小夜子の書き出しブックトーク【BAD KIDS】
『BAD KIDS』村山由佳・作(集英社)
本稿は2024年7月に下北沢駅前劇場で上演する『ANGERSWING/アンガーズウイング・アンガースウィング』に寄せて、“書き出し”の一文をご紹介するブックトークです。ANGERSWINGのキーワードを拾って、「そういえばあんな本読んだなぁ」「読もうと思って読んでなかった」「これを機に出会った」という作品たちを、それぞれの冒頭1行と共にご紹介します。
今回のテーマは「ボーイズ・ラブ」。
書き出し文はこちら。
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制限時間は、とっくに過ぎている。
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今回はなんだか耽美な響きのテーマですね。
劇団Q+ではこれまでラブロマンスが主軸となる物語はほとんどやってこなかったのですが、ANGERSWINGでは珍しくそんなシーンが描かれるとか。
BAD KIDS は私が大学生時代に読んだ一冊。
読んだ直後はあまりにハマりすぎて、(大して真面目にやらなかったとはいえ)就活のエントリーシートの「最近興味のあること」欄に、「愛について」と書いてしまうくらいに傾倒した痛い記憶が……
見え方の変化
さて、改めて読み返してみると、作品の捉え方がガラリと変わった自分に非常に驚きました。
まず、都の相手役のカメラマン(37歳)がとんでもない野郎だったということ。いい大人が18歳の高校生に手を出すなんて…。
作中で都がいかに擁護しようとも擁護しきれない“キモさ”がそこにはありました。
学生の頃に読んだ時はそんな嫌悪感はほとんど抱かなかった気がするのですが、子どもを性的対象にする大人の醜悪さが分かる位には私も大人になったんだなぁと思います。
都の自覚なき盲目さも腹立たしいんですけどね。
(なんで?なんで?あんな男に…!?という怒り。でも恋愛で盲目になってる人に正論を投げかけることほど虚しいことはないので止めます)
高校生の視野って、本人が思っているより狭いんですよね。だからこそ、それを分かっている大人が手を出すような卑怯な真似は許せないわけです。
さてさて、(接続詞が“さて”続きになってしまった…)今作はとにかく自分の価値観の変化を感じた作品でした。
もう一人の主人公、隆之は同性のチームメイトに恋心を抱くのですが、どこかその珍しさ、特別性、崇高さなどが作品の根底に流れているような気がしてしまうなあというのが再読しての感想でした。
奥付を見たら初版が1997年となっていたので、さもありなんなのかもしれませんが。
同姓愛=禁断の恋…?
2024年の今、同姓愛を“禁断の恋”的な特別視する描き方は一時代昔のものとなった風潮にあると思うんです。
うーん、別に隆之の恋が禁断の恋として描かれてるわけではないんだけど…
というか都がわざわざ「好きになった人がたまたま男だっただけでしょう?」的な説明を丁寧に入れてくれてるくらいには、作者の同姓愛への意識の高さは感じるのですが…
それでもその“わざわざ感”が、なんだかノイズになってしまったのです。
あんなに熱中した作品に対してなんだか薄情な気持ちがないわけではないですが、一方で自分自身の変化を嬉しく思う自分もいたり。
きっと少しだけ社会の意識も高まってるんだろうと思います。その影響も受けてる。
作品というのは、その時代その時代で再評価されていくべきで、その為にもその時代を見据えた作品を作っていかなくては…ですね。自戒を込めて。
それでは今日はこの辺で!
文・北澤小夜子