『雲をカスミと』 裏話 vol1
2023年4月14日〜16日
カナリ3回目公演『雲をカスミと』が上演された。
今回はその公演を
演出、きーちゃん役・岡日出子
カスミ役・大友彩優子
トオル役・嶋口蓮二
タダシ役・髙木晏治
の4人で振り返る。
誰かしらに責めて欲しかったんです
ーーーそれぞれのキャラクターを一言で表すと?
岡日出子(以下 岡):大喜利じゃないすか
大友彩優子(以下 大友):大喜利しないでー
髙木晏治(以下 髙木):うわー
(普通に答えてください(笑))
岡 :もう抜けていいですかー?
大友:まだ何も始まってないです
ーーーまず、カスミについて話ますか。
フィアンセ役の高木くんから。
髙木:劇中だと一貫して暗いんですけど、ところ
どころ怪獣になる前は明るかったんだろうな
っていうのを感じさせるシーンがいくつかあ
るんです。
カスミ「米津玄師みたいなこと言っちゃって」
とか
タダシ「でも今は怖くない」
って言った後に
カスミ「嘘つけ」
って笑いながら言ったり、タダシに
カスミ「無理しないでね」
って言ったり、本当は根暗じゃないんだな
っていうのは感じました。
ーーー嶋口君どうですか。
嶋口蓮二(以下 嶋口):
未だに兄とどう接してきたのか分からなか
ったというか。タダシとカスミの掛け合いで
明るい一面は感じたんだけど、トオルとはど
うだったんだろうか。
岡 :プロットに書いたんですけど、おかあさん
が出て行った設定で。トオルが育てるように
なった。だから兄というより親代わり
ーーーそこを省いたのは?
岡 :話の軸がぶれるし、キャストも時間も足り
ないからね。
ーーーきーちゃんとの話を軸にしたかった?
岡 :いいや、カスミときーちゃんの話は物語の
一助にしたかっただけ。カスミときーちゃん
の話はノンフィクションというか、私の実体
験なんですけど、私がカスミだったんです
ね。今でも後悔していて自分を責める意味で
描いたような感じです。
ーーー兄とカスミのエピソードはあまり深入りしようとは思わなかった?
岡 :話過ぎると逆に薄くなると感じていて、微
妙な距離感で見守っている感じを出したかっ
た。 あと、認識を同じくした兄弟が改まって
話をすることはないかなって。だから起こっ
た事象に対して話している様子で二人が仲い
いのが見えたらなって。
平田オリザさんみたいな感じでね。
恐竜図鑑の話とか、小学校の友達のエピソ
ードで忍ばせた。
大友:カスミって文字通り霞だなって、いなくな
りたい、どよんとした感じ。
それで、(トオルとカスミの関係性につい
て)聞いていて思ったんだけど、あんまり会
わなかったんじゃないのかなって。勝手な想
像だけど、会話もするけど日常的に深くおし
ゃべりしてなかったんじゃない?
タダシと婚約しているじゃん。で、東京で
21歳で婚約は早いじゃない、それっておにい
ちゃんを早く安心させたいからかな。
岡 :これも裏設定なんだけど、カスミは専門学
生でトオルが高卒ですぐ警官になってて、カ
スミを高校以上の学校に行かせるために働
いていた。だから、(カスミは)トオルへの
負い目は感じていた。
大友:この裏設定も考えながら演じてたよ。
岡 :どうして(劇中の情報が)ラジオからなの
かっていうのもね、カスミとトオルが貧困で
家にWIFIがないし、テレビもないしでラジ
オが生活に根付いているような家だった。だ
から、病院にも持ち込んでいた。
(本来なら)書きたかった理不尽のうちに
貧困があったんだけど、自分が扱うには重い
テーマ過ぎて挫折しちゃった。もっと勉強し
たら書きたい話ではあるかな。
髙木:次回作があるってことですね!
岡 :まあまあまあ(笑)
大友: 岡日出子先生の次回作!
ーーータダシについてはどうですか? 絡みが多かったのがトオルだと思うんだけど稽古初期と後半でイメージの違いとかあります?
