丘を越える
自分の弱さというか、無力さを痛感するような出来事が起きて。
最初に見付けたのは、自分自身に対してその出来事を「なかったこと」にしようとしている私自身だった。
「何でもない、気にしないで」と、不安げな子供の自分を追いやる私。
取り付く島もない、その塩対応に疑問がわいた。
「起きてしまった出来事は変えられないのに、どうしてそんなふうに、なかったことにしようとするの?」
そして、他でもない自分自身に追い払われた、子供の私の肩が小刻みに震えているのを見て思った。
「ああ、この子は自分が否定されたと感じているんだな」
子供の自分を守ろうとして、こうやって私、傷付け、傷付いてきたのか。
「こんなこともう、する必要ないね」
そう、素直に思えたことで、最初の関門が開いた。
そんなことには気付きもせず、先に進むと次なる分岐にぶつかる。
「私がずっと人から大切にされなかったのは、自分自身に対するあの塩対応が原因かも…」
新たな疑問がわいたので、カウンセラーに確かめた。
「あなたに寄り添おうとしてくれる人は、あなたが自分を大切にしていないことが分かると、戸惑い混乱するんだよ」
なるほど、結果、離れて行くことにつながってしまっていたんだ。
人とうまく関われなかった原因は、他でもない私の中にあったのか。
「だとしたらもう二度と、自分をないがしろにするのはやめよう」
再び、素直に思えたことで、次なる関門が開いた。
今度も気付くことなく通り過ぎると、子供の自分に声を掛ける。
「これまで、冷たくしてきてごめんね。これからは何か起きたら、いっしょに力を合わせて乗り切っていこう」
うつむいていた子供が、目をキラキラさせて顔を上げた。
「ホント?」
私はうなずき、子供の手を取った。
瞬間、理解が降ってきた。
「弱い自分でいいんだ。守ろうとしなくていいんだ」
これまで私は、なんとかしてこの子を守ろうと、二重三重にバリケードを築いてきたつもりだった。
けれど逆にそれが、この子をせまい檻に閉じ込め、社会と隔絶させてきた。
泣きべそをかいてるこの子を、縛り付けてきたのは、この私だった。
そんなこと、もうやめよう__。
素直にそう思いつつ、立った小高い丘の頂からは、どこまでも続く緑あふれた大地が見渡せた。
感嘆の声を上げた子供の自分の手が、私の手の中で踊ったのと同時に、知った。
「ああ私、どこにでも好きなところに行けるんだ」
もう自分を取り繕わず、このままの、ありのままの自分で。
この子と二人、どこまでも行ってやる。
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