墓守の老婆の秘密
※即興で書いた2人声劇用台本。著作権は放棄しておりませんので、もし演じてみたい方がいらっしゃったらご一報ください。約6分。
登場人物
・老婆:本名をミア。墓地の墓守をしている。
・アドルフ:墓に眠る吸血鬼。
※6分ぐらい
老婆:おやこんばんは、お若い方。こんな時間に花を手向けに来たのかい?気持ちは分からないでもないが、あまり関心はしないねぇ。この墓地は日が暮れるとすっかり明かりがなくなって、うっかりすると墓石につまづいちまうよ?――私かい?私は平気さ。もう何年もこの墓地を守っているんだからねぇ。こんなか細い手でも土ぐらい掘れるものよ。
さぁさぁ、日が落ちる前にお花を置いておいで。このランタンを貸してあげよう。――私の心配をしてくれるのかい?優しい人だねぇ。私はこの先にあるお墓に花を添えるだけだから、すぐに済むのよ。大丈夫。
……あぁ、そう。この先にもお墓があるのさ。たった一つだけぽつんとね。知らなかった?そりゃあそうさ、普段は誰も寄り付かない。たったひとりしか、お花を添える人がいないのさ。
寂しいと思うかい?そうかねぇ。……そうなのかもしれないねぇ。優しいあんたが言うんだから、きっと寂しいのかもしれないねぇ。
さて、お話はここまでだよ。本当に暗くなっちまう前に早く帰りなさいね。ランタンは小屋の前に置いておいてくれればいいから。
こんばんは。今日も来たわよ。
――さっきね、お墓参りに来た人に、「お花をあげる人が1人しかいないなんて、寂しいですね」って言われちゃったの。……ねぇ、あなたは寂しいのかしら。私はあなたがここに眠ってからずっとお花を添えるのが当たり前だったから、思いもしなかったわ。私はずっとあなたに寂しい想いをさせていたのかもしれないわね……。――ごめんなさい。墓守としてあなたを守ることが私の誇りだったけれど……。ただの自己満足だったのね。本当に、ごめんなさい。
アドルフ:……するな……。
老婆:えっ……?
アドルフ:勘違い、するな……。
老婆:アドルフ、あなたなの……?
アドルフ:ミア、愛しいミア……。今こそ復活の時だ、さぁ、私の棺桶を君の手で開けておくれ。
老婆:アドルフ……!アドルフ……!(土を掘る)んっ……!(棺桶を開ける声)あぁ、あぁ……!
アドルフ:久しいな、ミア……。私の愛しい愛娘であり恋人よ。
老婆:この日をどれだけ待ちわびたことか……!あなたが教会の人間に封印されてから、私は毎日がまるで色を失ってしまったかのようでした。
アドルフ:お前は変わらないな。幼い頃道端でうずくまって眠っていた頃と変わらない。どんなに老いても穢れを知らないお前は、美しい……。
老婆:あなたこそ、昔のまま……。まるで時が止まっているようだわ。さすが夜の眷属、吸血鬼ね。
アドルフ:お前が教会に奪われた時は心臓が凍る心地がした。だがここに封印されてから……お前が毎日花を手向けに来るのをずっと感じていた。
老婆:えっ。
アドルフ:数十年もの間、欠かさず花を手向けてくれたこと、しかと感じていたぞ。誰が寂しいものか。私はずっとお前に満たされていたのだ。
老婆:あ、ああ……(泣き出す)。
アドルフ:さぁ、ようやく力を取り戻したのだ。ずっと共にあろう。お前も夜の眷属になるのだ。
老婆:教会へ復讐されるおつもりですか?
アドルフ:そんな無益なことはせぬ。私はただ、お前と共にいることができれば……それでいい。いくぞ、首元を差し出せ。
老婆:貴女と共に過ごす夜……どんなに素敵なことでしょう……うっ!ああああ……!(声が若返る)
アドルフ:ミア、ああ私のミア、愛しているよ。
ミア(若返って):アドルフ……。誓うわ。永遠に一緒よ。
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