちゃったな」とか。

ショックなんすよ。「あんなに面白かったのに!」って。食っていくために漫才以外のことに一生懸命な人もいっぱいいますし。でも、こういうときいつも名前が出てきますけど、たとえば囲碁将棋さんなんかはクリエイティブなんですよね。新ネタやるのはもちろん、グッズつくるとかYouTubeとか今までやってこなかったことを始めてるじゃないですか。「M-1」に出ていたときはネタしかやらなかったけど、出られなくなった今、新しいことやってる感じがすごい良いなって思う。

囲碁将棋さんが売れないわけないと思ってずっと一緒にいましたけど、結局「M-1」は決勝いけなくて、でも気づいたら今めちゃくちゃ調子よくて売れる一歩手前みたいになってる。「なんでだよ」って思いますよ。不思議じゃないですか。面白いことずっとやってきてるのは変わらないわけで。

僕ら、売れるために決め打ちで「こういうことしよう」「この方向でいこう」みたいに努力するのが苦手なんです。だから囲碁将棋さんみたいにただただ面白ければ「M-1」終わってもチャンスがあるんだって、夢見させてもらってます。

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根建さんが前に「いちばんかっこいいのは、努力しないで面白いこと。それができないから努力して面白いことやるけど、できるだけ努力は見せたくない」ってポロッと言ってたんです。実際、囲碁将棋がネタ合わせしてるところなんかほとんど見たことないし。先輩たちがそうやって「面白かったら売れるだろ」ってスタンスだったから、俺らもそういう感じなんです。でも川瀬(名人/ゆにばーす)とかオズワルドとかは「絶対M-1優勝する」みたいなライブ打ちますよね。俺たち、恥ずかしくてあんなのできないですよ(笑)。努力見せてるじゃないですか。ダサいんですよ、それ。「酒飲んでギャンブルやってばっかで、でも実はめちゃくちゃ面白い」ってほうが芸人の生き様としての格好良さがあると思ってるんで。

見せたくねぇなぁ、努力。まぁそもそも、あんまりしてないですしね(笑)。


芸人が「面白かった」と言ってくれるのが一番嬉しい

――お二人が先輩を慕うように、ダイタクさんも後輩から慕われてますよね。

「慕え」って言ってるだけです。

強制してるだけ。


――でも後輩の方たちの取材をしてるとよくお名前が出てきますよ。

それも全部「言え」って言ってるんで(笑)。

一般社会だったら最悪の上司ですよ。「おい、飲み行くぞ」って未だにノミュニケーションやってるヤツ。社会人だったらパワハラになるけど芸人にはパワハラがないんで、この世界にいてよかったなって思ってます。


――ニューヨークさんやオズワルドさんなど、可愛がっている後輩たちが売れつつある状況です。それはどう見ていますか?

めちゃくちゃ良いことだと思ってます。俺たちがこれから売れたときに、周りが友達ばっかりだったら最高じゃないですか。昔、ニューヨークやデニスがフジテレビのレギュラー始まったときは(『バチバチエレキテる』2013年)、嫉妬じゃないですけど純粋に応援はしてなかったと思います。でも今は誰が出てても「良かったね」って思います。

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――そういう光景を見ていて、自分たちももっと売れるために密かに目標を決めたりすることもないですか?

僕らは全然そんなのやらないですね。ダサいでしょ、芸人が目標掲げるって。

いいネタつくった、「M-1」たまたまいけた、っていうのが理想ですね。

そういう先輩たちの影響を受けましたからね。だってギャップ兄やん(5GAP)が目標掲げてたら嫌じゃないですか?


――嫌ですね(笑)。

でも、どこいっても面白い。この間もネタ見て腹ちぎれるくらい笑ったなぁ。マジでかっこいいです。いよいよ売れるんじゃないですか? 久々にお会いしたんですけど、ふたりとも色気が半端じゃなかったですから。

:ショウショウさんとかも、後輩の中でバカにするやつ1人もいないんですよ。いまだにちゃんと面白い。もちろん売れたいですけど、後輩に「ずっと面白い」と思われたいっていうのが一番強いかもしれないですね。

大:先輩でも後輩でも、芸人が袖で見て「面白かった」って言ってくれるのが一番嬉しいです。でも俺ら、どっちかっていうとそういうタイプじゃないんですよね。インポッシブルとか囲碁将棋さんとか、お客さんより芸人が笑ってるタイプっているじゃないですか。僕らの場合、客も芸人も同じ量で笑うネタが一番いいネタです。

俺、芸人に「面白かったわ」って言われて「ほんとに?」って思うときがよくありますよ。そういうタイプじゃないと思ってるから。だから逆に、それが「このネタはイケるかもな」って考える指標になります。でも、みんな長くやりすぎて感覚がぶっ壊れてるんで、「面白いね」って言われて鵜呑みにして別のところでやったらめちゃくちゃスベることもしょっちゅうありますけど……。

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ダイタク
東京吉本が誇る双子漫才師。
M-1グランプリ2年連続準決勝進出、『ててて!TVゴールデン大金笑漫才スペシャル』(山梨放送)優勝。双子を生かした多彩な漫才やMC・トークの面白さはライブシーンでも知れ渡り、「悪魔の双子」と言われ劇場を盛り上げ続けてきた。
熊本県育ちで血液型はO型、見分け方は左目に泣きぼくろがある方が弟・拓。



■撮影協力

渋谷横丁 in RAYARD MIYASHITA PARK
東京都渋谷区神宮前6丁目20番地10号 RAYARD MIYASHITA PARK South 1F


■ダイタクINFO

ダイタクの60分漫才~2021 夏~
開催日時:7月2日(金)開場18:15/開演18:45/終演20:00
会場:ルミネtheよしもと(〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目38−2 ルミネ2 7F)
出演者:ダイタク
料金:前売 ¥3,000/当日 ¥3,500/配信 ¥1,600(GoTo割引料金)


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ライター/斎藤岬 撮影/越川麻希
企画・編集/かわべり





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