嶋口:初期は完本し切ってなかったっていうのも
あってタダシはただの馬鹿だった。
後半に脚本完成されるにつれて本当にカス
ミのことが好きだったんだなっていうか、
俺、この言葉一番好きなんだけど『馬鹿だけ
どいいやつ』っていうキャラ。
髙木:あざーす
髙木:メタな話になるんですけど、最初の頃はほ
んとの馬鹿で、傍白もなかったんですよ。
でも、岡日出子さんが「このままじゃ本当
の馬鹿になる」って言って、色々台詞が増え
ていったんですよね。
岡 :違うよ!元々馬鹿だけどいいやつを目指し
てたの!私の力不足だった。
髙木:最終的にそれを遺憾なく表現出来ていたん
ですごいなって思いました。
岡 :こいつ、馬鹿だし、空気読めないし、言う
タイミングずれているし、全部間違ってるけ
ど、言っていることは全部真をついている
な、にしたくて。
タダシ 「今の時代結婚がゴールじゃないっ
すよ」
とか、このシーンは大分初期からの台詞だ
し。
岡 :タダシの名前がずっと決まらなくって、ど
うしよってなってた時に
トオル 「タラシくん?」
タダシ 「いや、タダシです」
って台詞がぱって降ってきてこれだって、で
名前をタダシに決めた。
大友:そういう裏話好き。
岡 :深夜の5時にくらいにね。
大友:夜じゃないよ、朝だよ。
髙木:完徹だったんだ。
ーーー大友さんとしてはタダシをどう思ってた?
大友:最初、稽古を見ることが多かったのね、だ
からお客さん目線で見てたんだけど、タダシ
は作品の中での光だなって。
実際、演じてても頑張って明るいように持
って行ってくれている感じが健気な子だなっ
て思ってた。
晏治とタダシは性質が似ていると思う。
髙木:よく言われますね。
見に来てくださった先輩や同期に「晏治が
ちょけているているようにしか見えない」っ
て。だから、ボケも笑いどころかどうか分か
らないって言われて。それこそ、
タダシ 「フィアンセならすぐ気づくべきだ
よね」
って台詞は笑いになるときとそうじゃないと
きがあった。
絶妙なところをついている台詞でしたね。
岡さん的にはあの台詞は笑いを取りたいの
か、そうでないのかってありました?
岡 :基本的に声出して笑わせようっていう意図
で書いた台詞はない。
髙木:バウンディも!?
岡 :初めて書いたからどういう塩梅で笑うのか
分かってなくて。初ステで声出してウケてて
びっくりしたもん。「え~!!ここで!?」
って。
大友:なるほどね。
岡 :「フィアンセ…」とかは結構序盤に書いたん
ですよ。古参シーンで。
大友:ずっとあったよねあの台詞。
岡 :タダシの性質が一番出ているシーンかも。
思いを伝え合うようなところでも馬鹿な事
いっちゃうみたいな。そこに、恐る恐るトオ
ルが「フィアンセって自分で言うのってキモ
イな」ってツッコむ。この関係性を脚本でど
んどん広げていった。
髙木:お客さんの反応見ていてもそうですよね。
ボケようとしてボケていわけじゃないという
か。(タダシの台詞は)真面目に言っている
けどボケになっちゃうみたいな。
岡 :そう!そうなの!個人的に前の現場でこれ
はコントなのか、演劇なのかみたいなことを
結構いわれて。
髙木:M-1の時のマヂカルラブリーだ(笑)
岡 :最近その話題がホットで、今回のアンケー
トでも言われていたと思う。
私が考えたこととして、演劇を見ていて
(観客が)笑いどころで気に食わないと感じる
のは、ボケのために場面が設定されてしまっ
ている場合なんじゃないかなって。
必要に迫られて言った言葉がボケになっち
ゃったっていうのが、一番演劇的な笑い。
今回それに気を付けて書いた。
ーーー今回、タダシの役ではかなり主題に関わる台詞が見られますね
岡 :タダシの台詞はほとんどそう。
髙木:「僕は逃げない」も結構序盤に書いたって
聞きましたね。主題に関わることを言わせて
いただいた。
岡 :主題は「大きな理不尽に負けちゃう話」。
コロナ禍の初期、コロナになったってだけ
で人から避けられる時期があった。私は当
時、地方に住んでいたんだけど、東京出身っ
てだけでコロナ扱いを受けて。昔から東京ば
かり盛んなことに地方出身者から潜在的な妬
みみたいなのがあったんだけど、そういう東
京差別をきーちゃんに当てて書いた。
生まれとかで理不尽に言われることもある
し、それに勝てないこともあるってことを描
きたくて。でも、そういう理不尽に寄り添お
うとする人もいるし、人を大切に思う気持ち
は依然としてあるという普遍性を描きたく
て、その役割をタダシとトオルに背負わせ
ちゃった。
ーーー髙木君本人はタダシをどう演じた?
