「ずっと、これくらいが一番ちょうどいい」 いま、マユリカに起きていること。
ファーストビキニ写真集が異例のヒット、テレビ番組に出演すればSNSを賑わせ、雑誌では表紙を飾り、ステージに立てば大歓声———。
まるでアイドルのような現象が、いまのマユリカに起きている。
彼らがなぜこんなに強烈に人を引きつけるのか?
幼なじみという2人の青春時代の思い出や、笑いのルーツを聞いた。
クラスのリーダー的存在の中谷と、足が速くモテモテだった阪本
——同級生コンビは数多くいますが、3歳からというのは珍しいですね。
阪本:幼稚園年少組で出会いました。僕がうさぎ組で、こいつ(中谷)がひよこ組でした。
中谷:僕らが3歳の時に地元の街が街びらきになったんです。森を切り開いたニュータウンができて、そこに一斉に引っ越してきた中に僕らの家族もいて。
——その頃のことって覚えていますか?
阪本:正直、僕はまったく覚えていないです。
中谷:僕は母親に、「あそこで土をいじってるのが“しょうちゃん(阪本)”やで」と言われたのは何となく覚えてます。
阪本:怖い! なんでお前のお母さんが俺のこと知ってるん?
中谷:怖がるなよ! 親同士のコミュニティがあったんちゃう?
——小学校も同じで。
中谷:そうですね。でも同じクラスだったのは小学1年生と4年生だけです。
阪本:4年生の時は、クラスの「お楽しみ会」でコントをやりました。「たちばな先生」という、変な先生を題材にしたコントでした。
中谷:僕らと、ワダックスっていう子と3人で、誰がネタを作っていたかは覚えてないですけどワダックスがボケやったのは覚えています。僕が『笑う犬の冒険』が好きで、テレビコントのシリーズをマネしたくて、休み時間に皆でネタを考えてコントをやっていた気がします。でも2人とも、それでお笑いに目覚めた、というわけではないですね。
——お互い、どんな少年でしたか?
阪本:(中谷は)人を集めて地元のドッジボール大会に出場したり、結構リーダー的存在で……あ、でも男子の中だけ。女子からの支持はゼロでした。
中谷:わざわざ分けて言わんでええやん! (阪本は)明るかったですし、社交的でしたね。一緒に遊んでいてめちゃ楽しかったし、運動も得意で。走るんがめちゃ速かったんですよ。
阪本:クラスのリレー選抜に選ばれて、僕は正直、小学生の時はめちゃくちゃモテました。
中谷:それをいま言って、お前の何が満たされるん?
阪本:アゴもいまみたいにニュッと出てなかったし、丸顔で目も大きかったし、ほんまにモテたんです。高校時代からなんか急にアゴの調子が悪なって……。
中谷:もうええって(笑)。その後、僕が中高一貫の姫路にある男子校に進学して、阪本は地元の公立中学に進学したんですけど、日曜とか長期休暇の時に皆で集まって遊ぶ、というのが6年間続きました。
阪本:公園でフリスビーしたり、チャリでひたすら遠いところまで行くとか。僕らはそれを“チャリ旅”って呼んでいたんですけども。
中谷:よくやりましたね。 1日がかりで明石海峡大橋まで遊びに行ったり。
——まさに“少年時代”ですね。お2人が、お笑いに興味を持ったのはいつ頃ですか?
中谷:僕は高校から大学の頃はインターネットにドハマりしたり、漫画とか絵を描いたりしていたのでお笑いはまだ全然。たまにテレビで観るくらいでした。
阪本:僕は高校生の時です。お笑いにハマったきっかけが、クラスメイトの澤下さんという人でした。同級生なんですが、後に先輩になるんです。僕らはNSC33期生で、澤下さんは32期生で。澤下さんはもうお笑いは辞めてしまったんですけども。
——「お笑いにハマる」とは?
