ソアリン×ストームライダー二次創作「空の上の物語」番外編:もしもカメリアがポート・ディスカバリー組と対面したら
24話のif。一貫してギャグです。最後までベースやスコットと絡ませてあげることができなかったので、番外編で実現させてみました。本編最終話までのネタバレを含みます。
ぐぬぬぬぬぬ、と互いに放つ、どす黒いオーラが吹き荒れた。
「まったく、手負いの身にも関わらず、なかなか強情っぱりな男だねえ、キャプテン・デイビス君?」
「あんたこそ、わざわざ見舞いに訪れてまでそんな嫌味を言うなんざ、筋金入りの根性だよなぁ、ドクター・コミネさんよお——?」
ストームは去ったばかりだというのに、まるで別々の暗雲が鬩ぎ合うかのようなこの攻防。スコットはうんざりとした顔で、自身の後ろに撫でつけた髪を掻きあげる。
「あのな、デイビス、ドクター・コミネ。ここは安静を義務づけられている医務室で——」
「「関係ないっ!!」」
「やれやれ、キャプテン・スコット、こうなっては我々はもう、手が出せませんよ」
ベッド近くの喧騒とは離れた椅子に座ったベースは、小指を立てて紅茶を飲みながら、残していた仕事を片付けるために、持参したノートパソコンを打ち始めた。
「あの人は相当に頑固な人間ですし、キャプテン・デイビスもあの通り、天邪鬼な性格でしょう。折り合いのつくはずがないのです」
「はあ」
「ですからキャプテン・スコット、あなたも気にしなくて良いです。落ち着くまで放置が一番。無駄なカロリーを消費する必要はありません」
あくまでもクールに、冷静に。
ベースは、優雅に啜ったティーカップをテーブルの上に置くと、ふう、と溜め息を吐いた。
ベッドの上では、様々なものが飛んでいた。遠目から見たらなかなか楽しそうではあるが、それは第三者の立場でいればの話。包帯、絆創膏、消毒液といった、まだ安全な部類のものは元より、メス、注射器、人体模型など、随分と物騒なものも混じっている。まあ、よもや番外編で死人が出ることもあるまい——と、スコットは野放しにさせておいた。流れ弾の関係で、ぼすっ、と彼の頭に枕が跳ねて、それを投げやりにベッドに放り返しながら、しかし今日は天気がいいな、と窓からの景色を眺める。ストーム一過、といおうか、デイビスとスコットでともにストームを消し去ったおかげで、五月の陽気を吸った空気は汗ばむほどだ。今頃、娘のクレアは、家の庭ではしゃいでいるかな。しばらく会えていなかったし、サラの体調も気遣ってやりたい。休暇が待ち遠しいな——と考えて、ふたたびその頭に、ぼふん、と枕が当たった。
「スコット、よそ見していないで、俺に加勢してくれよ!」
「……喧嘩は、当人同士でやってくれ。ところで、仲違いの原因はなんなんだ?」
「こいつがっ、俺のストームライダーのこと、ずんぐりむっくりって言ったんだ!」
「私のカザミスティックのことを、魔法少女スティックと言った恨みは忘れないよ、デイビス君」
あ、そう。
スコットは腕組みをしたまま、ずり、と肩を落とした。確かにベースの言う通り、どうでもいいな。どうせつまらないことに発展しそうだし、深入りしないでおこ。
そんなことを考えていた折り、医務室の戸口へ、ペコがひょこ、と顔を覗かせた。
「デイビスさんのお部屋って、ここですかあ?」
その声に、デイビスも枕を振り上げていた腕を止め、入り口を振り返る。
「おー、ペコ、アンドレイ。ありがとう、よく来てくれたな」
「どうも。もう一人、お客さんですよう」
姿を現す前にその気配を察して、ゆさゆさとアレッタが飛び立っていった。そして、その隼の吸い寄せられ、美しい翼を揺さぶりながら、軽やかに脚を伸ばして肩に留まった先は——
「お加減はいかが、デイビス?」
カメリア・ヴァレンティーナ・ファルコ———
航空史に残る大人物。いや、航空史などを超えて、世界史レベルの大偉人だった。創立から数百年単位の間を空けてS.E.A.の終生会員に認定された彼女には、それほどまでのインパクトがある。
ウインドライダー、ストームライダーの両機の直接の祖であるとともに、無論、間接的にも、彼女の発明がなければ現在の航空機開発技術は存在していない、という点では、このCWCの陰の立役者ともいえよう。
医務室の時間が固まった。ベース、コミネ、スコット、デイビス、その全員が、彼女の存在に集中し、ぽかんと口を開けていた。
しかし最も感銘の頂点にあったのはベースである。彼女の涙腺は崩壊した。生きている。生きて、目の前にいる。すかさず彼女は、カメリアの手を万力のような力で握ると、凄まじい勢いでぶんぶんと上下に振った。
「生きてるッ!!!!!!!」
「あ、あの……?」
「立ってる。あの、カメリアが!」
「私の名前を、ご存知なんですか?」
「ええ、ええ、知っているどころじゃありませんよ!」
