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欧米巡遊雑記 明治の司法官が見たアメリカ ボストン 明治32年7月


はじめに

明治32年(1899年)7月1日朝にボストンに到着した仲小路廉らは7月7日まで調査のためにボストンに滞在した。ボストン滞在中に訪れた場所や見聞した内容を欧米巡遊雑記に記載している。

ボストン

「ボストン」市たる合衆国中最古の都府にして、最も貴き由緒を有し建国前後に於ける種々なる古趾遺跡を止む。さらに詩人の口に歌われ文士の筆に残る彼の「バンカーヒル」の古戦場は幾多米国市民の胸臆を鼓舞し、建国当時の苦辛を回想せしめたる。

欧米巡遊雑記米国之部

1775年6月17日に起きたイギリス軍とアメリカ民兵軍の戦いの舞台になったバンカーヒルに1843年に完成した記念塔。

バンカーヒル記念塔(2024年)

僅かに一橋を隔たる「キャムブリッジ」には米国文学の淵叢たる「ハーバード」大学毅然として立ち、有名なる「メモリアルホール」を初めとして、殿堂講堂建て列なり。森然青葉に隠れに見ゆる教授の邸第、軒を連ねたる学生の寄宿舎、擾々たる紐育に比し全く面目を一新するものあり。一般の士民極めて敦厚、風俗大に惇樸にして思想亦従て高雅、予叢に(ひそかに)思ヘらく紐育を商人とし華盛頓を官吏に比すれば「ボストン」は夫れ学者なるかと。

欧米巡遊雑記米国之部

「キャムブリッジ(ケンブリッジ)」(Cambridge)はチャールズ・リバー(Charles River)を挟みボストンの対岸にある。ケンブリッジには「ハーバード」大学の他にマサチューセッツ工科大学(MIT)もあるが、MITがボストンからケンブリッジにキャンパスを移転したのは1916年。それ以前は仲小路らがボストン滞在中に訪れた美術館(Museum of Fine Arts)の近くボイルストン・ストリート(Boylston Street)にあった。現在でもボストン周辺には数多くの大学や教育機関があり、世界屈指の学問の都である。

ロングフェロー橋(Longfellow Bridge)から見るケンブリッジ (2024年)

「メモリアルホール」(Memorial Hall)は、南北戦争で戦没したハーバード大学の卒業生を称えるために1877年に建てられた。

メモリアルホール(Memorial Hall)(2023年)

予輩か「ボストン」滞在中所謂「七月四日」(Fourth of July) 米国独立祭の日に遭遇し、戸々爆竹の音盛に起り、宏大なる「ボストン」公園には、人手の山を為し盛に打揚る烟華(煙火)何処も同し祭日の賑わひなりし。

欧米巡遊雑記米国之部

7月4日はアメリカ独立記念日の祝日である。ボストンでは、チャールズ・リバー沿いの屋外コンサートホール(Hatch Memorial Shell)で行われるボストン・ポップスフィルによる無料のコンサート、音楽に合わせて打ち上げられる花火が有名で、対岸のケンブリッジ側から見物する人も含め多くの人で賑わうイベントである。

7月4日独立記念日の花火(ケンブリッジ側より) (2024年)

後記

フリーダムトレイルはアメリカ独立に関係する歴史の名所16ヶ所を巡る約2.5マイル(約4.0km)の歩道です。仲小路廉らが宿泊したチューレインホテル近く、ボストンコモン(公園)を出発しバンカーヒル記念塔が終点です。(下の地図の赤線を巡るルート) 1901年頃にイェール大学に留学中の森次太郎がイースターの春休みを利用してボストンを訪れた際にバンカーヒル記念塔、オールドステートハウス(Old State House)、ファニエルホール(Faneuil Hall)など現在フリーダムトレイルに指定されている歴史的名所を訪ね、「欧米書生旅行」に記載しています。機会があれば、森次太郎の視点でフリーダムトレイルを巡ってみたいと思います。

国立公園サービス(National Park Service)が発行する無料のフリーダムトレイル地図




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