阪本:めっちゃキモいんですけど、授業中にメールで大喜利したりしてました。
中谷:阪本と遊んだ時に「こないだ、みんなで集まって大喜利してん」って聞いた時はカルチャーショックでしたよ。「そんなんすることがあるんや!?」って。
阪本:キモいですよね。男だけで集まって、公民館みたいなところで場所を借りてフリップを自分らで用意して。お客さんもいない中、自分らだけでやるなんて、自己満も自己満で。
中谷:「何かをしたい!」という熱だけあるって感じやな。
一般でオーディションを受けては落ち……を繰り返してNSC入学を決意
——お2人は大学を中退してNSCに入学されたそうですが、阪本さんが中谷さんをお笑いの世界に誘ったんですか?
阪本:厳密に言うと、NSCに入る前、僕から声をかけて月に一度、2人でbaseよしもとのオーディションを受けに行っていました。
中谷:いま思えば、ようやったな〜と思います。夜に2人でファミレスでネタ作って、車でオーディションを受けに行って、というのを1年間続けました。初めてのオーディションで、2人ともネタを飛ばしてんな。
阪本:緊張しすぎて胃が痛くなって……。半泣きで帰りに「薬局に寄ろう」って、胃薬飲んで、車で飛んで帰りました。いくら受けても全然合格できないし、一般なので(芸人同士の)横のつながりもないし、「このままでは合格できへん」と思って大学を辞めて中谷をNSCに誘いました。
中谷:僕はいい友だちもたくさんいたので大学は辞めたくなかったですけど、阪本に毎日のように「意味ないで」と言われて洗脳されて(笑)、しぶしぶ辞めました。いまとなれば辞めてよかったです。絶対に両立できなかったと思うから。
——オーディションで辛酸を嘗めてからのNSC入学だったんですね。
中谷:NSCに入って同期がいるってめちゃくちゃデカいんやなと思いました。一緒にごはんを食べたり、遊んだり。
阪本:ビスブラ(ビスケットブラザーズ)とkento fukayaがとくに仲がよかったですね。
中谷:ZAZYに秋定(滝音)、堀川絵美、ケツ(ニッポンの社長)……たくさんいます。楽しい思い出しかないよな。お金は全然なかったけど。
阪本:電気、水道止まりまくり。でも皆同じ境遇やから気にならなかったです。バイトでも、きんちゃん(ビスケットブラザーズ)と一緒に夜勤入って、朝5時に終わってからちょっと飲んで公園でキャッチボールして帰ったりとか。
中谷:朝方によくキャッチボール、してたなぁ。それくらい、めっちゃヒマやったんです。
——マユリカというコンビ名はいつ付けましたか?
阪本:NSCに入ってからです。それまでは、いぶきというコンビ名やっていたんですが、2人で「お互いの共通点から新しいコンビ名を付けよう」となって、2人とも妹がおるからその名前を取って「マユリカ」が出た瞬間「ええんちゃう?」ってなったんですよ。
中谷:なんか、ハマった感じで。
阪本:でも後に、まさかこんなに「キモい」と言われるとは。回りから言われ出してから「そんなに気持ち悪いことなんや」って気づきました。
——そうだったんですね(笑)。NSCを卒業された後は?
中谷:3年くらいは月に舞台数3つとかでしたね。
阪本:インディーズライブに出たり、オーディションを受けたりもしましたが、全然。鳴かず飛ばずでした。
——結果が出ない時期、心が折れそうになったりは?
中谷:うーん……なかったですね。
阪本:何も焦ってなかったんです。同期だと男ブラや清友が組んでいたライフバーナーが早めに劇場入りしたんですけど「すげえなあ」という感じで。
中谷:「やばい!」みたいなのはなかったですね。現実味がないというか、まだ仕事という感覚も薄くて。
阪本:ご機嫌に暮らしてましたよ。インディーズライブで先輩方とのつながりもできて、ずっと遊びの延長でやっている感じでした。
「Podcastって何?」で始まった『うなげろりん!!』がいまや財産
——そんな状況から「変わってきたな」と感じるようになったのはいつですか?