髙木:僕とタダシは似てるところがあるって周り
からは言われます。自分でも宛書なんじゃな
いかって思うところもある。芯があって自分
の考えを曲げない感じ。
タダシ 「僕はカスミと結婚したいです。」
とか
タダシ 「こういう時僕たちにできるのはそ
ばにいてあげることでしょ。」
とか言い切る感じが。自分も年上でも言っち
ゃうので。
でも、細かなところでちょっとずつ違く
て、自分よりも明るくて真っすぐだなって思
う所はありましたね。
ーーー宛書なんですか?
岡 :宛書ではありません!
最初のシーンと最後のシーンだけ書いてい
た時に、全然キャスティング決まらなくて、
他の現場の人に台本見せてキャスティング一
緒に考えたんですよ。その時はこの明治の演
劇の界隈にはいないかもねって言われちゃっ
て。私は晏治を推していたんですけど、相談
者には違う、意見を曲げない、核があるタダ
シの役を晏治が表現できるのかって言われ
て、私は「出来るでしょ」って言ってたんだ
けどイメージがないって言われちゃった。そ
れは(髙木が以前演じていた『夏の夜の夢』
の)スナッグのイメージのせいだと思う。
髙木:去年の4年生(現在社会人のOBOG)に晏
治は芯のある人だねって言われてたから自他
ともに芯を曲げないイメージがあるのかなっ
て思ってました。自惚れでした。
岡 :人によって捉え方は違うからね。
私は絶対できると思ってたので最後は私の独
断で決めました。しんじ(嶋口蓮二)も私が
独断で決めたよね。
大友:しんじは結構早めに決まってたよね。
岡 :トオルってキャラクターは一番フラットな
演技ができる人じゃないといけないし難し
い。癖はないけどその場その場で適切な演技
できないといけないキャラクター。
それができる実力がある人で私が初めての
演出で話し合いできる人って言ったらしんじ
君しかいないかもって思って。
中村(カナリ1回目、2回目とアディショナ
ル公演の共演者)も考えたけどね。
ーーー中村くんは?
岡 :彼は思い悩むキャラクターが合う。
カスミが男の子だったら中村さんだった
わ。私が中村さんにやってほしい役っていう
のが固定されててね。
岡 :晏治はほんとに最初っから絶対できます、
大丈夫ですって言ってた。
大友:カナリの主宰で最初にキャスティングの話
してたラインが出てきた。(ライン読む)
髙木:なんかはずかし
大友:メッセージから意志の強さ感じる。
岡 :主宰ふたりが他の人の名前出したら話し合
わなきゃって思ってたんだけど、二人ともわ
かんないねって感じだったから「いける!」
って。
髙木:(自分の名前が出た時)他の主宰はどうい
う反応だったんですかね?
大友:小箸は「他の界隈混ざるの好きよ」って言
ってて私はMSPみててスナッグしか知らな
かったのよ。だから、あまり配役にピンと来
てなかった。どういうひとかつかみ切れてな
かったから。でも結果オーライじゃないです
か?岡の采配がよかった。
髙木:俺は岡さんの飛び道具なのか。
岡 :違うよ!今回初演出だったから、稽古場の
雰囲気めっちゃ大事にしたくって、雰囲気明
るくなる人がいいって。
髙木:雰囲気要員でさ
岡 :そうだよ(笑)その言い方は悪いけど
髙木:自分で言うのもなんだけどそうだと思う
岡 :でも、稽古場の雰囲気一番大事だと思うの
よ。ほんとに一緒に仕事したかったし。
ーーー告白?
岡 :「一緒に仕事したい」って私の中の一番の
ラブコールよ、稽古場すごい楽しかったから
今ロスだもん
髙木:よかった、本当に嬉しい
岡 :キャスティングは本当に大成功だったなっ
て
ーーー大友さんをオファーした理由は?
