小夜子の書き出しブックトーク【西の魔女が死んだ】
『西の魔女が死んだ』 梨木香歩・作 (新潮社)
本稿は2024年7月に下北沢駅前劇場で上演する『ANGERSWING/アンガーズウイング・アンガースウィング』に寄せて、“書き出し”の一文をご紹介するブックトーク(?)です。
ANGERSWINGのキーワードを拾って、「そういえばあんな本読んだなぁ」「読もうと思って読んでなかった」「これを機に出会った」という作品たちを、それぞれの冒頭1行と共にご紹介します。
今回のキーワードは「庭」。
書き出し文はこちら。
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西の魔女が死んだ。
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子どもの頃、えも言われぬ不安 (寂しさ?) に襲われることってありませんでしたか?
家にいるのに家に帰りたくなるような、隣に家族がいるのに会いたくなるような、孤独感というのでしょうか。
特別何かの出来事があった時に、というわけでもなく、楽しい時間を過ごしている中でも時々、ふとそうした不安が訪れるのでした。
そんな気持ちを言い表すすべもなく、ただやり過ごしていた少女だった私。
そんな時に読んだのがこの『西の魔女が死んだ』でした。
思春期特有の漠然としたモヤモヤが、淡々と美しく綴られているではありませんか。
思春期特有の、と言えるようになったのは今回本稿を書くにあたって読み返したからなのですが。
小説というより、美しい文章が紙の上に繊細に縫い付けて本という形態にしてあるような、西の魔女の魔法だと言われれば納得するしかないような、そんな素晴らしい1冊でした。
孤独に寄り添う一冊
その中で、当時特に驚かされたのはこの部分でした。
自分以外にも同じような感覚を持っている人(主人公のまい、もとい作者の梨木香歩さん)がいる!
そのことに本当に驚き、そしてそれがジワジワと喜びに変わっていったのをよく覚えています。
思春期とは多かれ少なかれ「自分とはどんな存在なのか」と思い悩み、揺れ動く時期。
今になれば決して自分1人が孤独なわけではなかったんだとわかるのですが、当時の私からすれば正体不明の不安に孤軍奮闘していたわけです。
大げさな表現をすれば、私はこの1冊の小説に救われたのでした。
芸術の、とりわけ文学というのは、こうして人を救うことがあるんだなぁと、読み返して改めて実感しました。まさに珠玉の名作…。
演劇の力
ひるがえって、演劇にもそうした力があることを忘れないようにしなければとも思ったのです。
いつかどこかの誰かを救うかもしれない。おざなりにはできないですね。
(とはいえ、救ってあげようなどと思い上がらないこと!笑)
思いが溢れすぎてまとまらなくなってしまう前に。
そしてこのブックトークが企画倒れに終わらないように…!
今回はこの辺で。
文・北澤小夜子
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