ホーチミン市で本を探す2:書店の使い方
前回の記事ではホーチミン市総合科学図書館の利用方法を紹介しました。
ざっくり要約しますと、ベトナム語能力があれば外国人でも入館証を作ることは可能ですが、図書の貸し出しやコピーサービスの提供はなく閲覧だけしかできません。
今回の訪問の目的は研究プロジェクトに関係する文献の収集ですので、図書館の中で何冊か目を通すだけでは成果が全く足りません。ベトナムを訪れるチャンスは一年に数回もないことを考えると、一回の渡航で半年〜一年間は読み続けられるだけの量の文献を持って帰りたいところです。
図書館ではコピーが得られないとなると、次の主戦場は市内の本屋に移ります。幸い総合科学図書館には優れた図書検索システムがありますので、「言語学図書リスト」を図書館で整理してから市内各地の本屋を探していくのがいいでしょう。
言語学の本を探すのはどの国でも難しい
研究に携わっている人以外はあまり気づかないのですが、書店で本を探すとき専門分野によってその難易度が全く異なります。これはベトナムに限らず、日本や中国においても同じです。例えば、文学作品はどの国でも大抵の本屋さんが揃えていて比較的探しやすい分野です。法律系の書籍も専門書店が見つけやすいですし、中国やベトナムでしたら社会主義の理論に関する本は至る所にあります。逆に、言語学はどの国でも専門書を見つけるのが難しいです。これは日本でも例外ではなく、紀伊國屋などの大型書店でも「言語学」の棚を作っているところは珍しいですし、せいぜい語学棚の片隅に数冊だけ専門書が紛れ込んでいる程度です。
ベトナムで言語学の専門書を効率的に見つけるコツは正直まだ掴みきれていません。一見すると「ここには無さそうだな…」と思った書店でとんでもない掘り出し物を見つけたこともあります。今回は書店巡りをする中で私が普段から心がけていることを紹介していきましょう。
まずは本屋を探す
まずは「どこにどんな本屋があるのか」を最低限把握しないといけません。ベトナム人の知り合いに聞くのもいいのですが、残念なことに言語学を専門としている知り合いがいないため、おすすめの書店を聞いても正直あまり参考にはなりません。こういう時はとりあえず大きな書店をネットで探しましょう。例えば、下記のリンクは「サイゴンの大規模書店トップ 10」を扱っています。
ベトナムの書店はハノイでもホーチミン市でも沢山見てきましたが、大まかに分類すると一般書店と専門書店に2種類になります。その見分け方なのですが「経済系の翻訳書と心理(というか人間関係)系の本がやたらと多く、そして子どもが沢山いたら一般書店」の可能性がすごく高まります。一般書店の場合は言語学の専門書がある可能性は限りなくゼロに近いのですが、念のため語学棚のベトナム語辞典が売っている場所の奥を見ておきましょう(たまに掘り出し物が見つかります)。
専門書店ではスタッフに聞く
一般書店の他にホーチミン市には専門書を集めている書店も沢山あります。書店によってそれぞれ得意分野があるのですが、とりわけ人文系の専門書店は文学・歴史・社会学系などが混在しており比較的マイナーな言語学系の本は見つけにくいことが多いです。今回訪れた中では総合書店(Nhà sách tổng hợp)がその典型例です。
総合書店に入った途端に「ここは当たりかもな〜」と直感は働くのですが、文学や歴史の本がやたらと多くて言語学系の本が見つかりません。普段慣れている中国や日本の本屋なら表紙にある漢字一文字(例えば「言」とか「語」とか)でお目当ての本に気づくことができるのですが、ベトナム語はクォックグーというアルファベット表記のため表紙をサッと見ただけでは気づかないことが多いです。
では、お目当ての本がどうも見つからない時はどうするかというと率直に書店スタッフに聞くのが一番いいです。ベトナム語を話せることが前提だとは思いますが、ホーチミン市の書店はやたらと親切なスタッフが多く、こちらの目的がちゃんと伝われば店の隅まで本を探してくれます。ただ、こちらが探している本を正確に伝えるのは難しいため、私は以下のように噛み砕いた説明をするようにしています。
これは日本でもベトナムでも当てはまるのですが「言語学 (ngôn ngữ học)」ってそこまで馴染みのある学問ではありませんので、学問名だけ言っても具体的にどんな本を探しているのかイメージが伝わりません。なので、書名になりそうなキーワードを必ず補足するようにしています。
ここまで伝えられれば、もう大丈夫。店員さんが店中を動き回ってあっという間に言語学関連の本を集めてくれました。この書店だけでも8冊も買えて大収穫です!
ホーチミン市での書籍購入の醍醐味
こんな感じで気になる書店では店員さんに探している本を伝えて一緒に探してもらっていたのですが、ある書店で思わぬ掘り出し物に出会いました。それはベトナム統一(1976年)以前の南ベトナムで出版された文法書です。
これまで文献収集をしていたハノイでは南ベトナム時代の書籍なんて見たことなかったため、この時代の文法書が普通に出てきたのは大変驚きました。古書の値段はプレミア価格が上乗せされていて決して安くはないのですが、日本では大学図書館にも滅多に入っていない代物ですので迷わず購入しました。
首都ハノイと違い南部のホーチミン市は「経済の都」のイメージが強く人文系の学術水準はどうしてもハノイに及ばないという印象があるのですが、近代言語学は欧米を中心にして発展したことを踏まえるとアメリカやフランスとの繋がりが強かった南ベトナムの言語学者の影響力を全く無視することはできません。これからも「南ベトナム時代の掘り出し物」を探すためホーチミン市にはちょくちょく訪れたいですね。