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やさしいズタイの『ここだけのコントの話をしましょう』 GAG・福井編 不遇の時代に「『もう辞めようか』っていう話にもなった」
やさしいズ・タイが、コント師と共に語り合う対談企画『ここだけのコントの話をしましょう』。第2回は『キングオブコント』(TBS系)で4年連続ファイナリストとなった先輩芸人 GAG・福井俊太郎を迎えた。
あまり接点がないという2人だが、福井の「普段あまりコントの話をしないんで、何でも聞いてもらったほうがいいよ」という言葉をきっかけに、タイの質問があふれ出た。コントの作り方から賞レースの話まで、深く語り合ったその一部始終をご覧いただきたい。
空気階段かたまりも感じたあのコント台詞の妙
タイ:GAGさんのコントの中で、京都のバスガイドに告白をするネタがあるじゃないですか。
福井さんが同級生の坂本(純一)さんから離れて「これが男としての差や(この距離の分、俺はコイツに置いて行かれた)」っていうやりとりがあるんですけど、台本で考えてんのか、稽古しながらできた台詞なのか……“これ、台本だったらヤバッ!”って思って。そこをちょっと(聞きたい)。だいぶ細かいんですけど(笑)。
福井:昔のネタなんで細かくは覚えていないんやけど、基本僕らは練習して増やすことはないから、台本の段階でイメージして書いているんやと思う。「すごい」って言うもんじゃないで(笑)?
タイ:えー。そうなんですね! 僕がコントを書くときは、動きとか舞台の幅に対してボケるっていう発想がないんですよ。稽古している中で、“ボーッと立っているだけだな”って、ようやく動きをつけるというか。
福井:いまふと思い出したんですけど、まったく同じことを空気階段の(水川)かたまりくんにも言われましたね。2年前くらいに(タイと同じ)ピンポイントの台詞を指して「あれ、どうやって考えたんですか?」って。
タイ:えー!
ーーみなさん気になる台詞だったんですね。
福井:そんな引っかかるところなんですか(笑)?
タイ:めっちゃ面白いし、そこのギミックが気になりました。
ーー稽古や舞台上に乗っちゃって、アドリブが入るということもないんですか?
福井:稽古で乗るってことは1回もないですね。
タイ:えー! 僕らは稽古で飽きてきたくらいに、ポロッと出たものを採用することが多いです。
福井:頭で考える前に言っちゃう感じ?
タイ:そうですね。
福井:それは逆にすごいよ。僕らそれはないんで。
タイ:言った自覚がないので、発した後に気づく感覚ですね。「いま、面白いこと言ったんだけど何だっけ?」って忘れちゃっているときもあります。
福井:別人が言っているような感覚なんや。相方とは長く一緒にやっているんで、今まで一度もないんですけど、もし、途中でアドリブ言うたら、僕「それやめてくれへん?」って怒っちゃうかもしれないです(笑)。どちらかと言うと、台詞を100%以上に面白く言ってほしいというか、そこに懸けてもらいたい感じですね。
タイ:お二人(坂本純一、宮戸洋行)にはそうしてほしいけど、福井さん自身、ネタやっているときに“ここ深く言ったらもっと笑いが獲れる”って思わず足してしまうこともないんですか?
福井:ないね~。自分も台本の台詞をどれだけ面白く言えるかに懸けている感じですかね。だから、そういう(台本以外の台詞を言えることが)のすごいなって思います。漫才師さん的な……。
タイ:インディアンスさん的というか(笑)。
福井:憧れるところではあるけど、1回もやったことないねぇ。
タイ:そうなんですね~。めっちゃ足しているイメージというか。スーパーストライカーのイメージがありました。
福井:その場の感じでシュートを打ったことはない。
タイ:スゴッ! じゃあ完璧に(台本が)できているってことか。
福井:もちろん練習した後に、家に帰って考えることはあるけどね。
あるある? キャラが憑依して戻ることができない…
タイ:台本を書いているときに、乗ってくるとキャラの脳みそになって(台詞)が出てくることがあるんですよ。ただ、この脳みその切り替えが出来ず、てこずるときがあって。2個人格があるというか。
福井:考えすぎて出力できないってこと?
タイ:だからこそ「マジでもう1人いてほしい」って思うんですけど、福井さんは、そういうのはなく、俯瞰で3人を見て書いている感じですか?
福井:それは分かる気がする。書くのはできるんやけど、書いたあとに日常生活へ戻るのに時間がかかるというか。そこの時間がないと、たとえば奥さんに話しかけられても廃人みたいになっているから怒られちゃう。なるべく家で(作業を)やらずに、外でやって、“戻れたな”って思ったら家に帰る(笑)。なんか戻れないよね?