感涙に咽び泣くベースを尻目に、デイビスは困惑しながらも、そばにいるペコに問いかける。
「ど、どうやってカメリアを連れてきたんだ?」
「ひとりぼっちで岬にいたから、拾ってきたんですよお。デイビスさんのお見舞い、行かないんですか、って」
ペコはこともなげに言った。ナイスすぎるファインプレーである。デイビスはぐっと拳を握り、密かにガッツポーズを取った。
それより何より。
「カメリア、あんた、ボロボロだろ……」
「え、ああ、これ? 昨日の雨風でちょっと。それより、あなたの方が心配だわ。随分な無理をしたんですって?」
「お、俺はパイロットだから。こんなのは、仕事の範疇だし」
泥だらけのドレス、あちこちがすりむけ、傷だらけ。けれどもそんなカメリアは、心底安堵した様子で、デイビスに微笑みかけた。
「あなたが無事で良かったわ。嵐の間中、ずっと天にお祈りしていたの。でも、こうして生きて還ってこれたなんて、やっぱり、神はあなたのことを大切に守護してくれたみたいね」
じわぁ〜、と感動を胸いっぱいに滲ませるデイビス。一昨日、あんなに酷い言葉を投げつけたばっかりなのに、泣きそうだ。ぐし、とパジャマの袖で目許を拭う彼に、相変わらずカメリアはにこにこと平和な笑みを浮かべていた。
「……ちょっと、アイリス。話が」
「なんですか、ドクター・コミネ」
そして、その平和に水をさすように、コミネが手招きして、部屋の隅へとベースを呼び寄せる。
「まずい、まずいよ。なんだってこんなところに彼女がいるんだ?」
「どうも、知らない間にドリームフライヤーで時空を超えて、デイビスと親交を深めていたようで」
「彼女がキャプテン・デイビスと出会ったのは知っているよ、でもそれがいまだに続いているとは思わなかった。親交って、どのくらいなの?」
「……え、ええっと。それは」
さすがに部下のプライベートに関わることなので、ベースは口をつぐんだ。そもそも、彼女自身が知らないのである。しかし思い出す限り、確かあの時、デイビスは泣いていたような——何より、彼らは痴話喧嘩をしていたのだ、単なる仲の良いお友達ですー、というレベルの気軽な関係でないのは、容易に推測が可能である。
「フローティングシティで出くわした時、僕は、彼女のことをまったく知らない振りをしたんだ。だって、もしも彼女が自分の将来を知ってしまったら、歴史が変わってしまうかもしれないだろ? デイビス君は、そういうことも含めて考えているのかい?」
「大丈夫です。彼はどうも、カメリアの残した業績を知らないようで」
「馬鹿なの!?」
「あの子は、興味あること以外の知識は、さっぱりですよ」
肩をすくめるベース。CWCの創立の理由など、座学で最初に習う内容なのだが、初っ端からデイビスは居眠りしていたらしい。こういうところで雑な性格が響いてくるのだ。
「とにかく、一度カメリアには部屋から出てもらって、デイビス君と話そう」
「待ってください、ドクター・コミネ。タイミングが早すぎます。その前にまだ、重要なことが」
「なんだい?」
ベースは、すぅっと息を吸うと、真面目な顔をして、コミネと向き合った。
「私も、カメリアと記念写真を撮りたいです」
————そして、その言葉に。
コミネは思いっきり床にうずくまり、何と言えば良いのか、今までで最高に頭をめぐらせた。
「おや、奇遇ですね。こんなところに、バズーカ付きの一眼レフが」
「……アイリス」
「科学者であるカメリアも、この機械に興味を持つかもしれませんね。せっかくだから、見せてくることにしましょう」
「アイリスぅッ!!」
ようやく、ベースが半目になってコミネを見る。
「アイリス、学生時代からその変態的な熱狂ぶりは治っていないみたいだね」
「あなたこそ、好きなものに対してわざと仏頂面を作る大人げない癖、ちっとも変わらないじゃないですか」
「僕は研究者として、冷静にカメリアと対峙しているんだ」
「ではあなたは、カメリアのサインを欲しいとは思わないんですか?」
その言葉に、ぴくり、とコミネの肩が動いた。そこから数度、まるで電池切れのロボットのように怪しく唇がひくついたが、やがて浮かびあがってくる笑みは隠せなかったらしい。頰をピンクに染め、海藻の如く湿った笑顔を浮かべて、ユラリ——と心底不気味に、コミネはベースを振り返る。
「……ほ、ほしい」
「一生物の宝ですよね」
「むしろ家宝に」
「シェルターに格納しなくては」
「赤外線で強盗から守りたい」
怪しげに密談を交わす眼鏡二人組。うふふふふ、と漏らした互いの薄気味悪い笑い声だけで、二人の間に黙契が成り立った。
「カメリア。こっちに来いよ」
何やら不穏な雰囲気にヒいている彼女を呼んで、デイビスはそばの椅子を引きずった。そして、周囲の沈黙にふと気づくと、顔を赤らめて、
「……お、俺の見舞いに来たんだから、俺のそばにいてもらって当然だろ」
と言った。
