メルヘン宇宙~いろんな星のショートショート~ オフローズ・宮崎駿介
神保町よしもと漫才劇場所属 オフローズ・宮崎の連載第四回。
いろんな星で起こるお話を一回読み切りで展開していきます。
今回は、ある星で起こるキャバクラのお話です。
第四回『謹賀新星~できたての星~』
ついこないだまあまあ近所の銀河系で。
神様は親神様にお年玉で新しい星を1つもらいました。
できたてのほやほやのつるつるの星に降り立った神様は言いました。
「うわっ!息苦しっ!」
神様は急ぎで新鮮な空気を作りました。
できたての星には神様と、空気。
「すーはーすーはーあっぶねー」
できたての新鮮な空気は言いました。
「神様、このたびは作っていただいてありがとうございます」
「うん、くるしゅうない。貴様はなにか欲しいものはあるか?」
「欲しいものですか?」
「我はこの星を皆の欲しいもので埋め尽くそうと思っています。星だけに」
しらけた空気は少し考えて言いました。
「じゃあ山を作ってください。山の空気は美味しいって言いますから」
「心得た」
神様は刑事の山さんを作りました。
できたての星には神様と、空気と、刑事の山さん。
「ここが現場か……なにもないな」
できたての刑事の山さんが現場検証を始めた横で、神様はしらけきった空気に言いました。
「これで貴様の願いが叶ったな」
「……いや……あの……はい。有り難きしあわせ」
現場検証を終えた刑事の山さんが神様に言いました。
「ここは現場じゃないんですか?ガイシャもホシの手がかりもない」
「うん、くるしゅうない。貴様はなにか欲しいものはあるか?」
「はい?欲しいもの……ではでかいヤマをください」
「心得た」
神様は大きな山を作りました。
できたての星には神様と、空気と、刑事の山さんと、大きな山。
「これで貴様の願いが叶ったな」
「……いや……あの……ヤマってそっちの山じゃなくて……」
美味しい空気はそっと刑事の山さんの肩を抱きました。
「……有り難きしあわせ」
できたての大きな山は大きな声で言いました。
「やっほー!」
耳を塞ぎながら神様は言いました。
「うん、くるしゅうない。貴様はなにか欲しいものはあるか?」
「欲しいもの……では二回り小さな山をください。私は大きな山ですがこの星にはほかに1つも山がない。私がいかに大きいかを比べるものが欲しいです。そしてなぜ二回り小さな山かと申しますと……」
「心得た」
神様は駆け出しの頃の山さんを作りました。
できたての星には神様と、空気と、刑事の山さんと、大きい山と、駆け出しの山さん。
できたての駆け出しの山さんは初々しい敬礼をして言いました。
「お疲れ様です。本日からこちらに配属になりました。山崎です」
「おお!二十年以上まえの私だ。懐かしい」
刑事の山さんが駆け出しの山さんと昔話に花を咲かせている横で、神様は大きな山に言いました。
「これで貴様の願いが叶ったな」
「まあ、はい。自分は器も大きい方なんで。全然大丈夫です。全然有り難きしあわせです」
刑事の山さんが過去の失敗談を駆け出しの山さんに話して聞かせているのに割り込んで神様は言いました。
「うん、くるしゅうない。貴様はなにか欲しいものはあるか?」
駆け出しの山さんはまっすぐな目で言いました。
「はい!酒と女が欲しいです!」
刑事の山さんは顔を真っ赤にし、気まずい空気は流れていき、大きな山は大きな声で言いました。
「じゃあキャバクラだー!」
「心得た」
神様はキャバクラを作りました。
できたての星には神様と、空気と、刑事の山さんと、大きい山と、駆け出しの山さんと、キャバクラ。
「これで貴様の願いが叶ったな」
「神様!ありがとうございます!では!」
駆け出しの山さんはできたてのキャバクラに入っていきました。
「やっほー!」
大きい山もキャバクラに裾野を伸ばしました。
「いや私は……興味ないっていうか。いや本当に大丈夫っていうか……別に……はい」
うだうだ言ってる刑事の山さんに読んだ空気は言いました。
「僕キャバクラ行ったことないんです。ちょっと案内してくださいよ」
「よし!行こう!」
刑事の山さんと空気もキャバクラに消えていきました。
キャバクラにはボーイとナンバー1とナンバー2とナンバー3がいました。
神様は言いました。
「うん、くるしゅうない。貴様らはなにか欲しいものはあるか?」
お酒を運びながらボーイは言いました。
「真っ白なベンツ」
駆け出しの山さんについていたナンバー1は言いました。
「真っ白なベンツ」
大きな山の裾野についていたナンバー2は言いました。
「ナンバー1の座」
刑事の山さんと空気についていたナンバー3は言いました。
「真っ白なベンツ」
「心得た」
神様はいろいろ作ったり壊したりしました。
できたての星には神様と、空気と、刑事の山さんと、大きい山と、駆け出しの山さんと、キャバクラと、真っ白なベンツ三台と、一つの死体。
できたての旧ナンバー1の死体の周りにみんなが集まりました。
不穏な空気は言いました。
「こいつは不穏だ」
刑事の山さんは嬉しそうに言いました。
「こいつはでかいヤマになりそうだ」
大きい山はすっかり青ざめて言いました。
「こいつはやっほー!」
駆け出しの山さんは残念そうに言いました。
「こいつは結構タイプだったのに」
ボーイは退勤を切りながら言いました。
「おつかれっしたー」
新ナンバー1は走って逃げながら言いました。
「こいつがルパンよ!」
新ナンバー2は言いました。
「お腹すいた」
いろいろ作ったり壊したりした神様は言いました。
「我もうだいぶ疲れた。最後に一人一個欲しいものチャンスタイム」
刑事の山さんは駆け出しの山さんと真っ白なベンツに乗り込みながら言いました。
「今から容疑者をこのベンツで追いかけるのでパトランプをください」
駆け出しの山さんは刑事の山さんに無理矢理ベンツに押し込まれながら言いました。
「キャバクラをエッチなお店が入ったエッチなビルにしてください」
新ナンバー1はベンツから逃げながら言いました。
「私は鳥になりたい」
大きい山は青ざめたまま言いました。
「おしゃれな帽子をください」
ボーイはくつろぎながら言いました。
「虎柄のシャツ」
新ナンバー2はよだれを垂らして言いました。
「焼きナスが食べたい」
読んだ空気は言いました。
「……門松で」
全部作り終えてすっかり疲れた神様はぐっすり眠って素敵な初夢を見たとか見なかったとか。
■オフローズ
2016年結成。カンノコレクション、宮崎駿介、明賀愛貴のトリオ
著者/オフローズ・宮崎駿介
絵/オフローズ・明賀愛貴
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