転職フロンティア | 虚構OLエッセイ(5)
転職したくない?
職をゴロンゴロン転がしたくない?
なぜ転職がしたいか。
今の会社は悪くはない。超ホワイトだし。
もうね芸能人の歯かってくらいの真っ白。
マネジメントはしっかりで理不尽な残業はなし。
残業してもちゃんとお金がもらえる。
人間関係の方はどうか。これも悪くない。
上司も同僚もいい人。協調性がありつつ自主的、前向きでなんか輝いてる。
もうね芸能人の歯かってくらいのまぶしい人たち。
そんな恵まれた環境にいて何を変えたいのか。
なんだろうと考えると論理的に導かれる答えは1つ。
自分ね。自分のクズっぷり。
仕事ができない私にも周りは優しい。嫌がらせ一つないの。
誠実な叱咤ってされたことある?
竹中直人の笑いながら怒る人、あれのオフィス版が見れるの。
周りがキラびやかであるほど、浮き彫りになる自分のクズさ。
なんつーか、きれいな歯の中にくすぶった虫歯が1本ある感じ?
私も会社自体は好き。
だから「虫歯を治療していこうぜー」と思うわけ。
でも周りは「そんなダメな歯でもウチはちゃんと受け入れるよ」的な態度。
「そうですか、じゃあ虫歯の自分が出てくわ」って感じ。会社愛だわ。
もうね、終着駅でメーテルとお別れした哲郎の気持ち。
「別れも愛のひとつ」だとか言って999に乗って新たなジャーニーに出ちゃいたい。
そんな感じで、転職の旅に出ようかなーどうしよっかなーと。
となったら、googleでダーマ神殿を検索するしかないでしょ。
で、神官にさ「すいませーん、次の職業『遊び人』にしたいんですけどー」って。
ダーマ神殿、検索ポチッ。
もしかして:ハローワーク?
なんて検索結果が。愚かな人間を機械が導いてくれる日はすぐそこね。
じゃあ、ってんでしかたなく検索上位にあった転職サイトを開くわけ。
そしたらね、転職サイトの職種に「遊び人」がないの。
一番近いのはパチンコのホールスタッフ。
ちょっと職種、少なすぎない? ガストのメニューの方がよっぽど種類豊富。
ハンバーグだけでどれだけ種類あると思ってるの?
職業選択の自由ってやつをさジャキーンと振りかざしたいのに、転職サイトから自由さの微塵も感じない。士農工商から多少職業が増えた程度で自由と言い張ってるだけ。
そうね転職サイトを当てにしたのが間違い。
転職・就職サイトは、業務に役立つ資格とりまくって会社の歯車になりたがる、何かを見失った方々のためのサイト。レールに乗ったようなジョブシステムね。
ゲームだってもう一本道じゃないオープンワールドの時代よ。
私は歯車になる運命を終わらせる道を選ぶわ!メーテルと!
ってわけで、「新しい職業」でググる。
まー、あるわね。
eスポーツ選手、恋愛アドバイザー、ユーチューバーコンサル、ドローン操縦士、マナー講師、データサイエンティスト、…エトセトラ。
新たな肩書、その人だけの唯一無二の職業もあるくらい。
いいわねフリーダム。これぞ職業選択の自由!
ってことで、私も自分で新たな職種の開拓を!
しかしながら新しい職業たるもの、新しい需要もなければならないのが最大のハードルよね。誰も見ないユーチューバーに何の価値もないように。
でも策はある。
マナー講師って知ってる? それと同じ作戦をとるの。
マナー講師って、でっち上げた新たらしいマナーを声大きく世間に啓発することで、マナーを学ばせるマナー講師としての仕事を発生させるという、マッチとポンプ、いわば放火魔の消防士みたいな職業じゃない?
自分で価値ある仕事を創り出す、なんてクリエイティブなの。
でねでね、思いついた新たな職業がこれ。
「ハラスメントカウンセラー」
新たな〇〇ハラスメントをでっち上げ、その悩みの解決を目指すお仕事。
でっち上げた〇〇ハラスメントに悩むを人々へむけ広く訴えかけるの。
会社とか学校に直接ハラスメント防止ポスター配ったり、メディアに新ハラスメント紹介記事を投稿したり、インフルエンサーのハラスメント発言をパトロールしたりね。
で、そのハラスメントについてのカウンセリングしたり、啓発セミナーを開いたり、本とか出したりして回収するの。そういうマッチポンプな仕組ってわけ。
カウンセラーたるもの、相談を受け付けるのがメインのお仕事。
ハラスメントの卵となるようなモヤモヤとした嫌な気持ちを抱えた人がターゲットね。
きっと、こんな相談が来るの。
「職場で正論ばっかり言って、全然私の気持ちを配慮せず言うことを聞かせてくる上司がいるんですよ、どうしたらいいんでしょう」
あらあら、それは良くあるハラスメントですね。ロジハラです。ロジックハラスメント。
仕事など物事を進めるにあたり、感情を排除して論理的な正論で押し通す人に対する不快感や嫌悪感のことです。さぞ嫌な思いをされたでしょう、辛かったですね。
でも大丈夫。処方箋として、「気持ちを考慮できない物言いに心が傷つきました。ロジハラです。人としてコミュニケーションに支障があると判断せざるを得ません。」をお出しするので使ってみてくださいね。
次の方どうぞ~。
「上司との会話が苦痛なんです。そのダジャレやモノマネとかパロディを使って連絡や会議を進めてきて…。あれがとても辛いです。この間の会議でもとある仕事の問題をガンダム?のキャラクターになりきって説明していたんです。『戦いとは常に二手三手先を読んで行うものだ』とかなんとか。平成生まれにそんな古典わからないのに、ホントに鳥肌モノです」
オヤジギャグとかによる凍りついた空気よる不快感は昔からあるけど、パワハラとは違うタイプのハラスメントであることは間違いないわね。言っちゃえば、ギャグハラ、もしくはパロハラね。笑いという心地良はずの感情の強制による苦痛、お気持ちをお察します。
でも大丈夫。処方箋として「寒いパロディによる不快感を受けました。パロハラです。言ってる自分に悦はいっているだけの一方的なやりとりが笑えると思えますか?」をお出しするので使ってみてくださいね。
次、最後の方どうぞ~。
「うちの会社のね若い子達がね、やれセクハラだの、ロジハラだの、パロハラだの、とにかく嫌な感情にハラスメントと名前をつけて過剰に反応するんだよ。非常にコミュニケーションを取るのが厄介になってきている。一体どうしたらいいんだ?」
あー、ハラハラですね。ハラスメントだらけによるハラスメント。
会社のなかでハラスメントになるようなことが横行しているのかもしれません。
社内研修として「ハラスメントセミナー」をするのはいかがでしょう?
…、みたいな。そんなハラスメントカウンセラー。
でもね、新しい職業を妄想してるうち本当になりたい職業がわかったわ。
妄想家ね。「妄想しているだけ高収入」が謳い文句のお仕事。
もちろんバニラか妄想家かってくらい♪高・収・入!
あぁ。そんな仕事、ダーマ神殿で選べないかなぁ。