その様子に、ペコの目がキラリと光る。ほおう、これをネタにゆすれば、またいくらでも金を引き出せるな、という、彼にとっては、勝負開始のゴングが打ち鳴らされたような瞬間だった。
しかしながら、ゴングが鳴ったのは別の人間においても同様であった。ひとりは、カメリア。こっ、これが、俺の女に手を出すなってことなのね(という錯覚)。いまやその胸は高原をスローテンポで駆け回るような爽やかさに満ちて、あははうふふ、と早くも幻想の笑い声が響き渡る。
そして、もうひとりはアンドレイ。若干本編では出番が少なかったが、CWC専属の整備士であるこの男は、とにかく色恋沙汰を引っ掻き回す面倒臭さを兼ね備え、辺りの人間たちに心底疎ましがられていたのである。
「デイビス、さぁんっ?」
「う」
ツンツン、と背中を突っつかれた瞬間に、デイビスは嫌な汗が伝うのを感じた。この流れ、なんだかデジャヴすぎる。
「言いましたよね、僕に? 俺たちはカップルじゃない、って? あの言葉は嘘だったわけですか?」
「あ、あれは、もう一ヶ月以上も前の話で——」
「言い訳をしないッ!!」
バァン、とアンドレイが小テーブルを叩き、衝撃で脚が捻じ曲がった。ぞっとするデイビス。俺の腕くらいの太さの金属だぞ、どこからそんな怪力が出せたんだ。
アンドレアはカメリアに向き直って、もはやそれ用としか思えないハンカチを、奥歯でちぎれそうなほど噛み締める。
「キーッ、あんたがデイビスさんを誑したのね。この泥棒猫ッ!!」
「何の話かしら?」
「とぼけないで頂戴ッ、証拠は上がってんのよッ!!」
「ばっ、馬鹿っ、ペコっ、なんでこいつを連れてきたんだよっ!」
「無論、引っ掻き回す役のいた方が、面白いからに決まってるじゃないですか」
余計なことしやがってー、とデイビスは頭をくしゃくしゃにしたくなった。パーティーにゲストを連れてきながら、一緒に爆弾を放り込んだようなものである。
「とにかく、うちのデイビスさんには近づかないで頂戴っ。どこの馬の骨か分からない娘に、うちの子をやるもんですかっ! うきーっ!!」
「なんなの、この人? あなたの母親?」
「馬鹿っ、こいつから産まれた覚えはねえよ!」
「デイビスさんっ、まさか、僕との感動の出会いを忘れたんですか!? デイビスさんの臍の緒をちょん切り、産湯で洗い、毎夜泣き喚くあなたに子守唄を歌ってあげたのは、この僕ですよ!?」
「何を捏造しようとしてるんだ!?」
「わっ、私だって、デイビスに(音痴な)唄を歌ってあげたことあるもんっ!」
「何の曲よ!」
「『イッツ・ア・スモールワールド』よ!」
「こっちは『コンパス・オブ・ユア・ハート』よ!」
「あーもう、俺の左右から交互に大声で怒鳴るのはやめてくれッ!!」
あああああ、こいつら、合わさると超めんどくせえ。ともかく、こんがらがった空気を元に戻したい。
「ペコ!」
「なんでしょう、デイビスさん」
ぽんぽん、と手を叩くと、すぐにペコが反応した。その青年に、こっそりとデイビスは財布を開け、賄賂を渡す。
「頼む。これであいつを、黙らせてくれ」
「お安い御用です」
ペコはするするとアンドレイに近づいた——かと思うと、一瞬にして包帯で簀巻きにし、ミイラの如く丸まったそれを、ぺいっと部屋の隅に雑に放った。
「終わりました」
「助かったよ、ありがとう」
よし、これであいつは、最初からいなかったことにしよう。
デイビスはこほんと咳払いをし、改めてカメリアに向き直った。
「ありがとな。わざわざ、見舞いに来てくれて」
「いいえ。ひとめ、無事な顔を見られてよかった」
「……あと……ごめん。この前は……俺、あんたに酷いこと、」
「大丈夫だよ。無線で、仲直りもしたでしょう?」
「あのな、カメリア。今日は俺、あんたに——」
と、身を乗り出したデイビスの鼻先に、いつのまにやら包帯の繭から脱出したアンドレイは、三角定規をあてて。
「六〇・五センチ。半径五〇センチ以内に近づいたら、警笛を鳴らしますからね」
「————外野は、気にしなくて良いから……」
「うん……」
頭を抱えるデイビス。初めて紹介する職場がこれでは、穴があったら入りたいほど恥ずかしいものがある。
そしてその周囲を、清潔な看護服を身につけたアンドレアは、薔薇の花びらを撒き散らしながら、ぐるぐると歩き回る。
「赤い薔薇は、ベッドに眠る麗人にこそ相応しい。それ、一輪、二輪、——おや、足りない。いったい誰が、愛の花を持ち去ったのか」
「は?」
「こいつのことは、特にほっといてくれ」
一番訳の分からない奴だから。出番は24話のただ一度しかなかったが、できるならこの先も話題に触れたくない怪人である。
「あら、リンゴ」
カメリアはふと呟き、小テーブルに載っていた紅い果実を手に取ろうとして、その手も泥だらけになっていたことに気づいた。
「ごめんなさい、手を洗ってくるわ。洗面所は、どちらにあるのかしら?」
