小夜子の書き出しブックトーク【豆の上で眠る】
『豆の上で眠る』 湊かなえ・作 (新潮文庫)
本稿は2024年7月に下北沢駅前劇場で上演する『ANGERSWING/アンガーズウイング・アンガースウィング』に寄せて、“書き出し”の一文をご紹介するブックトークです。
ANGERSWINGのキーワードを拾って、「そういえばあんな本読んだなぁ」「読もうと思って読んでなかった」「これを機に出会った」という作品たちを、それぞれの冒頭1行と共にご紹介します。
今回のテーマは「きょうだい」。
書き出し文はこちら。
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大学生になって二度目の夏――。
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ANGERSWINGには4人の兄弟姉妹とそれぞれの配偶者やパートナーが登場します。
世の中には様々な“きょうだい関係”がありますよね。
中には仲の良し悪しだけでは語れない複雑な関係性も…。
今回ご紹介する作品には姉と妹、2人姉妹が登場します。が、ある日姉が失踪してしまい…
そんかショッキングな事件が、小学1年生だった妹の目線で語られていきます。
小1が語るイヤミス
本当に…久々のイヤミス(読後感がイヤ〜なミステリー)でした。
女児の行方不明事件と聞くだけで嫌な気分満載ですが、それを当事者の妹という立場で追体験するのですから、それはもう。
ミステリーというからには結末がウリであるのですが、私の感想としてはなんと言っても小1〜小3目線のリアリティ。
子どもゆえに全貌を把握できないもどかしさ。
現実と非現実の境界線の曖昧さ。
主人公・結衣子が、姉の失踪事件を頭ではなく感覚で捉えていく様子が秀逸で、むしろ結末よりも「おぉ…!」と感じた部分でした。
忘れてしまっているだけで、子どもは大人が考えているよりずっと分かっているんですよね。
でも自分で思っているよりは何も分かっていない。
大人と子どもって、やっぱり違う生きものなのかもしれないですね。
(オタマジャクシがカエルになるみたく、思春期に変態するのかも)
主人公のサバイブを追体験する
失踪した姉が戻って来るが、違和感しかないというのもまた…。
事件解決でスッキリ!とはいかないどころか、謎は更に深まっていきます(姉が戻るまでに全体の4分の3かかっているというのに…!)。
私自身が二人姉妹の姉の立場なので、姉妹ものは姉に共感することが多いのですが、今回ばかりは妹の立場がやるせなさ過ぎて辛かった…
そう、このミステリーは結末のどんでん返しよりも(もちろんそこもですけど)、妹のサバイブを追体験するところこそが真骨頂なんじゃないかと思ったり。
イヤミスを読むときはくれぐれもメンタルの調子を整えてから。
今回はこの辺で。
文・北澤小夜子