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名前について


そのときは確か一(はじめ)という名前に関する話題で、雑談だったかTV番組だったか、本の一節だったか思い出せないんだけど、

「姓の画数に対して、あまりにも名の画数が少ない子どもは早死にする」

ということが言われていて、へぇと思った。

金田一一(きんだいち・はじめ)という、例としての個人名がサッと浮かぶあたり、直接にあの漫画内で交わされていた会話と言い伝えだったのかもしれない。

いや。
でもそんなことってあるか?

ちょっとあまりにも雑談すぎるけどな。
出典は分からずじまいです。
別でまったく聞いたことない言い伝えだし。
どこが出どころの情報なのかを思い出す旅は続く。


しかしまぁ、金田一一(きんだいち・はじめ)である。

これだと確かに、14画数の名字に対して名前がたったの一画で、極端だ。金田一守和(もりかず)だと14文字どうしで座りが良くなるが、こんな名前の奴が主人公の漫画にあんまり魅力を感じないかもしれない。守和(もりかず)、ちょっとあまりにも友だちのお父さんの名前すぎるから。

そこはかとなく死の匂いが、探偵から香っていることは別段 損なことでもないだろう。金田一少年の事件簿。ノベライズの本で、表紙のタイトルが事件薄(じけんうす)になってるやつがあったなー。嬉しくて小学生のとき、ブックマーケットというイルカのシルエットが看板に書いてある古本屋で買った。



そして、うーん。

うーん。

今のところなんとか四十路(よそじ)にはなれそうだけど。うーん。
四年以内に、不運にも、なれてなかったら、このnoteのこの部分をスクショして貼って、小粋なことでも言って、いいねをもらってください。私はあなたを軽蔑しています。くそが。

いしゃどう・ひとしは本名で、そのうえで刊行した本でもって、パイプカットしようか迷ってるとか、肛門にかかと落としを喰らったことがあるとか言ってるのだから、その分で履けている下駄があればいいなみたいなことは定期的に思う。

伊舎堂仁(いしゃどう・じん)と読まれることと、仁(ひとし)と正解してもらえることが日々 8:2くらいの割り合いである。

統計的には、仁(じん)読みの人はロマンチストな感じがする。

仁(ひと、し。)と置くように、優しく、言ってくれる人は、

だいじょうぶ、わかってるよ。

的に、そのあと微笑んでくれるような覚えがある。

仁(ひとし)読みをしてくれるタイプの人には応用力があると思うので、自分が会社を興すなら総務部で働いてほしい。仁(じん)読みの人は、コンサルでもやってもらおうと思う。月に一回のランチ会で、さいきん守りに入ってないかを叱咤(しった)してくれると嬉しい。
経理はぜったいに任せられない。だって、伊舎堂仁って文字列があって、「いしゃどうじん」って読む人ですよ?
おれが伊舎堂仁本人だから、ってことを抜きにしても「かましてくるなぁ」と思うもの。
でも、「いしゃどう」が音として強めだから、「じん」の濁音であわせてくれてるとかなのかな。

そっちはそっちで、瞬時の編集精神、みたいなのにおそれおののく。生きててあんまり、油断してない感じ。おれの言うことなんて通用するんだろうか。等(とう)を思う。

名づけてくれたのは、父でも母でもなく、父方の伯母だと聞いている。
会ったことが一度もない。
その事実を気に入っている。

二十歳を越えたくらいのころ、酔った父親が思い出すように「さちえ姉さんは(いちおう仮名)、子供に名前をつけることが今後無いかもしれないから、今度生まれてくるのに名前つけていいよー、って言ったさ」と話していたことがあって、この話すらそれっきりである。

父が、19で沖縄を離れたてのころに職を世話になったのが、この伯母が三重でやっていた中華料理屋だったという話までは聞いている。その恩として、自分にはこの名前がついた。
そっちじゃない方の理由、一瞬聞こえたわからない部分、もう一回は書かないけど、伯母に対してそう思うに至った理由も背景も謎めいている。

関係ないところで生きてて、生きてると心底(しんそこ)、調子に乗りたくなる瞬間も来る。そんなとき、自分の体がびっくりするくらい唐突に、この一連の話を思い出してみる。すると冷静になれる。そういう効果がある。
自分が生まれる前の世界の話は、井上陽水の良い曲のように、不思議な気持ちになる。

中野でスマホアプリを使っての配達中に、知らない番号から着信があったので出たら、このさちえ伯母さんだった。
仁~元気ねー、さちえ伯母さんだよー、というその人に、「ごめんなさいスマホを使う仕事中なのでいったん切らせてもらいますね……」と言って切り、配達完了のスマホ操作に戻った。

今思うといくらなんでもあんまりだと思うし、なんだったらそこから今は半年も経ってない。


自分の名付け親と初めて話すタイミングが、もとい、自分のつけた名前で動き回っている甥に、初めて電話をかけたタイミングが、非正規雇用の運送業でスマホを使ってる真っ最中だった、というのは、何よりの近況報告(そして、国が今どうなっているのか)になったのではないか、みたいなことを思う。

僕は伊舎堂 仁という者で、東京にいる。

むかつくことがいっぱいある。