タイ:そうですね。昔、サンシャイン・坂田(光)とかとシェアハウスしていたんですけど、入り込みすぎて、隣の部屋に聞こえるくらいまで叫んでいたら、文句言われたこともあって(笑)。
福井:それ、結婚したらだいぶ危ないで。理解してくれる人やったらいいけど、そうじゃなかった場合、それきっかけで離婚とかあるんじゃない(笑)?
タイ:確かに2018年は1年間全部ヤンキーのキャラでコントを作ろうと思って、作り続けていたら食うものも変わってきました。全然食べなかったポテトチップスとかホットスナックを食べたり。
福井:今は戻れてんの?
タイ:多少戻れています。
福井:もともとヤンチャな部分があったとかではなくて?
タイ:僕自身ヤンキーではないんですけど、地元が東京の江戸川区なんですよ。江戸川区ってヤンキー文化のある街で、小さい頃から仲よかったけど、中学校になったら関係性は変わらないまま、友だちがヤンキーになっていくっていう。だから、ヤンキーの喋り方とか服の好みはヤンキーくらい分かっているかもしれないです。
福井:ヤンキーの友だちの影響は受けていたってこと?
タイ:多分受けていたと思います。“自転車に反射板いっぱいつけているとカッコイイ”とか(笑)。
決勝常連のGAGでも悩む賞レースの戦い方
ーー2017年の『キングオブコント』準決勝で、しずるの村上(純)さんから「今年はドキドキしていいぜ」って言われるくらいウケて“これはもう確定だわ!”って感じだったのに、結局決勝にはいけなくて……。翌々日くらいにGAGさんが無限大ホールにいらっしゃったんですけど、坂本さんが「酒と時間が解決してくれる」って言ってくれたんですよ(笑)。GAGさんも長らく、準決勝でウケたのに、なかなか決勝にいけない時期が続いたわけじゃないですか。そのとき、福井さんはどう乗り越えていったんですか?
福井:周りの人に慰めてもらった感じでしたけどね。何度もその期間に「もう辞めようか」っていう話にもなって。
タイ:えー!
福井:で、なんとか周りの方のフォローのおかげで決勝にいけたっていう。やさしいズは『キングオブコント2018』で決勝いったけど、2017年に準決勝敗退してからやめる話にはならんかったん?
タイ:その1年は、逆に“絶対来年に決勝いけるかも”っていうのがあったかもしれないですね。
福井:前向きな落選のパターンやったんやね。
タイ:コンビで「辞めよう」っていう話はなかったですけど、酒浸りの日々は2、3ヶ月続きました(笑)。冬が明けて、暖かくなってきたときに、腹くくって“絶対いってやる!”と思ったら決勝にいけましたね。決勝のメンバーに呼ばれたとき泣いちゃったんですけど、“優勝だ!”って思い込んだからこそ涙出ちゃったみたいな。
福井:いや、分かるよ。俺も初めてのとき泣いたから。
タイ:で、結局優勝できなくて“これからコントどうすりゃいいんだよ!”って2年くらいグレていました。
福井:あれだけ大きい大会の中、いつもやっているコントなのに、笑いの量が少ない状況で終わるやんか。経験した人しか分からんけど、“どうしたらええねん”って感じになるというか。はたから見ていて、やさしいズはブレているようには映ってなかったんやけど、自分の中では、そういうのがあったってこと?
タイ:そうですね。“これで勝てないとなるとどうする?”っていう。このキャラクターにどう変化をつけるのか、もしくはやめるのか。めっちゃ考えました。それまで知られていなかったんで、“怖そうなヤツが優しい”みたいなボケをしてもウケていたんですけど、認知度が上がることによって“怖いけどじつは優しい”っていうのがバレたんですよ。
『キングオブコント』終わった後にチョロッとテレビに出させていただいて、劇場でも知ってもらっている状態になったら、全然ウケなくなっちゃって。“何を言ってもウケないんだけど終わりじゃない? これはヤバイ! スタイル変えないと”って悩みました。
福井:そこからいま、2、3年経ってるけど、変えたの?
タイ:ちょっと変えましたね。翌年の準決勝でやったのは、ヤンキーではあるけど、トーン低めで立ち回ることもせず、構造的には、佐伯(元輝)の真面目なヤツと、ネガティブなヤンキーの比較のコントというか。あともう一本は、ハイテンションなキャラを作ったんですけど、劇場でウケたので“これはワンチャンあるかも”って思って出したら、あの年『キングオブコント』に出ていた2500組で最下位くらいスベりました(笑)。
でも、初めて好きなキャラクターができて、好きなことがやれたんで、そこまで後悔はないんです。今はそこからどうするのかって感じですね。
ーーGAGさんもシステムを知られてしまう恐怖や辛さみたいなものはあるんですか?