「あっちに、備えつけのがあるよ」
「ああ、あれのことね」
鼻歌まじりに遠ざかってゆくカメリアの後ろ姿へ、その場にいる全員が目をそそいでいた。
『アンナ・カレーニナ』の冒頭曰く。「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある」。しかしこの医務室にたった今渦巻いているのは、それぞれの形を取った、各人のドロドロと鬩ぎ合う欲望であった。そのひとつひとつの声を端的に拾いあげてみると、こんな感じ。
泥棒猫になんて渡すもんですか——
金の匂いがする——
歴史を変えてはならない——
とんでもない奴を恋人にしたな、デイビス——
情熱の薔薇が花開く予感——
サインください——
気を利かせて、二人きりになどしてくれないんだろうな——
などなど。
手を洗ってきたカメリアは、颯爽と椅子に座り込むと、くるくるとリンゴにナイフを走らせていた。さすがに幼い頃から発明に慣れているだけあって、手元が器用な彼女は、皮剥きも上手い。それを丁寧に一口大に切ると、フォークで突き刺し、デイビスに差し出した。
「自分で食べられる?」
「だ、大丈夫だよ。そんな重傷じゃねえから」
「デイビス君」
ずい、と出てくるリンゴを突き刺した新たなフォークの登場に、思い切りのけぞるデイビス。
「この私が、君にあーんしてさしあげよう」
「マジでやめてくれる?」
ドン引きしながらデイビスが後退すると、それを追いかけるように、不気味な笑みを浮かべたコミネが、つつつ、と近寄ってくる。
「言っとくけど、ストームライダーIに搭乗してくれたのは感謝してるが、それで俺たちの犬猿の仲が解消されたわけではないんだからなぁ——?」
「君もなかなかにしつこい男だね。お客様が目の前にいる時くらい、休戦しようという健気な意思表示でも見せてみたらどうだい?」
ぐおぐおと渦巻く因縁のオーラを鬩ぎ合わせて、ぐぬぬぬぬ、と睨み合う二人に、はたから見ていたカメリアはぽんと手を打った。
「えーと。あなたは確か、フローティングシティの天才科学者、ドクター・コミネさん」
コミネはハッと感動で肩を揺らしたが、しかし顔色に出すのは寸前でこらえた。ささっと乱れた前髪を直し、風に靡かせるように掻きあげながら、キラキラとしたオーラをまぶして外見を仕上げる。
「……そうだよお嬢さん、これは偶然だね。またお会いできて嬉しいよ」
「こちらこそ。あれから、また新しい発明品はできまして?」
おお、夢にまで見た自分の研究対象、生のカメリア・ファルコの声。というか、気を許したら、彼女への感謝を雨霰とそそいで、涙しそうだった。元々、友人を作るのが生まれつきド下手くそなコミネに対し、その孤独な生涯でもって、彼に救いの道を示してくれたのは、カメリアだったのである。そんな彼女が、天敵とはいえ大切な人間を見つけていたのは、嬉しいような寂しいような、くたばれデイビス、と思うような感情がなきにしもあらず。ほとんど父親目線であった。
「ごらん、カザミスティックを改良して、風のもっと複雑な感情を拾えるようにしたんだ。より強く、エレガントに、たくましく進化した発明品。その名も、コミネスティック——」
「わー、そうなんですか。あ、水色になった。これはどんな気分かな?」
不思議そうに、彼女はぺたぺたと触った。あ、カメリアが指紋つけた。このスティック、今後一切洗わないようにしよう。
しかし上には上がいたもので、コミネよりもよほど頭のおかしい人間が、彼女のそばに接近してきていた。ズゴゴゴゴ、と放たれる物凄い波動に違和感を覚え、何気なくカメリアは上を見る。
「カメリア・ファルコ殿」
そこには、眼鏡だけを光らせて聳え立つ、高層ビルほどにも巨大なベースの人影。え、と固まるカメリアに向かって、ベースは厳かに口を開く。
「このCWCについて、一言いただけますか? 額縁に書いて、飾りますから」
「え、えーと。CWCって、何ですか?」
「それはこれから、みっちりと教えてあげますから。個室のマンツーマンで」
「へ?」
「私があなたの生活から人生まで、何もかも支援します。もう二度と迫害されることはありません。さあ、カメリア、二人でめくるめく学問の旅に飛び立ちましょう」
「あー、この人のことも気にしなくて良いから。今聞いたことは、全部忘れてくれるか?」
「忘れても問題ありませんよ。全部ハイレゾで録音していますから」
「た、頼む、ベース。お願いだから、いつものあんたに戻ってくれ」
「何を言いますか。これが本来の私です」
ずいずい、と身を乗り出しかけるベースを押し戻して、デイビスはカメリアに小声で話しかける。
(ごめん、俺の上司。普段は真面目なんだけど、時たまおかしくなるんだ)
(この人って、前にウインドライダーのフライトを阻止しようとしてた人と、同一人物?)