中谷:4年目で劇場メンバーに選ばれてギャラをいただけるようになり、それでちょっと仕事感が出始めたのが最初の変化かもしれないです。劇場に入るのは、同期で僕らとビスブラが一番遅かったです。
阪本:とくにビスブラとは仲がよくてバイト先も一緒だったので、同じ境遇の奴が隣にいたからそんなに焦ってなかったんかな。でも、「変わってきた」と感じたのって、ほんまにここ最近ですね。
中谷:コロナ禍に入ってからやから、1〜2年くらい前かな?
阪本:見取り図さんのYouTube(「見取り図ディスカバリーチャンネル」)のドッキリの企画で初めて僕らを出してくださって、そこから何度か出るようになって僕らのことを知ってもらえたり、ロングコートダディさんのYouTube(『ロングコートダディ和尚のゲーム念仏』)に出てロングさんのファンの方にも知ってもらえて。
——先輩方のYouTubeに出演したのがきっかけで徐々に知られるようになったんですね。
中谷:同じ時期に(ライブ)配信が始まって、大阪以外の方々も知ってくださる方が増えました。あとはやっぱり2021年の『M-1グランプリ』の敗者復活ですかね。たくさんの方に観ていただけてありがたかったです。
阪本:僕は、『マユリカのうなげろりん!!』(Podcast)がだいぶ大きいです。
中谷:たしかにいまでは“財産”やな。
阪本:2021年7月から始まったんですけど、その頃は「へー。で、Podcastって何?」って感じだったんですけど。
中谷:ほんまにそう! 「なにそれ?」と思ってました。
阪本:いまではほんまに感謝です。『うなげろりん!!』をやっているのとやっていないのとでは全然違ったと思います。
——『うなげろりん!!』では、阪本さん発案のビキニ写真集『Perfect!!』が大きな話題になりました。
阪本:Podcastの運営費を稼ぐためにビキニになったんですけれども。
中谷:まさに“一肌脱いだ”です。
——ビキニ写真集のいきさつから撮影秘話、発売後の盛り上がりまで、アーカイブで聴きましたが、どんどん実現してゆく様子を追うことができ楽しく拝聴しました。
阪本:Podcastはアーカイブがあるので、僕らに少しでも興味を持ってくださった方にイチから全部聴いてもらえるのはだいぶ大きいです。
——先日100万ダウンロードを達成し、その記念企画として、阪本さんがずっと推しているアイドル、モーニング娘。’22の野中美希さんとリモートでお話するドッキリもありましたね。
阪本:ほんまにエグいです。「Podcast、やっててよかった」と一番思いました。
中谷:こいつが泣いているところを見たのは子どもの時以来です。
阪本:うれし涙が出たのは人生初でした。僕、その日、うれしすぎて意識が朦朧として、財布を落としてしまったんです。ちゃんと見つかったんですけれども。
中谷:フラフラと1人で出ていって、「こいつ、大丈夫か?」と思っていたら案の定でしたね(笑)。
——見つかって何よりでした。では中谷さんが『うなげろりん!!』を“財産”と感じるのは?
中谷:友だちや同級生、それに業界関係の方が聴いてくれているのがありがたいです。音楽業界や出版業界の方が聴いてくれて、わけのわからないほど遠い世界まで届く媒体になっているのがめっちゃうれしいです。
——ビキニ写真集も、出版社の方が聴いていたから実現したんですよね。
中谷:そうです。「そんな展開の仕方、するんや!」とびっくりしました。
阪本:あと、中谷に出版社の方から漫画の話が舞い込んだり、「こんなん、でけへんかな?」と言ったら、リスナーの方から「私、できますよ」とメッセージが届いたり。ちょっとしたオンラインサロンみたいになってきました(笑)。
——これからチャレンジしてみたいことはありますか?
