ベートーヴェンの《ミサ・ソレムニス》
ベートーヴェンの<ミサ・ソレムニス>作品123を聴くと、はたしてこれは典礼音楽(実際に儀式に用いる音楽)なのだろうか、という疑問が浮かんでくる。演奏時間の長さ、楽器編成の大きさ、演奏の難易度の高さなどは、宗教儀式に付随する音楽という枠組みをはみ出しているのではないだろうか。
同じような疑問にさらされる曲にバッハの《ミサ曲ロ短調》がある。演奏時間の長さや構成上の問題に、楽曲成立の複雑な事情も相まって、典礼用と言うには据わりがよくない。そのあたりのことを、前トーマス・カントル(トーマス教会音楽責任者)クリストフ・ビラーに尋ねた。彼は、なにをか言わん、という表情で「<ミサ曲ロ短調>を典礼音楽でないと思ったことはない」と話した。実際、歌手出身であるビラー自らが先唱(グロリアとクレドを導く独唱)を歌い、ミサ司式に則って音楽礼拝を催したこともある。
合唱団とオーケストラを統括する教会音楽監督、そしてバッハの後継者としての矜持が、彼にそのように言わせ、行動させたのだろう。ここでは、ベートーヴェンの《ミサ・ソレムニス》もまた「典礼音楽」だと言っておく。以下、その理由を考えてみよう。
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