俺には『100日間生きたワニ』を観る義務がある
2020年3月
自分は間違いなく、漫画家きくちゆうきさんが起こした『100日後に死ぬワニ』のムーヴメントの中にいた
ワニくんがどういう死を迎えるのか、または迎えないのか、死が意味するものは何か
当時のTwitterは、毎日が考察で溢れかえっていた
結末としては呆気なくシンプルなものだったが
ある種の爽やかさがあった
以前、ベルギーで安楽死を選択した老人のインタビュー記事を読んだことがある
友人や家族に囲まれてシャンパンで乾杯した後に、天国へ旅立っていった老人は
生前、安楽死への恐怖を問われた際
「シャンパンの泡と共に消えるのが嫌だなんて人はいるかい?」と答えていた
ワニくんが死という結末を迎えたとき
まさに炭酸の泡が弾けたような感覚を覚えた
ゆっくり100日間、時間をかけて上がってきたワニくんという泡が
最終回を迎えた、あの瞬間に弾けて消えてしまったのだ
ただ、もうワニくんの物語を見ることはできないにも関わらず、悲しい気持ちは湧いてこなかった
ワニくんの人生は間違いなく幸せだったと確信を持てたからだ
100日後に死ぬとタイムリミットが設定されていた以上
ワニくんには、ヒロインやネズミくん、モグラ達と幸せに暮らす未来はそもそもなかった
限られた人生の中でワニくんは精一杯の幸せを掴んだのだ
当時『100日後に死ぬワニ』が最終回を迎えた直後、様々なタイアップ企画が発表され、感動の余韻に浸っていたファンからは多くのバッシングがあった
自分もワニくんが天使の輪っかを付けてプカプカ浮かんでいるのを見た時は笑うしかなかったが
作品自体に悪い部分は一つもなかった
あの頃、自分が熱狂した100ワニが映画化されたなら観るしかない
自分には100ワニを観る義務がある
その強い意志を持って今日『100日間生きたワニ』を観てきた
ーー以下ネタバレを含みますーー
映画の感想を一言で言うなら
「ありがとう」だ
青春時代の記憶は歳を取るにつれて朧げになるが
『100日間生きたワニ』によって
大切な記憶が鮮やかに甦り、いつの間にか自分の人生と重ね合わせながら観ていた
ワニくんとネズミ、モグラの些細な会話は物語と関係のないように思えるが
このなんてことのない日常会話こそが独身の男にとってかけがえのない大切な時間なのだ
コロナ禍で以前のように頻繁に友人と会えなくなった今
何をしたかではなく誰といたかが大切だったと気が付いた
今回の映画で描かれているのは平凡な恋愛に平凡な日常だ
本来なら漫画や映画の題材にはならないような日常がずっと続くが
平凡だからこそ
ワニくんが亡くなった後もネズミやヒロインたちは日々の生活の中で何度も思い出してしまう
原作ではワニくんが亡くなって物語は終わったが映画の後半ではネズミたちのその後が描かれている
ネズミたちは、ワニくんが亡くなったことに対する感情を出さないように努めており、悲しみからお互いを避けていたが
ワニくんと正反対の性格をしたカエルの登場により間接的にではあるが再び交流をするようになる
正直映画を観ながら「なんでこんなキャラクターを出したんだろう」と思ったが、カエル自身もネズミたちと同じ痛みを抱えていたことが明らかになる
やがてネズミは、これまで避けてきたワニくんとの思い出に向き合い、カエルと共に友人の死を乗り越える決意をする
思い出の丘で
かつて自分が入院中、ワニくんに元気づけられたのと同じようにカエルを励まそうとするのだが
ネズミもまたカエルを励ましながら
涙を流しつつ友の死を受け入れることができた
その後、ネズミがグループラインで皆へメッセージを送り、ワニくんの死から止まったままになっていた時計の針がようやく動き出したところで映画は終わる
今回の映画化で残された人たちがどう過ごしたのか、どう乗り越えたのかを知ることができて
感謝しかない
万人受けする作品ではない、むしろ人を選ぶ映画なのは観ていて感じたが
100ワニは間違いなく自分の人生を改めて考える作品になった
素敵な映画を作ってくれてありがとう
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