中谷:『うなげろりん!!』はずっとあったらいいな、と思いますね。いまが少しずつ広がってちょっとずつ規模が大きくなったら最高です。
阪本:いまくらいが一番ちょうどいい。
中谷:なんて向上心のない……(笑)。
阪本:例えば、僕らが有名になったら無責任なことを言えなくなると思うんですよ。おりこうにしないとダメとなったらつまらなさそうですもんね。
年を追うごとに人見知りになる阪本と、退化!?する中谷
——2人は3歳の頃から一緒にいるわけですが、いまの姿を見て「こいつ変わったな」と感じるところはありますか?
中谷:阪本は歳を重ねるにつれて、人見知りが出てきましたね。初めて会う方とはあまり積極的にコミュニケーションを取ろうとはしないんです。
——では、初対面の方にしゃべりかける時は中谷さんから?
中谷:でも僕自身も、別に根っから明るくて、というタイプでもないんです。
阪本:上辺の会話がむっちゃうまいんです。
中谷:いやな言い方!
阪本:興味ないのに「あそこの店、行きました?」とか聞いてくるタイプの。本当の意味で仲良くなれない会話ができる、という特技を持っています。
中谷:特技じゃないやろ!
——阪本さんから見た中谷さんも変わりましたか?
阪本:小学生の頃はリーダー的存在だったのに、どんどん退化していって……。
中谷:退化って言うなよ。
阪本:できないことがだんだん増えてきて、いずれサルくらいまでいくんじゃないかというくらい、すごいスピードで退化しています。たぶん数年後には素っ裸で四足歩行になっていると思います。
中谷:生物として退化しすぎやろ!
阪本:ほんまに、こんな奴やったんか!というくらいダメ人間で。謹慎にもなるし……。
——現在のお2人が、駆け出しの頃の自分たちに声をかけるなら?
中谷:う〜ん……。「2019年に絶対に遅刻するな!(※2019年に度重なる遅刻で2カ月間、謹慎処分に)」と、「2020年に濃厚接触者になるので人に会うな!(※2020年にytv漫才新人賞決定戦決勝進出予定が濃厚接触の疑いで棄権)」ということですね。
——もう遅刻はされていないんですよね?
中谷:はい。
阪本:いや、してますよ。謹慎後の2ヶ月後に舞台に穴を空けて支配人に謝りに行って、その3ヶ月後にまたやって支配人に謝りに行きましたし、舞台の袖で喫煙して「こんな問題の起こし方もできるで」っていう幅を見せてきたし。
中谷:全部言うやん! 「アカンことする引き出し、こんなにあるで」じゃないねん! それ以降はとくに何もやってませんよ!
阪本:僕は、芸人って毎日飲んで遊んで、フラッと(舞台で)ちょっとしゃべってお金もらって、また飲んで、みたいな。ニュアンスですけど“海賊”みたいな生き方やと思っていたんですよ。でも、全然違います。あの頃の自分には「思っているより、仕事だよ」と伝えたいですね。
中谷:たしかにそうやな(笑)。
■マユリカ プロフィール
阪本、中谷のコンビ。
2011年結成。
阪本の趣味は、映画鑑賞、ギャンブル、お酒。特技は遠投。
中谷の趣味は絵を描くこと、(イラスト、マンガ、似顔絵)。特技は絵を描く事(イラスト、マンガ、似顔絵)、口笛、バク転、バク宙、ブラインドタッチ。
マユリカ INFO
■撮影協力
「AQUARIUM × ART átoa」
(兵庫県神戸市中央区新港町7番2号 神戸ポートミュージアム2F~4F)
劇場型アクアリウム、アクアリウムとアートが融合した新感覚の都市型水族館です。
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取材/中野純子
撮影/渡邉一生
企画・編集/いとう
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