テック好きに中国語学習をお勧めするワケ
「ギーク中国語講座」を始めて2年半が経ちます。きっかけはニコ技深圳観察会に参加し、一緒に参加した方から帰国後に「深圳に行って必要性を感じたので中国語を勉強したい」と相談されたことでした。
それからこれまで同じ志向を持つ仲間とともに勉強し、モチベーションを保つということを主眼にやってきました。しかしながら、実際に日本のメイカーシーンにおける中国語学習に対しどれだけ貢献できたのかといえば、実績らしいものはほぼ皆無です。その証拠に「ギーク中国語」はムーブメントになるどころかただの一度もパクられたことすらありません。
特に最近ではAI翻訳が進化し、これまで正確でないことも多かった日中間の機械翻訳が実用レベルになってきました。音声入力・出力で使える翻訳専用機やアプリも充実してきて、深圳の街で買い物をする程度なら中国語がわからなくてもほとんど不便することがなくなりました。
それはそれで素晴らしい体験だと思います。実際私も言語がわからない国に旅行したら大いにそれらを活用すると思います。でも、もう一度考えてみてください。私自身もそうですが、深圳に魅了されているギークの多くは旅行を楽しむために深圳に向かうのではありません。そこに人脈を作り、可能であれば自らのビジネスの発展に生かしたいという希望を持っているはずです。それであれば、やはり私は断固として中国語学習をお勧めしたいと思うのです。その三つの理由についてお話ししたいと思います。
●中国語の世界観とテックは好相性
第一に、中国のテック界がこれほど急速に発展した理由の一つは合理的な中国人気質とそれに強く影響される中国語の世界観にあると思うからです。もともと様々な技術は合理化を目指して発展してきました。現在私たちが使っている多くの「システム」はその賜物です。そして中国語は「より手短に意図が伝わればいい」という言語が持つ根源的な機能に対し、とことん合理化を推し進める言語です。ハイコンテクストで新語が次々に誕生し、またそれが省略されて定着していきます。一方でたった四文字に故事由来のエピソードを含意する成語(四字熟語)が豊富で、それも自在に使いこなします。まるで優れたシステムが適切に既存のライブラリやモジュールを組み合わせて軽快に動くよう設計されているかのように。中国語の世界を知れば知るほどテック系の技術との相性の良さを感じずにはいられません。
●漢字使いのアドバンテージを活かして速やかに一次情報にアクセス
第二に、相性のよさから急発展した結果、テック系の一次情報が中国語であることが増えていることが挙げられます。中国のテック系人材は桁外れに優秀な人が多く、英語圏に留学経験を持つ人も少なくないので、英語が堪能なケースは珍しくありません。それでもやはり彼らにとって母語は中国語。自分のメモ程度の意識で情報を書き留める際には中国語を使うでしょう。でもこれからそんなメモが革新的なアイディアとして世界を席巻するかもしれないのです。
これまで、日本のテック界が世界から立ち遅れてしまった理由の一つとして「英語を解さないから」という人がいました。私はずっと「そんなバカな、英語が堪能な人がマウント取りたいだけでしょ」と思っていました。でも、海外に目を向け、実際に中国の企業と仕事をするようになって、それがあながちハズレではないのではと思うようになりました。中国の技術者の多くは日本人の技術者よりはるかに自然に英語の文献を参照していたからです。考えてみると、日本人は外国語に対してハードルを感じやすい傾向にあります。通訳や翻訳者を目指すのではない限り、ある程度の「筋トレ」と慣れでそこそこ理解が可能になるのに、それすら取り組まないということは大いにありそうです。そしてその結果、世界から取り残されつつある…。中国の技術者を見ていると、それはとても説得力を持って私に迫ってきました。「これ以上日本が世界から取り残されないために中国語を理解する技術者を増やさなければ」焦りのような気持ちが今もずっと私の中にはあります。
もちろんこの問題も今後機械翻訳が発達すれば解決するかもしれません。でも、英語と違って中国語は「漢字」を使います。欧米人が苦労して漢字を学び、中国語の文献を読むことに比べれば、漢字を理解する日本人には大きなアドバンテージがあります。それを活かせば「発音できないけどざっと見て意味はわかる」というレベルにはすぐに達するでしょう。さらに欧米人より内容に対して素早く深く理解できる可能性もあります。漢字を使うのは今現在世界で中国と日本だけ。その利点を活かさない手はありません。
●中国語を話して中国人の懐に入る
最後に、これも中国人気質と関係しているのですが、中国人は中国語を話す外国人をとても歓迎します。特に発音が聞きやすいとなおさら歓迎されます。日本人は外国人がどれだけネイティブ並みの日本語を話しても「この人は外国人」という意識で接する傾向にありますが、中国人は中国語を話すことで一気に心の扉を開けて受け入れてくれることが多いです。これは私自身、中国で何度も経験しました。日本人だからと遠巻きにされていたのに、中国語が話せるとわかると急に私のそばに寄ってきて質問攻め、なんていうこともありました。そして、日本人の感覚では恐縮してしまうほど暖かく交流してくれます。こういった体験は中国語学習者の多くに共通するのではないでしょうか。
レベルに限らず、「中国語を頑張って勉強している」という事実だけで心のハードルを下げてもらえる。それはとてもコストパフォーマンスに優れたことだと思うのです。
以上が私が考えるテック好きギークに中国語学習をお勧めする理由です。ギークなみなさん、ぜひ取り組んでみてください。