(い、一応)
(何かの間違いなんじゃないの?)
(ポート・ディスカバリーは、こういう奴らばっかりなんだよ)
うわ、何それ。なんだか住みたくないな、この街。
と一瞬浮かびかかった考えを捨てて、カメリアは首を振った。危ない危ない。私は一応、この作品の貴重な清純ヒロインの立ち位置を保っているわけだし(という妄想)、みだりに否定しては、読者からの好感度が下がってしまうわ。
そう判断したカメリアは、大人しくベースから渡されたマイクを受け取った。
「ではCWCのことは後ででいいですから、このポート・ディスカバリーの科学精神について、なにかコメントを」
「あ、はい。どうしよう、なんだか照れますね。『科学は……』」
「科学はッ!!」
「『すべて人類を自由と幸福に導くために利用されるものであり……』」
「自由とッ!! 幸福にィィッ!!」
「……あの、これ。最後まで続けなきゃいけないんでしょうか?」
隣にいるコミネが、彼女の言葉をいちいちマイクで復唱するたび、じんじんとエコーが響き渡るのに耐えかねて、カメリアはとりあえず片耳を塞いだ。ハウリングがうるさすぎる。
そこへ、す——と脇から差し出される、一枚の小さなカード。それとともに、筋骨逞しい、丁寧な物腰の男が、頭を下げながら話しかけてくる。
「ミズ・ファルコ。私、こういう者です」
「何ですか、これ? 自己紹介カード? えーと、キャプテン・スコットさん。あ、いつもデイビスがお世話になっています」
「それは"名刺"と申しまして、自己の所属を表すために現代で使われているものです。あなたの残したドリームフライヤーの、設計についておうかがいしたいのですが」
「ええ、もちろん。私の答えられる範囲なら」
ようやく常識人が現れた、という安心感にホッとするカメリア。さながら、砂漠の中のオアシスである。スコットー、あんただけが頼りだよ。デイビスもようやく胸を撫で下ろし、さて、本題に入ろうとおもむろに話しかけた。
「そ、それでな、カメリア。今度俺と——」
「この本に書いてあるサイズ感ですと、胴体部分に歪みが生じるように思うのですが。誤植ですか?」
「あ、それは誤りですね。私のドリームフライヤーは、103.5センチのはずなので」
集中できない。
「えっと、その。季節も良いし、たまには気分転換にさ」
「ここの突起の意図が理解できません。単に飛翔するには、不要ですよね」
「それは、揚力比を調査をするために、実験的に取り付けたもので」
集中できない。
「すっ、少し遠いところに出かけるのもっ、良いんじゃないかと思って——」
「ここの更新した設計書なのですが、バージョンの小数点がおかしくありませんか?」
「あ、これは以前のものが燃やされてしまったので、バージョンがひとつ飛んでいるのですわ」
集中できない。
「ス、スコット。俺はてっきり、あんただけは気を利かせてくれるもんだと……」
「悪いがデイビス、私の専門は航空工学だったんだ(10.5話参照)。この千載一遇のチャンスを逃すつもりはない」
「どーしてここにきて、急に糞真面目さを発揮するんだ!?」
「私は、いつでも真面目だった」
心なしか誇り高く胸を張るスコットに、デイビスは哀しくベッドに突っ伏した。マジでなんなんだよこいつら、正常な奴はひとりくらいいないのか。
しかしカメリアは、ここにきて急激にアンドレイを除くメンバーにチヤホヤとされ始めて、鼻高々だった。元の時代では異端扱いだっただけに、これ以上ないほど自尊心をくすぐられたらしい。うっとり、と自分の世界に陶酔するカメリア。
「はぁ、未来ってなんて素晴らしいのかしら。飛行のロマンを理解してくれる内面性、深い共鳴、個性豊かなキャラクター性、そしてこの賑やかさ。人が科学精神を養うには、最適の環境よ」
「あんた、ほんっとーに、この欲望の渦巻く地獄絵図を、素晴らしいって思ってんのか?」
「もちろんよ、デイビスをデイビスたらしめてくれたのは、この人たちなんでしょう? そうそう、ジョン・ロックが1693年に『教育に関する考察』っていう本を出しているんだけどね、イギリス経験論の代表格である彼らしく、人間の観念を発生させるのはあくまでも経験であり、外的な感覚と内的な反省が複雑に認識されつつ結合してこれを生成する、この考えを教育論に敷衍すると、良き指導者たる家庭教師が、それぞれの個性たる好奇心を刺激しつつ、習慣や態度の手本を見せれば、子どもは自然と良き習慣を身につけられると——以下略——」
