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読書記録(2023年4月分)

何冊読んだかはもはや数えていませんが、とりあえずみんなで今月読んだ中で面白かったという本を選んでみました。今年出たばかりの本ではありません。参考までに。

文芸書

①マイケル・フレイン『コペンハーゲン』

1941年のコペンハーゲン。デンマークの物理学者ボーアのもとに、ドイツの物理学者のハイデルベルクがやってきてお喋りする話。ボーアの妻含めて3人しか出てきませんが、政治と原子爆弾をベースに、皮肉や脱線、科学者らしい生真面目すぎる口調、盗聴を恐れた婉曲表現など、ちぐはぐな会話劇ですが面白いです。読むだけでは少し難解ですが、不協和音の三重奏に痺れました。

②サルトル『言葉』

哲学者というより作家としてのサルトルが全面に出ている作品。一応はサルトル本人の幼少期の回想録です。幼少期の自伝や回想はフィクションかどうかも本人以外判別できないジャンルですが、それ故にサルトルの筆はのびのびと自由に進んでいます。面白い小ネタが挿入されていたり「クスクス笑えるサルトル」がここにはありました。意外性含めて驚きのある本です。

③魚村晋太郎『バックヤード』

「玲瓏」に所属し、現代短歌を牽引するひとりの最新歌集。短歌を詠むというよりは、雑多な街の生活をあらゆるところに短歌を見出す、という乾いた雰囲気が好きでした。硬質な漢字や外来語をグッと押し込んで破調をつくり、印象を強めている作品が多いです。

④パオロ・コニェッティ『フォンターネ 山小屋の生活』

現代イタリア文学の騎手のエッセイ風小説。清澄な北イタリアのアルプスの描写はさすがです。思索や知的創造には孤独が不可欠だなと思う一方で、完全な孤独というのはやはり不可能だなということも伝わります。人と会うのではなく籠るにしても、結局人との交流は起こりますから、これくらいラディカルに過ごすのも美しいなと思いました。

美術書・専門書

①フランコ・マルモンド『ベルニーニ その人生と彼のローマ』

バロック様式を代表する彫刻家のベルニーニですが、カラヴァッジョと異なり本人にクローズアップした本は存在しなかったので書いた、という意欲作です。案の定とびきり面白かったです。美術史を超えて、17世紀のヨーロッパ文化人の精神や振る舞い方といった隅々まで、射程にとらえたものです。彫刻のみならず、17世紀のヨーロッパ文化に興味ある人には強くお勧めしたい本になります。

②松井裕美編『レアリスム再考』

「リアル」「写実主義」など、美術史に限らず文化史全体でよく出るこの概念は一体何を示しているのか。各分野の専門家たちが一度真剣にまとめるべきと、立ちあがって編纂された論文集です。これを読めば美術観や文学観が飛躍的にレベルアップすること間違いないかなと思います。

③二村淳子『ベトナム近代美術史』

これは金字塔と言ってもいいもので、受賞されるのも納得の一冊です。近代はどの地域の文化も「西洋化」に迫られますが、日本のそれはやはり少し特殊なわけです。しかしこれまでは比較対象としての研究書が少なかったのですが、このベトナムの近代美術の展開について書かれた本は、新しい世界を紹介してくれるだけでなく、日本やアジアにとっての近代美術を考える際の鏡になる重要な業績だと思います。

④ジャン・フランソワ・ムロン『商業についての政治的試論』

18世紀フランスの経済学者の本。読んだ理由は第9章の「奢侈の肯定」についての文章であり、禁欲=宗教/奢侈=啓蒙、という非常に興味深い構図で奢侈を肯定するのは目から鱗でした。文化とは、贅沢とは。思索が進む挑発的な一冊です。

⑤ダニエル・アラス『ギロチンと恐怖の幻想』

碩学ダニエル・アラスが美術史以外のものについて論じる際の、とことん厳密に対象に迫っていく態度には学ぶことが多いです。内容も非常に面白く、ギロチンという処刑用具が平等や残虐性の緩和など、人道的なものとして開発されたりしてるのは初耳でした。そして何より「私たちは何を恐れるのか」ということや、シンボルと実体の乖離など、幾つものテーマに波及する思索があり、著者は本当に頭がいいんだなと改めて感服しました。

変わり種

『臨済録』

禅の語録の王と呼ばれるもの。簡潔で言い訳無用の応酬が面白かったです。仏典はあまり読まないのでなおさらですが、個性強すぎの坊主の喝に一気読みしてしまいました。

5月も色々な本と出会えるといいなと思います。

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