終演のご挨拶 @西田かをる
演出の西田かをるです。
ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。そして、公演に関わってくださったすべての方に、御礼申し上げます。
新型コロナの流行によって、公演自体が中止になるかもしれない状況の中、無事公演できたことは、我々を支えてくださった皆様のお陰です。
今回の脚本『フィルタリング』は、メッセージ性のわかりやすいもの、それでいて「大人の公演」にふさわしい、つまり高校演劇ではやれないもの。そして、やっぱり私は「人間のどうしようもなさ」が愛しい。それが表現できる脚本、という条件で選びました。あとから、まわりに「西田にしては設定がぶっ飛んでいる」と言われましたが、私自身はそんな自覚あまりなし。
初めて読んだときから、心惹かれる脚本でした。いち教員として、正直、「これはリアルじゃない」と思う部分はかなりあります。SFということを差し引いても。完全にフィクション作品です。しかし、リアルかどうかという問題はそれほど大きなものではなく、それよりも、この脚本の中に、表現したい普遍的なテーマがあったのです。
今回は劇団ONが表現できる範囲で全力を尽くすため、テーマをさらに絞り、大幅な脚色をさせていただきました。脚色を快くお許しくださった白鳥雄介様にも御礼申し上げます。
劇団の特性上、見に来て頂くお客様は学校関係者が多いです。前半に特に散見される「リアルじゃない」部分で、もしかしたらお客様の心が離れるかもしれない。ややもすれば嫌悪感を催されてもおかしくない。稽古中、どうしてもその恐怖から逃れることはできませんでした。でも、その部分に、実はテーマに迫るものがある。だから、絶対にお客様の心をつかみ、離さず、最後まで見ていただく必要がある。無駄なシーンなんて何一つなかった。丁寧にシーンを積み上げて、尾野に1本の線を通すこと。稽古はただひたすらそのことを大事にしていました。
メッセージ性のわかりやすい脚本を選んだつもりでも、絶対に難しい脚本です。泣けるとか、感動するとかいう言葉では簡単に言い表せない「人間のあり様」に迫る脚本です。若い役者がほとんどで、役者間の演劇経験の差も大きい中でしたが、「単に台詞を覚えて言うだけでは通用しない」ということを皆がわかってくれていて、彼らが本当に悩み、苦労し、試行錯誤しながらこの脚本に向き合って創ってくれたことが何より幸せでした。
誰一人欠けても、できないお芝居でした。
演劇の大きな特性の一つだと思います。誰一人欠けてもできない。そこに苦労するところですが、そこが大きな魅力だなあと感じています。コロナ禍の中、特に。
繰り返しになりますが、劇団ONがあるのは、たくさんの方の支えがあってこそです。公演のたびに実感します。小さな劇団ではありますが、私とO木谷の自己満足にならないように、これからも活動をしていきたいと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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