あ、そーだ、こいつが一番頭のネジの飛んでる奴だった、と思い出すデイビス。回を重ねるごとにしおらしくなっていったかと思ったけど、やっぱ何も変わってねーや。
「すべて航空史に関わる人間については、例外なく敬えというのが、お父様の高貴なる教えですもの。さあ、デイビス、スコットさん。ともに手を取り合い、輝かしい未来へと向かって、協力して飛び立ちましょう!」
パンパカパーン、という気の抜けた効果音とともに、紙吹雪の中、雄々しく片足をベッドの縁にかけて明後日の方向を指差すカメリア。その紙吹雪をひらひらと頭に被りながら、ペコもデイビスも、半目になってその光景を睥睨していた。
「デイビスさん。僕、面白くないです」
「ああ。まったくもって、面白くない」
「言っておくけど、僕とデイビスさんの欲しい面白さは違います。デイビスさんはどうせ、ピンクなイヤらしいことしか考えていないんでしょうが、僕はそんなものはどうでも良い。ただただ、スキャンダルを求めているんです」
「は? スキャンダル?」
「ポート・ディスカバリーをストームから救った英雄。そのGFとのツーショットを撮れたら、マスコミにウン百ディズニードルで写真が売れます」
「なぁ、お前にとって、俺に金づる以上の価値はないのかよ?」
ペコはデイビスの耳に口を寄せ、ぼそぼそと耳打ちをした。
「このままだと、何も起きないまま面会時間が終わっちゃいますよねえ? いいんですか、それで? 僕と夜のフローティングシティをうろつき回った男はどこに行ったんですかあ——?」
「基本的に欲望が下衆なんだよな、お前……」
とはいえ、期限はじりじりと迫る。デイビスは無理にカメリアの腕を引っ張って、自分の方へと引き寄せた。
「わっ。どうしたの、急に?」
「ご、ごめん。……いや……あの、」
「?」
「……次。二人でどこの国へ行くか、相談しないか……?」
消え入りそうな小声で耳打ちする、真っ赤になったデイビス。後ろでじたばたと暴れるアンドレイは、何とかペコが押さえつけてくれているようだ。
カメリアは一瞬、恥じらうような素振りをしたが、やがてふわりと微笑みを見せて頷くと、そのまま優しい顔つきで、彼のことだけを見つめている。
「包帯が取れるのは、どのくらいかかりそう?」
「いいよ、そんなの待たなくって。退院したらすぐに行こう」
「どこか行きたいところはある?」
「メディテレーニアン・ハーバーなんかは?」
「いいわよ。私も、未来の故郷を見てみたいしね」
一気にほのぼのとするベッド周り。
心洗われるほど清純なやりとりに、そばで見ているスコットは、多少感動するものがあった。
毎日夜遊びを繰り返し、門限を破ったときなどは、スコットの部屋から宿舎に入れてもらうことすらあったデイビス。いつもどこか厳しい顔をし、悩んでいるように見えたが、そんな部下が、今は真っ当な交際をしている。それはそれは驚くべき進歩だった。
このまま、真人間への道を突っ走ってくれ頼むから、もうお前の女関係のフォローをするのはごめんだと、スコットは静かにデイビスへ念を送る。一方のベースとコミネは、二人の間に広がる和気藹々とした雰囲気が、気が気でない。
「ドクター・コミネ。カメリアは、結婚していたかしら?」
「いや、生涯独身だった。だから博物館も、S.E.A.の手に渡ったんだよ」
「それって……」
そこで天啓を受けた二人の眼差しは、点線を描くようにして、ベッドに横たわっている人物に吸い寄せられてゆく。
「おのれデイビス——」
「まあまあ。関係あるという証拠はないし」
復讐に出かけようと立ちあがるベースの襟元を、コミネが危うく掴んで落ち着かせたところで、奥から看護師のアンドレアが、救急箱とともにやってきた。
「さあ、面会時間は終わりですよ」
「ああ、ありがとう。みんな来てくれて」
心なしか、面会の前よりも精神的疲労が増えたような気がするが。げっそりと窶れたデイビスを背に、部屋を後にする面々を見ていると、カメリアだけがアンドレアに引き留められて、元の椅子に座った。
「あれ? カメリアは残ってもいいのか」
「彼女も、擦り傷だらけでしょう。手当てしなくては」
「助かりますわ、ありがとうございます。わ、いたたたた」
傷口に染みる消毒液に、カメリアは涙を浮かべて歯を食いしばった。
「というのは建前でして。看護師の特権を濫用して、部外者たちを部屋の外に追い出しました」