大友:カスミは私が「役者やりたい」っていった
からです。
岡 :軽かったよね。
さゆちゃんが「私やりたーい」って言った
ら、私が「え、カスミやる?」って。「いい
ねいいねー」「じゃあ私、演出専念するか
ら」って言って。
岡 :最初きーちゃんってキャラクターはいなか
ったんですね。
全国学生演劇祭の時に脚本書いていたんだ
けど本番前に劇場の隣にあるカフェでさ
ゆちゃんに「今のところ作品にメリハリなく
てー」って言ったら、「じゃあ、一人キャラ
クター追加するか」って。「でも明日情報公
開なのに役者増やせないか。私がやるしかな
いか。」それで、なりゆきで私が出ることに
なりました。
ーーー結果きいちゃんはキーパーソンになったよね。「きー」ちゃんだけに。
岡・大:そうだねー
……
岡 :反省しましょう。
大友:キーパーソンの「き」はキタヌマの「キ」
ですよ
岡 :もう、犯罪おかしてるから、これ以上やめ
てください
大友:ごめんなさい
ーーーきーちゃんの話しますか
岡 :最初は本当に記者のつもりでかいてて、
ま、メディアは怪獣になった人の元には来る
だろうと。でも、本当に話に出た意味がなく
なっちゃう。場を荒らすだけ荒らして「こう
いう嘘の記事書くんであざっした。」って い
うのが全然思いつかなく(笑)
トリックスターとして、場にメリハリをつ
ける役割としては出す意味あるんだけど、そ
の人の生きる意味というか、存在する意味と
か、その人の人生が全然見えない。それだと
キャラを殺すことになっちゃうなって思って
それじゃ、幼馴染にしようって感じになっ
たかな。
それで、そこに私の懺悔を乗せようって思
ってできたのがきーちゃんですね。
ーーー大友さんの演じる役が岡の代わりなんだけど、大友さんはこのエピソード知った上でこの役を演じていたんですか?
大友:記者は出そうかなって言ってたのは聞いて
て、それで、結構場をかき乱したいってこと
も言ってたから、どういうふうに来るのかな
って思っていたらまさかの幼馴染。
おー、そうきたかって感じ。
岡 :色んな演劇を見に行って退屈しちゃうなっ
て劇は展開が読める劇。お客さんが、次役者
が何を言うのかある程度予想できるっていう
のが、退屈しちゃうし、心に残らないんだろ
うなって。もちろん(言って欲しいことを言
うみたいな)気持ちよさもあるんだけどね。
でも、そうじゃなくて展開が全部見えるって
いうのが、やだなって。
だから、記者が実は幼馴染で、最後やっぱ
り記者じゃないっていう。
大友:全部違うやー
岡 :全部嘘っていうのをさせたかった。そうい
う意味でお客さんの心かき乱してほしかった
なーって。
あと、私が書きたかったエピソード、いじ
めじゃないけどそういう形で別れてしまった
友達がいるっていうエピソードは、体験こそ
しなくても、身に覚えはあるというか、もし
自分がその立場だったら、今目の前で糾弾さ
れているのってきびいなって思うじゃん。お
客さんに苦しんでほしくて書いたキャラでも
あるのよ。
ーーーすごく責められているような気持にはなりました
岡 :自分で自覚はなかったんだけど、見に来た
先輩に「どっちかお前でしょ」って見ぬかれ
ていた。「そうですね、カスミが私です。」
って答えた時に「あ、じゃあ、脚本で自分の
ことを自分で責めるようにしたんだ」って言
われて。そうしたいって無意識が働いたのか
もしれない。
ずっと自分を誰かしらに責めてほしかった
んだろうね。本当に後悔ですよね。
岡 :この脚本書く前に大掃除とかそういう時に
昔の写真を見返すことがあって、その時に、
きいちゃんポジションだった友達の写真が出
てきて、(脚本を書くときに)その子のこと
を考えないで書いたわけじゃないよね。
ーーーしんどいね。
岡 :しんどいよ。私きーちゃん演じてた時、
ずっとつらかったもん。
ーーーよく演じ切りましたね
岡 :もうそれは、懺悔なので。でもこれで、謝
れたわけじゃないですからね。全然違うしこ
れはエゴだから。一個贖罪かな。忘れてない
っていう
次回 雲カス 裏話
『じゃあ私ブレヒトってことでいいですか?』
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