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【実話】バイト落ちた、QuizKnock◯ね【QuizKnock】
事の始まりは今年の三月。数年間の無職生活を経て東大に合格するも、どことなく漂うダメな感じからバイトに落とされ続けた私。着る服は拾ったものか数百円の古着。東大生の最高峰の知性とは対照的に見すぼらしい見てくれをしていた。そんなホームレス状態の私を見かねたのか、マザーがとあるバイト案件を持ってきた。
<受付終了>アルバイト募集開始のお知らせ(動画プランナー/デザイナー/謎解き制作) | QuizKnock【クイズノック】
QuizKnock。東大生の端くれとして名前だけは聞いたことがある。とはいっても聞いたことがあるのは名前くらいで、クイズ王の伊沢クンだかが立ち上げた東大生のクイズ集団であり、YouTubeでなんだかブイブイ言わせている、程度の知識しかない。
そうはいってもこの募集案件、よく見ていると「動画プランナー」やら「デザイナー」やら「謎解き制作」やら、何だか耳ざわりの良い文言が並んでいる。バイトは全て学生であるものの、前述した役職に作業が細分化されているのだという。どうやらQuizknockはただのYouTuber団体ではなく、れっきとした企業であるらしい。
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ふと、これまでの自分の人生が思い出された。深夜のコンビニやカラオケのゲロ清掃にビラ配りなど、数多のバイトを試して来たが何一つとして長期間続けられたことがなかった。この案件を眺めていると、「肉体労働はダメだったけど、もしかしたらクリエイティブなことは向いてるのかもしれない?」との思いというか思い込みというか勘違いがフツフツと湧いてきてしまった。どことなく漂う「なんだかクリエイティブ」な感じ、そしてQuizknockのネームバリューから漂う権威に誘われ、ついついこのバイトに申し込んでしまった。腐っても東大生、プライドをくすぐってくる権威には弱い。
バイトの募集と一言に言っても「動画プランナー」「デザイナー」「謎解き制作」三種類に職種が分かれている。恐らく目玉であろう「謎解き制作」に関しては、クイズ研究会での活動実績が求められており止む無く断念。そもそも脳みそが足りない。「動画プランナー」はYouTubeの企画立案に携わるらしい。良く分からないが、思い込みと思いつきには自信があったのでプランを考えるだけならなんだかできそうだとバカなりに考え、まずはこの「動画プランナー」に申し込んだ。それからデザインの経験はろくすっぽないものの、図工の成績が良かったことを思い出して「デザイナー」にも応募することに決めた。
一次選考は簡単なプロフィールを送るだけのもの。東大生という身分が効いてか、これにはどちらの職種も突破することができた。凄いのは私ではなく東大ブランドなのだが、呆気なく通ってしまったせいで絶対に合格してやるという奇妙な自信が生まれ、おまけに「私は絶対にこのバイトに受かるだろう」という謎のインチュイションを得た。
「元不登校で、グレて高校を中退してしまいましたが、今は東大で一応真面目に勉強しています。一度学業を諦めてから勉強の面白さに気付いた経験もあって、クイズノックのコンセプトにはすごく惹かれています。大学で出版サークルに所属しており、写真やデザインの経験が活かせるかなと思って応募しました。もし採用いただけた暁には全力でコミットしたいと思っています。よろしくお願いします。」
これが送ったプロフィール。今思うとただの痛い女なのだが、何故通ったのだろうか。
問題は2次選考だ。「動画プランナー」の選考では動画の企画をいくつか考えることを求められる。私に課せられたお題は既存のゲームを魔改造してクイズノックの企画にするという課題だったので、「ぐりこ」を改造するという案を出した。「グーで勝ったらグで始まる固有名詞を言って、その文字数だけコマを進められる」といったもので、かなりの自信作だった。しかし、人生でクイズを一回も齧ったことがないことに加え、そもそも友達がいたことがないので実際に「ぐりこ」をやったことがないのが察せられたのか、その後最終選考の知らせが来ることはなかった。私は「動画プランナー」をすっぱりと諦め、こうなったら私の天職はデザイナーだろうという根拠のない確信をもって「デザイナー」部門の選考に一本集中することに決めた。
しかし、デザイン経験はといえば中学校の美術の授業くらいで、デザインソフトなどろくに触ったことがない人間はどうやって戦えばいいのか。窮地に追い詰められた私が真っ先にしたこととは、QuizKnockの主・伊沢について知ることだった。