「え?」
「本当は、面会時間はまだたっぷりあります。話したいことがおありなのでしょう。お二人で、好きなだけ語り合ってください」
デイビスとカメリアは、互いの顔を見合わせた。
「無論、僕もこの後、席を外します。邪魔者がいては、話したいことも話せないでしょう」
「ありがとな、アンドレア。気を遣ってくれて」
まさか、この怪人物が一番肩入れをしてくれるとは思わなかった。とりあえず礼を言っておこうと、デイビスは戸惑いながらも感謝の言葉を口にする。
「いいえ、滅相もありません」
アンドレアは華麗なるポーズで窓辺に佇むと、二人を見つめ、フッ、と微笑んで。
「僕は、愛の味方ですから」
素直に喜べるものも喜べない。
五月の風に散ってゆく薔薇の花びらが、ぽとり、と虚しい響きを落とした。
で、追放された組はといえば、狂気的なオタク度を誇りながら撒き散らされるベースの愚痴に、さんざん付き合わされていた。
「分かっていましたけど、分かっていましたけど、でもよりにもよって、デイビスとだなんて。CWCの問題児ですよ。いったい、どのくらいマリーナの女性たちと浮き名を流してきたのか、彼女は知っているのかしら」
「……まあ、知らないのだろうな」
「デイビスさんも、せっかくできた恋人に、わざわざそんなこと言いたくないんじゃないですかあ? なにせ両手どころか、足の指を使っても足りないくらいですからねえ」
それを聞いたペコ以外の全員が、揃って頭を抱えた。その概算が想像できるだけに、何の言い訳もできぬ数で、重すぎる。葬式のような空気の中、ペコはひとり、フリー・リフィルのマテ茶を頼んで、紙コップからずずーと啜っていた。
「あっ、遊ばれているだけなんです、カメリアはっ! 彼女は清く正しく、清廉潔白に、ドリームフライヤーだけを恋人とするべきなんです!」
どん、とテーブルを叩くベースから身を引きながら、スコットもしぶしぶと立ちあがり、自販機のブラックコーヒーのボタンを押す。
「良いんじゃないか、放っておいて。餓鬼じゃないんだ、あいつにも自分で判断する脳がある。どうにかして、彼女との関係にも決着をつけるつもりだろう」
「つまり、別れるってことですかあ?」
「それ以外に選択肢がない。元々、彼女がこのポート・ディスカバリーに存在する方こそがおかしいんだ。それを引き留めようとしても、自分のエゴがどんな結末を導くかということに気づくはずだ」
「そーですよ、そーですよ。ストームライダーのパイロットたるもの、白銀の機体に相応しい、美しき純潔を貫かなくては」
言いながら、コーヒーの入った紙コップを傾けるスコットに、イマイチ話の方向性を理解していないアンドレイ。ふーん、とペコは相槌を打ちながら、何気ないことを呟くようにして、
「どーだろ。デイビスさんはああ見えて、蛇のように粘着質で執念深いですからねえ。そう簡単に納得するかなあ」
ぎくっ、と肩を震わせるスコット。その心当たりは、ある。別れてきた女性たちに対して、見苦しいまでに未練がましい発言を繰り返しながら自棄酒していたデイビスの闇を、とりわけスコットはよくよく知っていた。
「それにカメリアさんだって、嵐の中でデイビスさんの帰りを待ってて、相当重い人ですよ。素直に引き下がってくれますかねえ」
どきっ、と心臓を跳ね上げるコミネ。そういえばカメリアは、かのナポレオン・ボナパルトにすら譲歩せず、終生に渡って自説を貫き通した人間だ。要は凄まじいほどに頑固で、こうと決めたらテコでも動かない強情さがうかがえた。
ベースはスコットの襟元を引っ掴むと、悲鳴をあげるように唾を撒き散らしながら叫んだ。
「キャプテン・スコット! あの子たちが若さに任せて駆け落ちでもしてしまったら、いったいどーーー責任を取るというんです!? それこそ、航空学の歴史から人々の日常生活に至るまで、すべてがひっくり返ることになりますよ!」
「か、彼らの行く末は、私のせいじゃない」
「歴史が変わる……?」
ぴくりと、器用に耳を動かしてみせたコミネは、おもむろに立ちあがると、《学者》という名の輝かしき威光を背負い、凛々しく眉毛を引き絞ってみせた。
「僕は正史のカメリア・ファルコの人生を知って、科学者になろうと決めたんだ。彼女の藝術品のような生涯に、ヒビひとつでも入ったら許さない」
「そうでしょうそうでしょう。ドクター・コミネ、やはりあなたは話が早いですね」
