メルヘン宇宙~いろんな星のショートショート~ オフローズ・宮崎駿介
神保町よしもと漫才劇場所属 オフローズ・宮崎の連載第七回。
いろんな星で起こるお話を一回読み切りで展開していきます。
今回は、”太陽の光”が消えてしまった星で起こるお話です。
第七回 『朝日を浴びる~真っ暗な星~』
私は生まれてはじめて朝日(太陽が眠ってしまってからこの星に朝は来ず、朝日も昇らない。
私の生まれる少し前、突然太陽の光が消えてしまった。
当時の学者は大慌てで原因を調べたが全くもって不明で彼らが出した結論は「太陽が眠った」という大変不名誉なものだった。
今まで当たり前のように享受してきた太陽の光が無くなっていろいろなことが起こった。
まず朝も昼も夜も真っ暗になった。
なんとか電力によって光を供給しようとしたが、一年ほどで限界が来てどこかの偉い人の「お先真っ暗」の一言で人類は視覚を諦めた。
今では光は最高の嗜好品とされ、ごくわずかの富裕層が楽しんでいるらしい。
そして次に起こったのは太陽の復活を信じる新興宗教{有名なものは『太陽の会』、『サンライズアゲイン』、『おひさま大好き倶楽部』など}の乱立だ。
彼らは真っ暗な広場で集会を開き様々な教えを広めようとした。
しかし、文字を読む光の無い世界で、教えは伝言ゲームのように歪曲し、難しい表現は省略され、最後に残った教えは「夜に寝る」という大変素晴らしい教えだけだった。
また、太陽の光が無くなるとこの星の気温が著しく下がってしまうことが懸念されたが全くもってそんなことはなく今でも夏は暑く、冬は寒い。
太陽の光が無くなって人類は新しい時代に突入した。
そんな時代の影響下で起きた事件{私が会社〔太陽が起きていたころから存在する小さなおもちゃメーカー〕の商品である『臭い付きブーブークッション』〔光の無い世界でオナラは臭いと音とが相まって人が行う行為の中で最も最低なものとされ、公の場で行うと極刑という過激な地域までできるほどだったが、禁止されればされるほど人は求めてしまうことに目を付けた我が社の社長〈おもちゃ業界では著名な人物で暗闇でもできるジャンケンである『紐ジャンケン』【紐を使ったジャンケンで、まずお互いが紐の端を握り、紐を「上に引っ張る」「下に引っ張る」「手前に引っ張る」の三つの行動から勝敗を決める《例えば、一人が紐を「上に引っ張って」もう一人が「下に引っ張った」場合、「上に引っ張った」方の勝ちになる。同様に「下に引っ張る」は「手前に引っ張る」に勝ち、「手前に引っ張る」は「上に引っ張る」に勝つ》というもので、致命的な欠陥《自分が「上に引っ張った」場合に、相手が「手前に引っ張った」ときと「下に引っ張った」ときの張力の感じ方の差が非常に微妙であること》があったため、勝敗で揉め、結局は殴り合いになるという大変治安の悪いゲーム】を考案した人物〉が開発した商品〕の営業をしようと入った警察署〔私は慢性鼻炎で、そのときに限って点鼻薬を忘れ、僅かな匂いから得意先の店と勘違いして入った建物〕で中の人物に鼻を近づけて匂いを確認〔視覚を諦めた人々は匂いで人を識別するようになり、匂いとは目に頼らなくなった人類の顔であり、ファッションであり、スタイルであり、匂いであり、名刺代わりの自分固有の匂い〈ちなみに、私の匂いは『ラベンダー農家』のような匂い〉を持った現代人の挨拶〕をしてから話しかけた捜査一課の刑事〔私は慢性鼻炎のため、僅かな匂いから得意先の店主と勘違いした人〕の前で商品の説明〔『臭い付きブーブークッション』を握りつぶすという人が人にできるもっとも挑発的な行為〕を堂々と行った。するともちろん刑事は銃口を匂いの先〔私〕に向け、警察署内の刑事たち〔優秀な刑事は文字通り鼻が利き、どんな現場からも匂いを嗅ぎ取り、クソ〈ラジオドラマ『香る大捜査線』の「なんとしてもクソを洗い出せ!俺の鼻がスースーしてるうちにな!」という台詞が由来とされる言葉で、昔は『ホシ』と呼んでいたが光が差さなくなり匂いに頼るようになった現代での犯人の呼称〉を捕まえることに執念を燃やす人々〕がもの凄い勢いで匂いの発生源〔私〕に集まり、銃口を向けた。
私は事態の異様さに気づき、慌てて弁明しようと口を開いたが一人の刑事〔追っているクソ〈猟奇的連続殺人犯〉の特徴がラベンダー農家のオナラの臭いだった刑事〕が私を自分の追っているクソ〔猟奇的連続殺人犯〕と勘違いし、私に向けて発砲〔私の右腕、左脇腹、顔〈右の鼻の穴【弾丸によって一瞬だけ鼻炎が通り、警官たちの匂い《動物園の猿山のような匂い》を死の間際に嗅いだ穴】〉に命中した三回の発砲〕をし一般市民〔運の悪い私〕を射殺してしまうという前代未聞の事件}で命{満35歳}を落とした私{可哀想なサラリーマン}が天国に行ってから見た光)を浴びた。
■オフローズ
2016年結成。カンノコレクション、宮崎駿介、明賀愛貴のトリオ
著者/オフローズ・宮崎駿介
絵/オフローズ・明賀愛貴
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