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何を隠そう、この私はYouTube廃人の母にこのバイトを勧められるまでQuizKnockの動画を一本も見たことがなかったのだ。QuizKnockという団体の存在は知っていたが、鶴崎くんもこうちゃんも知らなかったし、伊沢のことすらもフワちゃんのお友達のインテリというくらいにしか認識していなかった。それではQuizKnockのバイトに受かるわけがない。伊沢を制するものはQuizKnockを制す。クイズマスターにはなれないのならば、せめて伊沢マスターになってこの選考を勝ち抜いてみせよう。
伊沢。1994年5月16日生まれ。
伊沢。ワタナベエンターテインメント所属。
伊沢。伊沢。伊沢。
「伊沢拓司」でネットサーフィンをすること早数時間。
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QuizKnockの動画も見たことがなかったので、YouTubeに上がっている動画を半分まで見た。抱いた感想は、「伊沢すごい」。基本的に学歴コンテンツが嫌いなのと、「ダサい東大生が頑張ってクイズに青春かけてるのかな」と勘違いして視聴する前はなんとなく見下していた。実際に見てみると、私の相手なんぞしてくれないであろうモテそうな高学歴男子たちが鮮やかな知性を振りかざしている、なんかみんなあたまのかいてんがはやくてすごいとおもった。本当にダサいのは私の方だったと思い知らされ、心にヒビが入る。
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伊沢マスターの道を着実に歩み始めた私は、デザイナー選考におけるポートフォリオの作成にとりかかり始めた。ポートフォリオなど作ったことがないのだが、まあクイズノックのロゴの亜種みたいなものを作ればいいんだろうと解釈した。
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伊沢の息吹が感じられるような、そんなデザインを意識した。
そして私は、最終選考まで辿り着いた。最終選考の課題はわざわざzoomが開かれて口頭で説明されたのだが、そのとき私の他には5人の候補者が参加していた。クイズノックについて全くの無知だった私が、6分の1の確率で当たるクジをついに手にしたのだ。伊沢マスターを目指すという選択は間違っていなかったのである。
最終選考の課題は二つ。一つは与えられた素材を利用して架空のサムネイル画像を作るというもの。YouTubeをご利用の皆様はお馴染みの、デカい文字とデカデカとした顔写真でいっぱいになっているアレである。
もう一つは動画内で使われる画像を作成する課題。なんだか良く分からないが、あみだくじを作らされた。送られてきたファイルの中には、何十枚ものクイズノックメンバーの写真が詰め込まれている。なんと、この課題のためだけに作成されたものなのだという。つまり、このバイトに応募しなければ決して目にすることのできない、門外不出のレア写真。配布された素材のファイルを前に、私は感動に震えていた。このファイルを開けば、ここだけの伊沢が見れる。それはもはや私だけの伊沢。私は震える手で、恐る恐るファイルをクリックした。
こい、伊沢!
え?
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お前かよ!
送られてきたのは伊沢でなく鶴崎。哀しみに満ち溢れた私。溢れ出す涙が、画面上の鶴崎の顔を歪ませていく。いつものように無邪気に笑う鶴崎が、今日だけは悪魔に見えた。
しかし、ここで諦めたら今までの伊沢が全て無駄になってしまう。私はまず最初のサムネイルの課題から着手し始めた。
作業を始めてすぐ分かったことは、「この課題、差が付かない」ということだ。フォントも色も画像もある程度指定されており、用意されているものを組み合わせて並べるだけ。サムネイルに要求されている構図も決まっていたため、私のクリエイティビティを発揮する余地は無い。あまりの腹立たしさから、送られてきた鶴崎の頬に丸を書いて遊んでいた。そこで、もう一つの画像制作で差がつくと踏んだのだ。かなりこだわり、真面目さをアピールするために2パターンも用意した。
さすがにこれで受かっただろうと高を括っていた。「これだけ頑張ったから流石に受かるだろう」と余裕綽々、数週間の待機期間を鼻歌交じりでルンルンに過ごしていた。「今までバイト何してたの?」と訊かれ、「いやあ、カラオケのゲロ掃除とかっすね」と言ってドン引きされる人生からはもうおさらば、私は東大随一の頭脳集団「QuizKnock」の一員なのだ…….。頭の中を流れるドリーム。期待に満ち満ちたアタシに帰って来たメールがこれ。
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バイト落ちた、QuizKnock死ね。
文責【鈴木光宙】
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