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命を弄ぶ妖怪

――カラン、コロン。

 秋の虫が鳴く静かな通りに、3人分の下駄の音が転がる。三者三様の着物を羽織って、夜の街を散歩といった様子だ。
「いやぁ~温泉の後の夜風は心地がいいですねぇ」
 ひょろ長い老紳士が、見た目とは相反する子供のようなはしゃぎようでステップを踏んで見せる。下駄だがその足取りは軽やかでバレエのようだ。
「君に誘われた時は面倒なだけだから断ろうと思っていたが……なかなか悪くはないじゃないか」
 老紳士よりは若いが、初老に見える男は半笑いで言った。
「しかしこの『キョウト』という町はじめじめして嫌ですね。早く戻って休みたいです」
 黒い着物に身を包む、女性と見紛う程の美青年は不機嫌そうに言い放った。
「浪漫がないですね~」
 老紳士は年齢に似合わず頬を膨らます。
「浪漫ねぇ」初老の男はニヤリと笑った。「そういえばこの『京都』には『妖怪』がいるとか。そういう伝説があるらしいじゃないか」
「流石ライオネルさん」老紳士も待ってましたと食いつく。「日本に古より棲みつく怨念、憎悪がバケモノとなって、それが『妖怪』と呼ばれるようになったらしいですよ」
「はぁ、くだらないですね。これではまるで」
 老紳士と初老の男は笑いながら、美青年は極めて面倒という顔をしながら背後を振り返る。そこには3人を密かに尾行していたと見える、無数の闇に紛れる影。
「我々が『妖怪』みたいではないですか」
「何故だ!?完全に気配は消していたはず……!」
「ぷはっ、私たちが『妖怪』。言い得て妙だね」
 刺客たちの存在を見ても、3人は動揺するそぶりすら見せない。そしてぞっとするような夜闇にぎらつく眼で、刺客たちを睨みつけるのだ。
「いったいいつの怨念や憎悪で追われているのか、もう忘れてしまった我々は、『妖怪』と呼ばれて致し方あるまい」
「こんなところまで追われちゃうなんて、ワタクシたちいつの間にか伝説の『妖怪』にでもなっちゃいましたか?」
「くそ、やっちまえ!」
 四方八方から黒ずくめの刺客たちが3人の元へ飛び込む。迷いなく初老の男は着物の懐から拳銃を取り出し、鮮やかに刺客たちの急所を打ち抜く。血が鮮やかに弧を描いて散り、肉塊が醜い音を立てて地に落ちる。
 老紳士は楽しそうに持っていた番傘で相手を翻弄して見せる。痺れを切らした相手が力づくで身体を引き寄せると、その腕力を逆手にとって、相手の身体を放り投げてみせる。あるいは曲芸のように傘を操り、次々に刺客の意識を失わせていく。
 一方の美青年は億劫そうに立ったまま、2人の影に隠れている。そして背後から近寄る刺客の手をか細いその腕で引き、手慣れた様子で放り投げる。そうしてうめいている男の顔を番傘で念入りに貫いた。

「――あー、また汗かいちゃいました。温泉に入りたいですねぇ」
 老紳士が着物の裾をパタパタさせて仰々しく言った。
「全く、君についてきたらロクなめに遭わなかった」
「ワタクシのせいですかぁ!?」
「それ以外何があるんです」初老の男も美青年も、呆れてかぶりを振った。

 死屍累々となった血まみれの石畳をまるで何も見なかったとでもいうように、3人は旅館への帰路につく。

「ところで」老紳士は悪戯っぽく笑った。「『妖怪』っていつまでも死なないらしいですよ?困りましたね~」
「ああそうだね。困ったものだな」初老の男も悪戯っぽく笑った。
「いつ死ぬかわからないなんて、なんて困ったものでしょう」美青年も、ようやく皮肉っぽく笑った。

 長い時を生きる妖怪は、自らの命すら弄ぶ。


初老の男:ライオネルさん(@sinigamidomo)from 藤原クロベさん
美青年:メネウスさん(@mitara080canco)from 椿 布団さん
お借りしました!

イメージソング『獣ゆく細道』/椎名林檎と宮本浩次


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