【2月号】芸人リレーコラム/そいつどいつ・松本竹馬
「あの日食べた鍋の味を僕は忘れない」
冬の楽しみといえば鍋だ。
冬に食べる鍋は本当に美味しいし、仲間達と囲む鍋はそれこそ最高だ。
でも僕には鍋に関する苦い思い出がある。
もう5年前くらいか、同期の1人に4対4のもつ鍋屋での合コンに誘われた。
同期と鍋だけでも楽しいのに、そこに女の子もいるなんて最高だと、少し雪の降る中、僕は一軍の服を着て合コンに向かった。
だが、僕の期待はすぐ打ち砕かれた。
「みんなは無限大でどのランクなの?」
女の子の1人が乾杯をするなり、そんなことを聞いてきた。
無限大ホールではランキングシステムというものがあり(今年の1月から廃止された)、上からピラミッドでクラス分けされている。
その当時、僕は今のコンビを組む前で、一緒に養成所に入った同級生の相方に逃げられて、完全に露頭に迷っていた。
もちろん1番下のクラス。
他の同期3人も1番下のクラスで、7-800人くらいいる無限大芸人の中、完全に埋もれてた。
正直にみんな1番下のクラスだということを言うと、女の子達は明らかにやる気をなくした。そしてそこからは、その子達の「私は芸人の○○とかと飲んでいる」みたいな、よく分からない自慢を聞くハメになった。その○○はもちろん僕らより上のクラスの芸人だ。
悔しさしかない。
でもここは芸人だ。
最下層の同期4人が力を合わせ面白さを見せつけよう!事件は、僕がそう決めた矢先だった。
「オレらもライブ頑張ってるかさら、見に来てよ。今度同期ライブがあるんだ。」
同期の1人がそう言って、女の子を誘い始めた。
僕は「あれ?」って思った。
なぜなら、その同期ライブは僕だけ出ていないのだ。当時解散ばかりを繰り返してた僕は、同期ライブにすら呼ばれないほど落ちぶれていた。
「それはちょっと行きたいかも。」
女の子が少しだけ食いつくと、その同期はすかさず半笑いでこう言った。
「来てよ。オレたちみんな出るから……あれ、ごめん。1人出ない人がいます。」
その発言に残りの2人の同期が笑った。その瞬間、僕は悟った。僕以外の男3人には力を合わせて戦う気はなかった。こいつらが取った手段は、1番下のクラスの4人の中でも、更に1番下を決め、それをイジることで、自分たちの地位を少しでもあげようとする下劣畜生の戦い方だった。
「え、なんで松本君だけ出てないの?」
女の子がそう言うと、同期の普段チャラチャラ遊んでてネタも書いてない、しかも太ってるヤツが返した。
「1番面白くないからじゃない?」
その発言でみんなが笑う。
僕は悔しすぎてマジギレして帰り、電車で泣いた。
あのときの鍋の味は忘れない。
その日から僕はめちゃくちゃネタを書いた。
そしてクラスも少しずつ上がり、ネタ番組にも呼ばれようになってきた。
今思えばあの鍋事件があってよかったのだろう。あの鍋事件が僕のネタ作りのガソリンだ。逃げ出しそうなときはあの日の鍋の味を思い出して奮い立っている。
そのときの同期はみんな芸人を辞めた。
たまに応援の連絡をくれるし、合コンのとき以外はみんないいヤツらだ。
あの日飲んだ女の子達はどうだろう。1番上のクラスになった今、ちゃんと話してくれるのだろうか。
いやきっと、無限大レベルなんかじゃないもっと上のテレビの人気者達と飲んでて、またガッカリされるかもしれない。
だけど、僕はあの日の女の子達を完膚なきまで見返すまで、僕は芸人を辞めれない。
■そいつどいつ・松本竹馬
東京NSC18期生。1989年8月31日生まれ。福岡県北九州市出身。ボケ(ネタによってはツッコミ)・ネタ作り担当。趣味・特技はボクシング、武術拳法。