「伊達に数十年、君と研究を続けてきたわけじゃないからね」
「へええ、殊勝ですねえ。で、本音は?」
「「サインほしい」」
だめだ、こいつら。ペコはあっさりと匙を投げて、これ以上彼らに関わり合うのはやめにしようと考えた。どうせ変なことに巻き込まれて、損をするのがオチである。
「もちろん、君もそう思うだろう? なあ——」
「——賛成ですよね、キャプテン・スコット?」
「……は?」
————そして大体、そのような貧乏くじを引く人間は決まっているものである。ひくり、と唇を痙攣らせながら、思いきり踵を返そうとするスコットの袖を、ベースがむんずと捕まえた。
「待ちなさい。どこへ行こうというのです」
「えーとえーと、そうだ。家で待っている妻が、トイレットペーパーを買ってきてくれと言っていたから」
「そんなものは、CWCが経費で買って届けてあげます。その代わり、私たちとともに出張なさい」
「……あまり聞きたくないが、どこへ?」
「メディテレーニアン・ハーバーに決まっているだろう!」
そう言うと、どこから取り出したのか、ベースとコミネは鼻を突き合わせて、講談社のTDSガイドブック(注、社員でもステマでもない)を読み込ん始めた。
「キャプテン・デイビスはとんでもない単細胞だからね、デートのルートなど丸分かりだよ」
「絶対にゴンドラに乗りますよ。助平ですから」
「ザンビーニにも行くね。貧乏だから」
「あのなあ、悪趣味なことは——」
「「だぁれが悪趣味だって!?!?」」
怖っ。身の危険を察して、スコットは瞬時に身を引いた。しかしそれでも、ベースの掴んだ手はがっちりと食い込んで離れない。
一縷の望みを賭けて、ペコとアンドレイに視線を送るが、二人とも、ふい、と斜めに目を逸らして。
「いってらっしゃい、スコットさん」
「無事に帰ってこれるといいですね」
「せめて目を見て言ってくれないか?」
だめだ、この組織。上から下まで、みんなおかしいぞ。
こうなってくると、普段問題児だとしか思っていなかったデイビスの方が、よっぽどまともな人間であるような気がした。今、ここにあいつにいてほしい。正気を保つためにそんなことを願うのは、生まれて初めてだった。
「先回りして、張り込みましょう」
「我らがポート・ディスカバリーの歴史を守るため」
「私は、妻子のいる家に帰りたいんだが」
こうして徒党を組まれた三人は、どう考えても噛み合いそうにないコンビネーションで、もはや未来の失敗は目に見えている。遠巻きに見ているペコとアンドレイは、やれやれ、と同時に溜め息をついた。
「スコットさんが人質になってくれて、俺たちは助かったな」
「あれ、アンドレイ。二人が旅行に出かけてもいいんですか?」
「あの三人の仲間に入るくらいなら、もうほっといてもいいかなって」
「へえ、クールですねえ。まー、僕は僕で、別のことに忙しいんで」
とペコは携帯機を取り出すと、手慣れた手つきで、どこかに電話をかけ始める。
「あー、シルヴィア? 来月分の家賃、僕の口座に振り込んでくれましたあ?」
《バッチリよ、忘れるはずがないじゃない。ついでに、臨時収入も入ったから、お小遣いとして一緒に振り込んじゃったわ。ね、今日はフレンチのフルコースにしない? 育ち盛りのあなたが、ちゃんとお給料だけで食べていけてるのか、心配だわ》
「わー、ありがとうございます、それじゃあ二つ星以上のレストランにしてもらえます? ……え? うん、愛してる愛してる。じゃ、今夜、そっち行きますねえ」
「お前って、本当に天性のスケコマシだよな……」
「失礼な。ヒモ男体質のデイビスさんと違って、僕はキッチリ、対価分を体で支払ってますからあ」
ピッ、と電話を切りながら胸を張るペコ。デイビスなどとても比較にならないその放蕩っぷりに、アンドレイはお手上げのポーズを取ったのだった。
ちなみにその頃、デイビスとカメリアはといえば。
「あのさ。さっきの、遠出の話だけど」
「うん?」
「せっかくだからさ。今まで二人とも行ったことのない、アラビアン・コーストはどうだ?」
「それもいいわね」
ちゃっかり、行き先を変更していた。かくして、メディテレーニアン・ハーバーで張り込みをしていた三人が待ちぼうけを喰らい、異国の地で大喧嘩を繰り広げることになるのは、また別のお話である。
一覧→https://note.com/gegegeno6/m/mb715c13ba408