全世界盲目

世界から視力が失われた。
なんの前触れもなく失われた。
僕以外を除いて。
この瞬間のことは僕にはわからないが、周りの人が、叫び出したので理解した。
僕は3時間目の授業を受けていた。
口々に「真っ暗になってる!」「おい何だこれ!」と言い始める同級生たち。
先生ですらうろたえていた。
しばらくすると周りの同級生に確認し始める。すると全員見えていないことを理解し始めた。僕だけを除いて。
僕はこのクラスに友達がいない。いやこの学校自体に友達がいない。いやそもそも友達ができたことがない。いつも教室の端っこでボーっとしているだけだ。
とりあえず周りの同級生がうろたえているのを見る。実に滑だ。しばらくすると隣のクラスからも騒ぐ声が聞こえてきた。そういえば隣のクラスには盲目の生徒がいたはずだ。
彼女の声が聞こえる。「安心して、私は普段から見えないからわかるよ」彼女はクラスの中ではけして目立つ存在ではなかった。むしろ一部の生徒にはいじめられていた。目が見えないことを理由にギャルのグループから落書きされていたり、障害物を置かれて転ばされていたりした。しかし、そんな彼女が大きな声を上げて喋っている。「私はこの状況に慣れてるから安心して!」とそうすると周りの生徒たちもそうだよ!彼女に頼ろうどうすれば良いの?と聞いていた。
酷いもんだ。あんなに彼女のことを嫌っていたり、無視したりしているのにこの状況になったら完全に彼女に頼ろうとしている。
彼女は「とりあえず私は外に出て様子を見てくるから、みんなと先生はここにいて」と言っている。そうするとありがとう!や先生の頼んだぞ!の声が聞こえる。
僕も気になったなでそっと教室の外にから除いて見てみた。隣の教室からは足取りはゆっくりではあり、所々にぶつかる音を立てながら彼女が教室を出てきた。
彼女が教室の外から「じゃあみんな行ってくるね!」という声がした。
ふいに僕は彼女の顔を見た。
彼女の顔は今まで見たことがないほどに綺麗な笑顔をしていた。それは不気味な程に。
そして彼女はそのまま歩き出した。いつもは白杖を使っていたはずだ。何故か普通に歩けている。何故だろう。僕は彼女の後ろ姿をボーっと見ていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?