エコアクション。

EA(Eco Action)21という環境省が策定した日本独自の環境マネジメントシステムがある。あらゆる事業者が効果的、効率的、継続的に環境に取り組むという活動で、認証を取得した企業で働く人の名刺にはそのエコアクション21のマークが入っている。

シンプルに言うと、うちの会社CSR(Corporate Social Responsibility:社会的責任を果たす)のしっかりした社会的に信頼できる会社ですよ、と地味にアピールできる認証なんである。その認証は第三機関から降りるため、公平性も保たれている。

さて、EA21を取得すると決めた企業では、社内に専用の事務局が設置される。うちの会社は総務ではなく、全員でやりましょう!の流れであったので各部署から人を差し出さねばならず、毎年リストに名前が記載されていないかドキドキしていた。経営者側からすれば、地味だけど意味のある活動なのでちゃんとやってくださいね、であるが、計画値が実績値を超えると、調査、分析、報告、対応策などをいろいろまとめたりしないといけないので、すでにお役目が終わった人からは担当になると意外にめんどくさいよという話は聞いていたから、毎年当たりませんようにと祈っていた。そういう時にこそ、お祈りは効かない。ついに当たりくじが出てしまった。
担当には産業廃棄物やら、電気やらいろいろなジャンルがあるのだが、私は「水」だった。
ようするに、みなさーん意識して水道使用量を減らしましょう!と、常日頃から社員に節水キャンペーンを仕掛けるそんなお役目だ。
恥ずかしながら、昔から食器を洗うときは水を出しっぱなしにして注意されるタイプである。トイレでいくつかスイッチがあるときは、いちばん水量の多そうなところしか押さない。
私は節約に向いていないので、担当として全くふさわしくありませんと事務局に交渉してみたが、まぁ頑張ってと軽く流された。

さて、担当になったのはいいが、いったい何をやればいいのかわからない。引継ぎの際に渡された書類を見て、眉間にシワが寄る。
環境目標の一つに、「男子トイレの水量を調節する」とあったからだ。いやだ。こんなことしたくない。不衛生すぎる。そんなことしたら絶対に不具合というか不都合が起きるだろうし、お掃除に来てくれる方にも迷惑がかかることになる。やめましょう!と言ったが、でも僕も前任者からの引継ぎでやりましたよ。まぁ僕が決めたのではないのですが、「水量の調節は男子トイレ」だけですし、ひとまずは今までの案を踏襲したらどうですかと言われ、確かにすぐ他の対応策も思いつくわけでもないので、しょうがなく現行の目標でスタートした。
担当の業務は、毎月建屋で使用されている水量データが送られてくるのをまとめ、もし大幅に変化があると調査することになっていて、それ自体は数分ほどなので特に問題はなかった。

そうしたある日、業者さんから派遣されてきたお掃除の女性がすごく困った顔をしてトイレの前に立っていた。声をかけずにトイレに入るにはあまりにも気の毒な雰囲気だったので、どうしましたか?と聞くと。年配の女性特有のヒミツを話すときの小声バージョンに変わる。

ごめんなさいね。男子トイレが汚すぎて。水の流れが悪すぎて、お掃除しようとしても洗剤がなくなってしまいました。別の担当者が新しい洗剤を持ってきてくれるのを待っているんです。
こんなこと言ってもいいのかわかりませんけど。御社の男子トイレは水が流れないから、キレイにするまでが本当に大変なんです。

ほーら、だから言ったやん。

私はその場でそのお掃除の女性に、男子トイレの水量を全部元に戻して下さい、と小声で頼んだ。

翌月、水量のデータが増えているので事務局から原因を調査するように、とお達しのメールが送られてきた。

「今月は目標値をクリアできませんでしたが、従業員増加のため計画値の見直しが必要かもしれません」と、報告書に書いて送った。


温かいお気持ち、ありがとうございます。 そんな優しい貴方の1日はきっと素敵なものになるでしょう。