藝大アートプラザになぜ七福神が?編集長が語る壮大すぎる思いとは
先ごろ藝大アートプラザに「藝大アートプラザ七福神」なるものが誕生しました。ステッカー(各250円)も好評販売中のこのコーナー。なぜアートプラザに「七福神」なのでしょう。言い出しっぺの高木史郎編集長に語ってもらいました。
岩田駿一氏が生み出した神々から厳選
(談:高木史郎・藝大アートプラザ編集長)
この作品のもともとの作者は、アートプラザの「LIFE WITH ART」コーナーにも出品してくださっている「しゅんピー」こと岩田駿一さんで、彼が《市井の曼荼羅》と題して企画展に出品してくれた神様たちの中から、七柱を選んで"祀った"ものです。
実は私、かねてから上野には新しい名所が必要だと感じておりまして、その思いから藝大アートプラザに七福神をお迎えした次第です。
目にした人の中には、「え? なんでここに七福神が……?」と思った方もいらっしゃるでしょう。でもたとえば谷中七福神や浅草七福神など七福神巡りって楽しいですよね。それと同じように、「七福神にあやかりたいから、ちょっとアートプラザに立ち寄ろうか」なんて思っていただきたいのです。
アートプラザは、もちろんアートを見たり買ったりできる場所ですが、「七福神に会いに来る」場所でもありたいのです。
総選挙で「センター」を選び七柱を選出。これが本当の「神セブン」。
今後は、年に一回「藝大アートプラザ七福神」総選挙を実施しようと思っています(予定)。七福神の研究生(研究神)を十神加えて、全十七神によるステッカー総選挙を開催します。その中のベストセブンが七福神になることができ、一番多くのファンを獲得した神様が、栄えあるセンターの座に就くのです。
そんなわけで、お越しになるお客様には、「推し神様」を見つけてもらいたいのです。現在、ステッカーに加えて七福神Tシャツを制作中で、今後グッズも多数取り揃えていきますので、ぜひ推し活をお願いしたいところです。
「日本中の家をアートだらけにする」
冗談のように聞こえますが、藝大アートプラザの今時点の目標は「日本中の家をアートだらけにする」で、こちらは五か年計画で進めています。1年目の現在は、藝大生や藝大卒業生たちのアートの本作品(標準的な意味でのアート作品)を主に展示していますが、それだけではこの壮大な計画を実現できないと思っています。
生活に密着した器やジュエリーなどをアーティストたちの作品で彩ることをコンセプトにしたアートプラザの「LIFE WITH ART」のコーナーも、そうした理由から強化しています。
でも現在展開している作品だけでは足りません。キャップやスケボー、さらには神棚や棺など、そうしたものにもアートを取り入れる余地があるんじゃないか。
しつこいようですが、日本中の家をアートだらけにするためには、アート作品をいっぱい家においてもらうという発想では絶対に成功しません。むしろ、逆の発想。家にアートを置くではなく、家にあるものをすべてアート化する。
私たちは新年に初詣に行ったら神社でお札をもらう。ということは、お札もアート化しなければならない。「藝大アートプラザ七福神」はそんな発想で生まれたのです。
つまり「藝大アートプラザ七福神」は、日本中の家をアート化するプロジェクトのスタート地点として位置づけているのです。
出版社の使命「文化をあまねく行き渡らせる」
アートプラザは藝大と小学館が共同運営している場所ですが、そもそも小学館をはじめ、出版社には出版物をできるだけ多くの場所・できるだけ多くの人に届けるという使命があります。出版文化をあますことなく広げるという出版社の使命を「アート」に置き換えたらどうなるのか?それこそが美術館やギャラリーではできない藝大アートプラザならではの使命なのではないかと思ったりしています。
これまでのアートプラザは、特に素晴らしいと思われる作品をよりすぐり、展示・販売することを念頭に置いてきました。それは非常に価値のあることですが、今後はその方向性を少し変えて、できるだけ多くの人にアートを届けることに舵を切ろうと思います。
アートは一点ものという印象がありますが、アートをかたどったステッカーだって、日本中の家のアート化には必要な一歩です。ステッカーを買うことで「推しアーティスト」ができ、そこからその人のアート作品を買おうという気にもなるはずです。
実際、アートに縁がなかったスタッフたちも一つの作品を買ってから「アートを買うハードルが下がった」と感じているようです。
ボトムアップ方式の楽しみ方
これは私個人の感覚ですが、日本においてアートは「美術館に見せてもらうもの」「アーティストから与えられるもの」というイメージが強い気がします。つまりアートの流れが一方通行なんです。
仮にそれをトップダウン方式とすれば、鑑賞者が気軽に手に入れられるもの、たとえばステッカーを集めていろんなところに貼ってみるというアートがあるとすれば、ボトムアップ方式だと言えるのではないでしょうか。
また、日本は美術館大国である一方で、アートを所有することは「お金持ちのもの」という印象がまだまだ残っています。でも100円、200円程度の作品を買って楽しむという行為も十分に楽しいし、素敵じゃないですか。そうした文化が広がっていけば、これまでとは全く異なる盛り上がり方が生まれるのではないかと考えています。
「アートは特別なものですが特別な人だけのものではない」。最近そんなことをよく思うようになりました。
存在の仕方が素敵なアートたち
こうした考え方のきっかけになったのは、冒頭にお話しした、七福神の生みの親・しゅんピーのご自宅を取材で訪れたことでした。彼の家には、アートが至るところに飾ってあって、押入れのふすまや長押の上、風呂場を仕切るカーテン、階段の隅など、ふとした場所にポンとアートがある。
それも、まったく気取っていないし、気構えがない。存在の仕方がとてもいいのです。アートは特別なものではなく、どこにでも「潜んでいる」ものだということを思い知らされました。必ずしもすべてのアートを額装したりしっかりライトアップされた場所に飾る必要はないのです。
日本人はそうやってアートを楽しんできた
そもそも日本人は、昔からあらゆるものや場所にアートを見出してきました。いまでは世界各国で展覧会が行われる浮世絵はその代表格ですし、庶民が気軽に飾って楽しむものでした。江戸時代に隆盛を極めた根付や印籠なども、普段使いを前提とするするものでした。火消しの半纏も皆がこぞってデザインを競っていたり、刺青に歌川国芳の絵柄を使ったり。
そんなふうにして日本人はアートを楽しんできたわけで、そのような楽しみ方をもう一度広げていきたいと考えています。「藝大アートプラザ七福神」を足がかりに、暮らしの中でアートに関わる機会を、藝大アートプラザから今後どんどん増やしていきたいと思っています。
(文=中野昭子)
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