福井:今年の『キングオブコント』は僕ら逆をいっちゃったというか。(決勝に出ていた)3年は僕のツッコミでやらせてもらっていて、去年まぁまぁウケたけど、(ファイナルステージの)3組には残れなかったんですよ。今年は変えないといけないと思って、違うものにしたら、審査員さんが“今年こそ、そっち(福井のツッコミネタ)でいってくれよ”って感じがあって……。だから、決勝に出て“逆に変えない方がじつは良かったりもするんだろうな”って思いましたけどね。
タイ:へー! 僕もあのネタを劇場で見たときに“完全に獲りにいっている”って思ったんですけど。
福井:それが今年は獲りにいけてなかったっていうか、全然違うところにいっていた(笑)。ほんま難しいなって思いましたね。
40歳を迎えるコント師がぶち当たる◯◯卒業問題とは?
ーーでは、逆に公の場だからこそ、福井さんが後輩のタイさんに聞きたいことはございますか?
福井:僕らは“ダサ坊”っていうテーマでコントをやっているんですけど、僕らの感じとやさしいズのキャラクターの考え方って似ているけど、ちょっと違うって思っていて。やさしいズのコントのテーマってどういうものなの?
タイ:『別にいいじゃん』ってことですかね(笑)。凶悪犯罪はさすがに肯定できないんですけど、でも、何か事件が起きたときって、裏側に何か理由がある場合もあるじゃないですか。そういうのって、ちょっとだけ同情しちゃうというか。否定しきれずにちょっとだけ肯定をするって感じですかね。
福井:どんなに悪いことしていたとしても、追い詰めるだけじゃなくて、その人の立場に立とうというか、絶対悪を作らないみたいなことか。
タイ:それです(笑)。コントを書いているときも、否定のツッコミがうまくできなくて、どこかでゆるくなっちゃう。
福井:確かに否定していないよね。
タイ:佐伯が好きな子のリコーダーを舐めるネタがあるんですけど、佐伯にリコーダーを舐めようとした理由を聞いたら「間接キスできると思って」って。そこで「キモい」と言わず「発明じゃん!」って推奨しちゃっているんですよ。そういうところですね。
ーーお互いのコンビ・トリオの魅力についてどう思っているのかも聞かせてほしいです。
福井:さきほどコントのテーマが『別にいいじゃん』だったって教えてもらいましたけど、すごくいいなって思います。僕は普通に否定しちゃうんで。最近の流行りで否定しないツッコミっていうのがありますけど、(やさしいズは)それが分かりやすすぎないというか。分かりやくさせて商業的になれた方が売れるんでしょうけど(笑)、でもそこまではいかず、こちらに考えさせる部分を残してくれている。
タイ:それって芸人としていいんですかね(笑)?
福井:そこはやさしいズのこだわりの部分というか。
ーータイさんはいかがですか?
タイ:“ダサ坊”っていうのは、福井さんが作り上げた1つの力強いワードじゃないですか。
福井:昔から自分がそうやと思っていたから。
タイ:あそこは、福井さんの本音を交えているんですか?
福井:全部本音やね。思っていないことは言いたくないというか。
タイ:そういうところに感情が乗っかっているから好きだし、GAGさんのポイントだと思います。あと、最後に聞きたいことがあって……学ランって何歳まで着られると思います(笑)?
福井:そこやねんな。僕が今年40歳になったんですよ。だから、そろそろ卒業の時期だなって思っていて。すぐに脱ぐことはしないけど、ちょっとずつスーツへの切り替えをしていっているのよ。
タイ:コント師って40くらいからスーツが似合ってくるって思っていて、若手の頃、スーツ着たコントをしても、スーツが似合わないから社会人としての説得力が出ない感じがして。
福井:それはあるかも。昔、スーツを着ていたら笑いの量が減っているなって思っていた時期があったけど、最近はスーツの方がストレートに見てくれて、学ランの方が笑いの量減ってきている気がする。40くらいがちょうどそのラインだと思うけどね。
タイ:僕、今年35の年なんでまだ着られますね。
福井:あと5年はいけるね。
タイ:(笑)。
GAG
NSC大阪校27期。坂本 純一、福井 俊太郎、宮戸 洋行のトリオ。2006年結成。
やさしいズ
NSC東京校16期。佐伯元輝とタイの同期生コンビ。2011年結成。
『ごめん、赤坂に忘れ物してきたから取りに行ってくる』
会場:ヨシモト∞ホール
日時:2020年12月16日(水) 20:40開場/21:00開演
出演:ラブレターズ、GAG、やさしいズ
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執筆/浜瀬将樹 撮影/三嶋義秀