ピラトをめぐる3つの層 ― バッハの《ヨハネ受難曲》

 《ヨハネ受難曲》をより深く理解するためには、「ピラトをめぐる3つの層」の問題に迫らなければならない。
 《ヨハネ受難曲》はその名の通り『新約聖書』の「ヨハネによる福音書」に題材を取っている。この受難曲の中心となるメッセージを伝えるためにバッハは、巧みな方法を使った。それは「調を大幅に変えながら場面を劇的に描き、重要なコラールやアリアをその場面の最終局面に置く」ということ。
 こうした手法が集中的に使われているのが「ピラトの審問」から「判決」にかけての場面だ。ポンテオ・ピラトは当時、ローマの属州だったユダヤを治めていた総督で、イエスを十字架刑に処した張本人。《ヨハネ受難曲》には「イエスに罪はないのではないか?」「この男は本当に神の子なのではないか?」と戸惑うピラトの様子が描かれている。こうしたピラト像には実は、3つの層が折り重なっている。

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